視覚×触覚、嗅覚×聴覚……。「クロスモーダル」と呼ばれる五感の相互作用を、商品などに活用する取り組みが広がっている。認知科学や脳科学の分野で研究が蓄積され、それを応用できる技術の進歩を受けて企業が実用化に乗り出した。調味料を足さずに美味に。空調温度を下げずに涼しく。脳がうっかりだまされる、驚きの体験が生まれている。

※「日経MJ」2023年4月10日付記事「五感を掛け算、脳びっくり」を再構成したものです
五感の相互作用を示す「クロスモーダル」。活用事例が増えているというが、生活をどのように変える可能性があるのか
五感の相互作用を示す「クロスモーダル」。活用事例が増えているというが、生活をどのように変える可能性があるのか

 「きょうは少し寒いですね」。ビルの一室で太宰龍太さんはタブレットを取り出した。調整したのは空調の温度ではなく、照明の色だ。白っぽかった天井の照明の色が落ち着いたオレンジ色に変わった。心なしか温かさを感じる。「照明の色を変えると体感温度が2度も変化するんです」

 ここはビルや工場の計測機器を手掛けるアズビルの研究開発拠点。2022年に竣工した棟の食堂や会議室には、照明と空調を掛け合わせた最先端システムを導入した。人によって快適と感じる温度は違う。何度に設定するかでもめた経験は誰にでもあるだろう。「暑がりの人は奥の青色照明、寒がりの人は手前のオレンジ照明の所に座るといったことも可能になります」とマーケティング本部マネジャーを務める太宰さんは言う。

赤はなぜ熱い? 照明の色で体感温度が変わる

 体感温度と照明の色の相互作用は「HUE-HEAT効果」と呼ばれ、目に入る色彩(HUE)が涼しさや暖かさ(HEAT)に与える影響を示す。約50年前に米国で「What's so hot about Red?(赤はなぜ熱い?)」という論文が出るなど研究の歴史は古い。

アズビルの会議室では照明の色温度を変えられるようにしている(神奈川県藤沢市)
アズビルの会議室では照明の色温度を変えられるようにしている(神奈川県藤沢市)

 アズビルが導入したシステムを考案した空調機メーカー、木村工機や同志社大の三木光範名誉教授などは17~19年、約800人を集めて実証実験を行った。照明の色が異なる部屋で体感温度を評価してもらうと、28度が推奨されるクールビズ、20度が推奨されるウォームビズのどちらの場合でも、空調の設定温度を2度抑えても同等の快適さを維持できた。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

8
この記事をいいね!する

日経MJ購読のご案内

日経MJ購読のご案内
新しい“売り方、買い方”を
いち早く伝えるマーケティング情報紙!
週3日発行(月・水・金)
詳しくはこちら