パナソニックが、量販店からの返品に応じる代わりに価格を指定する取引形態の導入を進めている。家電の販売価格を巡ってはメーカーと量販店が激しく争ってきた歴史がある。新取引の導入背景をパナソニックの品田正弘社長に聞くとともに、量販店の受け止め方、こうした取引形態が広がるのかを探った。

※「日経MJ」2022年9月14日付記事「家電値崩れ 止まるのか」を再構成したものです
パナソニックの品田正弘社長
パナソニックの品田正弘社長

パナソニック品田正弘社長「毎年新製品、やめていく」

――これまでの家電開発は何が課題だったのでしょうか。

品田正弘社長(以下、品田)  顧客志向ではなく、プロダクトアウト(作り手目線)になっていた。例えば、洗濯機は8年に1度程度しか買い替えない。本来は8年前に製品を買ってもらった顧客の悩みをどう解決するか訴求しないといけないが、社内の提案資料を見ると前年モデルから何が進化したかが書いてある。これは消費者ではなく(量販店の)バイヤーを見ているということだ。相当な内向き志向だ。

 家電は値下がりするのが当たり前になっていたのも問題だ。消費者に新しい価値を提供することではなく、売価を戻すことが新製品を出す最大の大義になっていた。市場シェアの高い製品でも勝手に値下がりしてしまっていたので、機能を追加するなどしたマイナーチェンジ機を毎年出さざるをえない状態になっていた。

――開発姿勢をどう変えますか。

品田 強い製品はころころ刷新するのではなく、なるべくロングサイクル化していく。しっかり技術開発を積み重ねて、2~3年後のモデルチェンジの時には格段に良い製品になっているのが理想だ。

――これまでなぜ変えられなかったのでしょう。

品田 2000年代はデジタル家電が勃興してきたし、10年代は白物家電も高付加価値化による新陳代謝で成長できていた。しかし、少子高齢化で人口減少が加速し、家電の進化のスピードも緩慢になってきている。白物家電の売り上げは比較的安定しているが、取引形態を変えるには時間がかかるので、すぐにでも布石を打つ必要が出てきた。

――値下げをせずに売り続けられますか。

品田 適切な値付けができるかが最大のカギになる。欲を出して高い値付けをするとうまくいかない。消費者を見極めて、価値に見合った価格を初期的につけるようにしないといけない。新取引は将来的に全家電の3割程度(金額ベース)まで拡大したい。新たな取引形態が浸透して開発の競争力がつけば、適正な価格で販売できる製品も増えてくるはずだ。

――量販店や消費者側の理解は進んでいますか。

品田 100点満点ではないが、新取引は多くの量販店から同意してもらっている。小売店は在庫を持たずに済むし、キャッシュポジションも良くなるからだ。消費者にとっても、量販店を買い回る手間が減る。なじみの店で仲良くなった店員から気持ちの良い買い物ができるようになる。「三方よし」の形を実現できるスキームだ。

――これから求められる家電の姿は何でしょう。

品田 機能を追加する方向ではなく「引き算の発想」で企画されたものが売れる可能性が高い。多機能であるよりも、一芸に秀でていることが評価されることが増えているからだ。タイムレス(不朽)なデザインも重要だ。例えば自動車の「ポルシェ」は誰が見ても分かるデザインで、格好は長年大きく変わらない。だからこそ古いポルシェも長く乗れる。家電も同じだ。サーキュラーエコノミーの考え方も広まっているので、いい製品を長く使えることが今後の家電のキーワードになる。

(聞き手は日本経済新聞社 平嶋健人)

 パナソニックの新スキームの大きな狙いが家電販売では当たり前と思われていた値崩れをなくす点だ。例えば2021年秋に発売した「レイアウトフリーテレビ」。キャスター付きで移動しやすく、ウェブ会議用でも活用できる独自製品だが、BCNの店頭価格のデータによると発売から11カ月後の値下がり率は1%未満だった。21年春に発売した同型(43型)の液晶テレビは同期間で25%値下がりしている。

 パナソニックの品田正弘社長は「多くの家電は終売までに2割くらい価格が下がっていた」と振り返る。売価を戻すことを目的に新製品を投入することが慣習となった結果、消費者が望まない機能がてんこ盛りになるなど「消費者不在の製品」(品田社長)も生まれてしまっていた。

 パナソニックは1年ごとに製品刷新する慣習から脱し、独自製品や市場シェアの高い製品に関しては販売期間を2~3年程度まで伸ばしていきたい考えだ。21年度には家電全体の8%(金額ベース)にしか導入していないが、既に営業利益への貢献額は100億円弱に上ったとみられる。

新しい取引制度の持つ意味とは?
新しい取引制度の持つ意味とは?

客の納得、最後は製品価値

 一方の家電量販店。「在庫を抱える必要がなくなり、値崩れも起こらないとすれば利益的にはプラスだ」(大手量販店幹部)との意見もあるが、内心は穏やかではない。

 その大きな理由の1つが、メーカーによる量販店の選別が進み、必要量を仕入れられなくなるのではという不安だ。また、集客ツールとなる安売り対象商品の確保も難しくなる。「安く買いたいお客様には値引きできるものをこれからも薦めていく。値引きさせないメーカーはシェアを落とすだけではないか」(量販店幹部)と突き放す声もある。

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