「駅まで徒歩10分」――。新聞のチラシや電車内などでよく見かける不動産の広告が最近、変わった。業界団体が駅から物件までの所要時間などに関する計測方法を規約で見直し、最大で5分程度の違いが出てくる。コロナ禍を経て生活者の住みたい場所への考え方に変化が見られるなか、「近い」と感じる距離はどのように変わっていくのだろうか。
東京・練馬にあるマンション「ブリリアシティ 石神井公園アトラス」。同物件を分譲販売する東京建物は2022年夏、広告を書き換えた。以前は「西武新宿線 上石神井駅まで徒歩12分」「西武池袋線 石神井公園駅まで徒歩20分」だったが、それぞれ「12~16分」「20~25分」とした。
不動産各社が加盟する不動産公正取引協議会連合会が不動産広告に関する規約を改正したのは22年9月。大きく2つの点が変わった。
1つは物件から駅までの所要時間の表記だ。従来は、マンションの敷地内で最も近い場所を起点として時間を算出すればよかったが、今回、建物の出入り口からの時間を明示することを義務付けた。複数の棟がある物件の場合、最も遠い棟からの所要時間を表記することが必要になった。
もう1つは、公共交通機関を使った通勤時間に関する表記だ。これまでは最短の時間を表記すればよかったが、9月以降は基本的に、朝のラッシュ時の時間を表記するよう定めた。乗り換えが発生する場合は、乗り換えにかかる移動時間や待ち時間を含まなければならない。これにより多くの物件では、従来物件と比べて最大5分程度の差が生まれることになる。
生活者の「近い」感も変化
規約を見直したきっかけは、不動産業者から「時代に合った広告のルールに変えてほしい」と声が上がったことだった。現在はスマホアプリなどで簡単に移動時間を調べることができる。実態に即さなければ、顧客からのクレームにもつながる。
実際、21年春にマンション購入を検討した都内の会社員男性(35)は「広告の所要時間はあてにならなかった」と話す。「実際に現地に行って歩いてみると、表示された時間で行けることはほとんどなかった」
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