個性的な生産者をネットワーク化する食品スーパーの福島屋(東京都羽村市)。デパ地下をプロデュースするなど、再開発ビルのテナントとしても引っ張りだこだ。新型コロナウイルス下で存在感が高まったスーパーの今後はどうなるのか。福島徹会長は「オーガニックは当たり前。次なる価値はアートとのコラボにある」と力説する。(聞き手は日経MJ編集長 永井伸雄)
福島屋 会長
オーガニック超えた先を模索
――オーガニック食品コーナーがあるスーパーは全体の4割にのぼります。福島さんは「ビヨンド・オーガニック」を提唱していますね。
福島徹氏(以下、福島氏) コロナ禍、戦争もあって、物価も上がっている状況でも、スーパーマーケット業界はもっぱら、チラシ打って販売計画を立てて、こうやるという事業スタイル。売買差益を取っていくということだけでは、僕は納得できない。どうやってコストをかけたらいいか、ここ2、3年くらい模索してきました。
オーガニックも、まあ浸透してきましたが、最近は、ビジネスベースになりすぎているような気もします。ストーリーを作ろうというマーケティングばかりで、かえってストーリーになっていない。
――売り手の問題でしょうか。
福島 農業とか酪農とかの生産者のなかからは、スーパースターが出てきています。でも、小売りにはあまりいません。競りが廃れてきて、目利き力がすごく衰退してきたなと感じます。
2021年、東京芸術大学の食堂を請け負うことになったんです。(段ボールを使った作品などで知られる美術家)日比野克彦さんがとても面白くて。4月に学長になったばかりですが、先週も会ってきたんです。『アートという視点でコロナ禍と向き合う』というんです。食の売り場で考えてみました。おいしいのは当たり前。お客様も店に行くと、なんか気分がいい、この店を選んでること自体が美しく思えるようなシチュエーションを作りたいと、日比野さんに言ったんです。さりとて理想論はダメで、予算組んで食堂をリノベーションしましょうと。
――スーパーの店舗もアート空間にしていくということですか。
福島 これから変えていきたいんです。我々だって芸術家なんだと。安い、栄養がとれるといったスーパーとしての機能は必要ですが、そのうえでどう表現していくか。いろいろな人たちがコミュニケーションをとる場を作りたい。
僕のところには今、5つぐらい大きな(再開発)プロジェクトがきていますが、どうしようかという状況です。昨日も、豊後水道で水揚げされたカツオがJAL便で届いたんですよ。これがうまいんだ。血抜きをしっかりしてあって。僕らは、真剣に仕事に向き合っている人たちと仕事ができるのか。今後は品ぞろえを絞り込もうと思います。20アイテムある調味料なら、使い方、原料などを考えて5アイテムくらいにするようなMD(商品政策)が必要でしょう。
――食のセレクトショップになるんですね。
福島 そうです。店がブランドになる。生産、デザインというスキルを持った方と一緒にやって。直接取引する生産者も今、200ぐらいですが、今後は、だいぶ減るかもしれません。いいものを作れば(コストが)高くなりますが、高く売るとなるとスキル、ブランド戦略が必要です。
――松山三越のデパ地下をプロデュースしましたね。
福島 今のところ、ダメですね。僕も売り場の運営会社の代表取締役になって積極的に取り組んだんですが、どうも依存してくるなと思って。従来型のデパ地下では面白くない。ポップアップとか使いながら、地域の方たちの事業の再構築につながるようなイメージでした。焼き物や和紙などスキルを持っている方が相当いるので、地域の食文化をプロデュースしていく。さらにインキュベーションという役割も必要でしょう。これから立て直していきます。
――何が足らなかったのでしょうか。
福島 現場力。やっぱり目利きで仕入れて、魅力ある陳列方法で並べていく。ある程度の計画ができても、その計画を現場で消化できないし、形にできない。
とにかく人づくり、芸大も頼りたい
――日比野さんじゃないですが、イノベーションを起こすには、異業種とコラボしないと。
福島 そうですよね。角度が違う人とのコミュニケーションは本当に面白くて。実は日比野さんからも、いろいろな人と会いたいから発信拠点を作ろうか、という話もあるんです。楽しみですよ。
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