もの派を代表する美術家として世界的に活躍する李禹煥(リ・ウファン)の大回顧展が、国立新美術館で開催されている(2022年8月10日~11月7日。兵庫県立美術館<12月13日~2023年2月12日>に巡回)。日本では17年ぶりであり、1960年代の最初期の作品から最新作までを網羅的に展開される、初めてにして最大の回顧展をクリエイティブディレクター佐藤可士和氏と巡り、その魅力を聞いた。

「李禹煥」展展示会場にて 撮影/小泉賢一郎
「李禹煥」展展示会場にて 撮影/小泉賢一郎

――今回、李禹煥展が開かれている国立新美術館の企画展示室1Eは、2021年春に「佐藤可士和展」が開催された場所でもあります。新型コロナウイルス禍の影響により会期途中での閉幕になったにもかかわらず、入場者数15万人超の人気を博しました。同じ会場で「李禹煥」展をご覧になっていかがですか?

佐藤 可士和氏(以下、佐藤) 今回の展示はほぼ100%、李先生が構成したそうですから、まさに国立新美術館の空間ごと李禹煥の作品として味わえる展覧会ですよね。2000平方メートルもの広さがあって、仕切りの壁をすべて動かせるので、展示スペースの形や並べ方まで構成を自由に考えられる。佐藤可士和展も空間をゼロから発想してつくりましたけれど、この展覧会の空間自体も李先生によるセルフプロデュースと言えます。美術館のキュレーターが再編集する展覧会も面白いですが、作家自身が自分をプロデュースする展覧会は、生きている間にしかできない、存命作家展の醍醐味だと思います。

 今回の展示で、僕が特に好きだったのは、プロローグで展示されていた『風景』という3連作です。1968年に東京国立近代美術館で行われた「韓国現代絵画展」に展示した作品でしたが、オリジナルは現存せず2015年に再制作されたそうです。本格的にアート活動を始めた作品として先生自身が位置付けている。そうした本当に初期の作品から最新作までが、ほぼ時系列で網羅的に見られる。李禹煥という作家が、自らの活動を通して日本での現代アートの歴史を伝えていく使命みたいなものをもって、対峙した展覧会だと感じます。

李禹煥『風景I, II, III』
1968/2015年/スプレーペイント、キャンバス/個人蔵(群馬県立近代美術館寄託)photo:Nobutada Omote/展覧会冒頭を飾るのはごく初期の連作。巨大な蛍光塗料に塗られた画面に囲まれると、視覚がかく乱されるように感じる
1968/2015年/スプレーペイント、キャンバス/個人蔵(群馬県立近代美術館寄託)photo:Nobutada Omote/展覧会冒頭を飾るのはごく初期の連作。巨大な蛍光塗料に塗られた画面に囲まれると、視覚がかく乱されるように感じる

――そもそも佐藤さんが李禹煥作品と出合ったきっかけを教えてください

佐藤 僕が多摩美(多摩美術大学)の学生のときに、李禹煥先生が客員教授で、特別講義を聴いたことがあります。当時から先生の作品が好きで、あちこちの展覧会や海外の美術館でも見てきています。特に絵画と空間の関係性を表現され始めた頃からの作品にひかれます。ポンポンポンと描かれた僅かな要素で、描くことと描かないことの間にある空間や関係性が表現されているものが好きです。

 僕がクリエイティブディレクターとして行っていることと表層的な活動としては全然違いますが、空間性とかミニマルを意識している部分は、先生がやってきたことに、知らないうちに空気のように影響されていると思います。平面である絵も、絵=ビジョンを描く、世界観をつくるという意味で、実は空間を表現しているんですよね。

――どんなところに魅力を感じますか?

佐藤 李先生は、石や木、鉄など、もの(マテリアル)にほぼ手を加えずに提示した、もの派といわれます。しかし、単にものを置いているだけのようでいて、「存在させる“場”と共に“もの”がないと意味がない。現代社会ではものだけを捉えて考えがちですが、実はそうじゃないでしょ」ということを、李作品は言っているのだと思います。例えば野外彫刻の『関係項―ヴェルサイユのアーチ』(原型は14年にヴェルサイユ宮殿で初公開された)は、アーチをそこに存在させることで空間や空を感じたり、通り抜けることで非日常を感じたりする。つまり、ものの存在によって、周りが意識できるようになるということが肌で感じ取れる。

 李作品の空間への意識やものと場の関係性に、僕はシンパシーを感じるから、いっそうひかれます。

 僕がやっていることはコミュニケーションのデザインで、その方法論としてブランディングやデザインがあります。そういう意味でいうとすべての仕事は対話という関係性をつくることにつながります。企業のブランディングを担当することは、企業と社会のコミュニケーションをクリエイティブの力を使って、より良くしていくことなので、関係性については常に考えています。(僕にとっては)時代や社会がキャンバスなんですよね。

李禹煥『関係項―ヴェルサイユのアーチ』
2014年/ 石、ステンレス/作家蔵  photo: Archives kamel mennour, Courtesy the artist, kamel mennour, Paris, Pace, New York/フランス・ヴェルサイユ宮殿を舞台に開催された個展で展示された巨大アーチ型の野外彫刻が、東京・六本木の国立新美術館ヴァージョンとして登場
2014年/ 石、ステンレス/作家蔵 photo: Archives kamel mennour, Courtesy the artist, kamel mennour, Paris, Pace, New York/フランス・ヴェルサイユ宮殿を舞台に開催された個展で展示された巨大アーチ型の野外彫刻が、東京・六本木の国立新美術館ヴァージョンとして登場

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