松屋が百貨店の新たなビジネスモデルづくりに挑んでいる。臨時休業や営業時間短縮など、コロナ対応に追われるなか、「鬼滅の刃」展や「尾崎豊」展など話題の催事を次々に仕掛け、他の百貨店などに巡回する必勝パターンを生み出した。秋田正紀社長は「店舗は集客だけなく、松屋ブランドをGINZAから地方へ、世界へ発信する場」と力強く語る。(聞き手は日経MJ編集長 永井伸雄)
松屋 社長
「ねぶた」で装飾、店内に非日常感
――コロナ禍で百貨店は一時、窮地に追い込まれました。
秋田正紀氏(以下、秋田) 一番厳しかったのは営業そのものができなかったことです。ネット対応が遅れたことも響きました。でも休業して1カ月ほどすると、外商のお客様を中心に「早く店を開けてほしい」という声が相次ぎました。店舗営業を再開すると、お客様がどっと来られたのです。涙が出るほどうれしかったですし、百貨店が生活に欠かせない存在だと改めて実感しました。
コロナ禍で百貨店ビジネスの基本だった集客が難しくなった半面、来店したお客様との接点は濃くなりました。今後は1人当たりの買い上げ単価を上げ、買い回りを増やすことが重要です。
――ネットで代替できない実店舗ならではの価値が見直されましたね。
秋田 はい。まずは店内に入ったときの雰囲気です。「ねぶた」など地方の匠(たくみ)の技を店内装飾に使ったりして、お客様に非日常を感じていただくようにしました。
(外商などお得意客向けの催事)松美会の会場を見渡して気付いたのですが、お客様は以前よりも買い物自体を楽しんでいます。パーティーや旅行など、普段通りの生活が送れるようになれば、もっと買い物も進むかと思います。
――ラグジュアリーブランドなどの消費は好調ですね。
秋田 すごく伸びています。インバウンド(訪日外国人)が押し寄せていた頃の売り上げを上回るブランドもあるくらいです。(コロナ禍で)海外旅行に行けなくなり、今まで海外でブランド品を買っていた日本人顧客が来ています。特に20~30代の若いお客様を多く見かけます。
――経済同友会で地方創生に取り組んでいましたが、コロナ禍の地方経済をどうみていますか。
秋田 実際に調査・研究したところ、がんばっている企業がたくさんあることがわかりました。足らないのは発信手段です。大都市の百貨店で地方産品を扱い、発信の手伝いができないかという発想から、「ねぶた」や徳島の藍染め「BUAISOU」とのコラボが生まれました。うまくいけば職人さんの仕事が増えますし、コロナ収束後の観光支援にもつながります。
――地方とのコラボといえば、紳士服の催事「銀座の男市」を富山県の百貨店「大和」で開催しました。
秋田 初めての試みでしたが、目標予算は達成しました。ほかの百貨店からもオファーがきていて、把握しているだけでも4件。実はテレビ通販でも地方のお客様からの反応はとてもいい。コロナ以前よりも東京、銀座への関心が高まっているのではないでしょうか。
今、特に力をいれているのは展覧会です。銀座のお店で開催して、成功すると、百貨店だけでなく、各地の美術館からも、ものすごく引き合いがあります。
「鬼滅」や「尾崎」、盛況に手ごたえ
――もともと絵本の原画展など、コアなファンが多い催事を得意としてましたしね。
秋田 今は企画段階から参画し、我々も権利を持つ催事が増えています。「鬼滅の刃」展は21年、大成功して、今年も前売り券がすぐ完売になりました。(スマホゲームの)『ツイステッドワンダーランド』展は若いお客様を中心にものすごく人気でした。
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