九州でドラッグストアの出店競争が過熱している。東日本が地盤のウエルシアホールディングス(HD)やツルハHDが攻め込む一方、迎える地場のコスモス薬品はコスト抑制を徹底した低価格戦略で高いシェアを占める。人口10万人あたりの店舗数が全国最少の九州で、東軍ドラッグは生鮮や特色あるサービスなどで牙城を切り崩そうとしている。
「北海道から九州まで全国で店舗を展開しているが、九州のお客さんにはなじみがなかった。新業態とドラッグストアの両面で出店を強化する」
ウエルシアHDの松本忠久社長は2022年9月1日、記者会見でこう力を込めた。ウエルシアHDとイオン九州は同日、共同出資でイオンウエルシア九州(福岡市)を設立。ウエルシアHDの調剤事業と、イオン九州の生鮮品販売を組み合わせた複合業態を出店する狙いだ。
まず福岡県を中心とする北部からドミナント(集中出店)を広げ、2030年までに200店舗、売上高で1800億円を目指す目標を掲げる。ウエルシアHDは6月にコクミン(大阪市)を傘下に収め店舗数を増やしたものの、5月末時点の九州での店舗数は7。実に30倍近い規模に店舗網を作ることになる。
店舗はドラッグストア特有の調剤や医薬品、日用品から、スーパーが強みとする生鮮品まで取りそろえる。コロナ禍で高まった「1カ所で短い時間で買い物を完結させたい」需要に対応する。
両社が新会社を立ち上げたのは、すでに先行事例で手応えを感じているためだ。
馬刺しもそろうドラッグストア
「鶏むねタタキ厚切(生食用) 277円」「かつおのたたき刺身 298円」――。
熊本駅から車で20分ほどの郊外に立地するウエルシア熊本麻生田店(熊本市)。レトルトなどの加工食品や野菜から、刺し身や馬刺しなど鮮度が重要な生鮮食品まで並ぶ。店内には調剤薬局も併設。4月のオープン以降、週に2回は利用するという女性(87)は「日用品はそろうし、弁当や総菜の種類が多い。使い勝手のいい店」と評価する。
イオンウエルシア九州の副社長に就任したウエルシアHDの内田悦郎氏は「スーパーとコンビニエンスストア、ドラッグストアのいいところを全部集めたかった」と話す。約350坪の売り場面積のうち、4割弱をイオン九州が運営。店のバックヤードには、通常のドラッグストアにはない調理場や大型の冷蔵設備が設けられている。熊本市内のイオン九州の生鮮品工場から刺し身などの生鮮食品を仕入れるほか、揚げ物を中心とした総菜は店内で調理している。
成果は出ている。熊本麻生田店の立地はかつて、イオングループが自社でドラッグストアと食品の複合業態を運営していた。ウエルシアHDとイオン九州の共同出店に切り替えたことで、食品部門は約2割、ドラッグストアの販売部門は約5割売り上げが伸びた。イオンウエルシア九州は、熊本麻生田店をモデルに、九州全域への出店を拡大する。
出店強化の背景には、九州のドラッグストア店舗数が相対的に少ないことがある。マーケティング支援の技研商事インターナショナル(名古屋市)が人口10万人当たりのドラッグストア店舗数を都道府県別に分析したところ、最も少ないのは沖縄で9店舗。長崎、熊本、佐賀は11店舗で、沖縄に次ぎ少ない。
一方でツルハHDが100店超を展開する福島は16、宮城は同18、ウエルシアが地盤とする埼玉も16店舗と、東日本を中心に飽和が進んでいる。出店余地は「西高東低」の構図で、東日本を地盤とするドラッグの九州への出店が広がっている。
ただ、現場からはこんな声も漏れる。「九州はコスモス薬品による寡占化が進んでおり、他のドラッグストアが進出しづらい。出店余地があるというよりすでに戦争が終わっている状態だ」
コスモス薬品、目指すは「九州の完全制圧」
業界首位のウエルシアHDの本格展開を迎えるコスモス薬品。九州での存在感は店舗数からも明らかだ。九州地方では8月末時点で590店を展開し、ウエルシアHDや2位のツルハHD(174店)を大きく上回る。横山英昭社長は「自力出店による九州地域の完全制圧が究極の目標。ドミナントの密度を上げていきたい」と話す。
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