キユーピーは卵をふんだんに使ったマヨネーズの会社だ。だが代替卵の「ほぼたま」、あらかじめ殻をむいた新タイプのゆで卵など、時代に応じた超・卵戦略を練っている。2022年2月に社長に就いたばかりの高宮満社長は「卵の価値を分かっているからこそ、新たなプラントベースの卵商品を市場に出していく」と常識の再定義に挑む。(聞き手は日本経済新聞社 編集委員 中村直文)
価値と価格が購入の決め手
――新社長の持ち味は何でしょうか。
高宮満氏(以下、高宮) 私自身、営業の経験も生産の経験もないんですよ。研究所が一番長くて、あとはマーケティング、商品開発、ファインケミカル、(子会社の)キユーピータマゴで仕事をやってきました。数字をもってお客様に行く経験とか、ラインに入ってモノをつくる経験はありませんが、それが強みと考えています。
というのも、変化しなくてはいけない時代だからです。我々は強い商品があり、それをお届けする仕組みやブランドを持っています。すごい財産ですが、それだけではない価値観が大事で、既成概念を知らないことが絶対にプラスになる。
――立候補したわけではないですから、高宮さんを選んだのはキユーピーという企業の意思だったということになりますよね。
高宮 (理由を)そこまで詳しくは聞かなかったのですが、変化したいということは間違いないです。先日の支店長会議の冒頭で話をしたのですが、営業はこれまで開発、生産、ロジスティクス、最後が営業とアンカーみたいな位置づけだったと。しかしこれからは営業が先頭バッターだと、一番お客様に近いのでその変化を捉えることが大事な仕事だと強調しました。
――確かにメーカーは一般的にユーザーから遠い存在です。
高宮 長くマーケティングをやっていて最終的には、購入の決め手は価値と価格のバランスだけだと考えています。買うのをやめておくのはお金以上の価値がないときですよね。それをどこまでやれるか、シンプルですが、意外と難しい。
日本経済が成長を続けるなか、マヨネーズやドレッシング、ジャムやパスタソースで強い商品を持っていました。このため、自然と成長していましたが、ここ10~15年は変わってきました。市場は成熟し、お客様の価値観も変わる。卵、サラダ、調味料など、モノ中心の志向ではお客様との距離が生まれる。そこで市場担当制に切り替えました。お客様に対して向き合うというのを強く自覚しないといけない。
――縦割りの風土を変えるのは、難しい。
高宮 1990年代後半にパッケージドサラダの「サラダクラブ」を始めたとき、「野菜をカットしただけで市場に評価されるのか」という議論がすごくあった。メーカーの視点だと「キャベツを千切りにしただけだろ」なんですが、廃棄物が減るなど価値が生まれ、マーケットがどんどん伸びています。
あらかじめ殻をむいてある「ゆでたまご」も同じです。私はキユーピータマゴという、ゆでたまごを何億個もつくっている会社にいました。1個20、30円の業務用が中心だったのですが、長南収(前)社長が家庭用でやりたいと。そこには価値があるんだと。ミッションが「殻をむけ」と、柔らかさ、日持ちでした。
コンビニにゆで卵はありますが、あれは全部殻付き。当社のゆでたまごは面倒な殻むきをなくし、手が汚れるからスマホできないといった課題を解決します。ですから大学生協で人気です。トラック運転手の需要も多いそうです。殻付きだと、運転席の下に殻がたまるらしいんですよ。
卵を使わない卵 葛藤超えて発売
――社長になってから、新たな気づきはありましたか。
高宮 若い世代との価値観の違いを感じています。例えば「最近コロナで会食ないけど、残念だよな」と言うと、「正直いってラッキーです」と。話したかったら話すし、SNS(交流サイト)もあるし、プライベートを充実させる。
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