焼き鳥居酒屋「くふ楽」「福みみ」などを展開するKUURAKU GROUP(クウラクグループ、千葉県船橋市)は2023年4月から正社員の給与を平均14.3%引き上げた。その原資は5年前から仕掛けた5割超の値上げ。「中小チェーンでも値上げと賃上げの循環は実現できます」と福原裕一社長。要となったのは、客離れへの社員の恐怖を解きほぐすことだった。

※「日経MJ」2023年4月14日付記事「値上げのキモは恐怖の払拭」を再構成したものです
「串焼BISTRO 福みみ 銀座店」には10人を超えるインバウンドが連夜列をなす(左は入社8年目のネパール人の店長、アチャリヤ・ビジャヤさん)
「串焼BISTRO 福みみ 銀座店」には10人を超えるインバウンドが連夜列をなす(左は入社8年目のネパール人の店長、アチャリヤ・ビジャヤさん)

 地下鉄京橋駅近くにある「焼鳥くふ楽銀座総本店」。3800円だった客単価は、21年3月の業態変更で6500円まで上がった。

 焼き鳥には「岩手県産みちのく清流鶏」と産地を明記し、焼き鳥の単品の代わりに5、7、9本のコースを前面に打ち出した。飲み放題もやめ、70あった席数は40に絞り高級感を出す。9割は予約で埋まるようになり、損益分岐点は月800万円から同500万円台まで下がった。

70あった席数は40に減らし、高級感を演出した(業態転換後のくふ楽銀座総本店)
70あった席数は40に減らし、高級感を演出した(業態転換後のくふ楽銀座総本店)

 「飲食店メニューの適正価格とはいくらだろうか」。福原社長が値上げを模索し始めたのは5年ほど前だ。

 きっかけは04年にカナダに開いた焼鳥店の存在だった。開業当時の客単価は2000円台、アルバイトの時給は800円程度で日本とほぼ同水準だった。それが今では客単価は5000円台を優に超え、アルバイトの時給は2倍に上昇している。

 値上げが難しい国と言われてきた日本にも、いずれカナダのような値上げ・賃上げの波が来ると感じていたという。

 そこで仕入れ先の変更のほかに共同購入、値上げなどで原価率の削減にコツコツと取り組み、新型コロナウイルス禍で一時期業績が悪化するも、2500万円のキャッシュを生み出した。飲食店の人手不足が一段と深刻化した今、人への投資という経営姿勢を明確に伝えるため生み出した原資をほぼ賃上げに当てた。

客離れ? うちの商品に自信持とう

 30人超の社員1人あたりの平均賃上げは月約4万円。ベトナム人の社員は「母国の母がとても喜んでくれました。私も頑張れる」と笑顔をみせた。大卒の初任給も25万円から30万円に増やし、社員向けに個人投資の教育も始めている。

 中小にとって仕入れ先の変更はタフな交渉の連続で、値上げも「現場が抵抗しました」(福原社長)。値上げ=悪で、安い=正義という空気がいまだあるなかで、客が離れ、売り上げが下がるとの恐怖心が拭えない。社員がそんな気持ちのまま値上げしたら、客に自信のなさとして伝わり、失敗するのがオチだ。

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