格安航空券の販売から旅行業界大手に上り詰め、多角化も進めたことから業界の優等生と称されたエイチ・アイ・エス(HIS)。しかし、新型コロナウイルス禍で業績低迷が長引き、2022年8月末にはテーマパーク「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)の売却を決めた。飲食や農業、国内旅行など新たな収益の柱を模索するが、長期的な成長はどう描くのか。

※「日経MJ」2022年9月11日付記事「HIS再建、いばらの旅程」を再構成したものです
HISが売却を決めた「ハウステンボス」(写真/Shutterstock)
HISが売却を決めた「ハウステンボス」(写真/Shutterstock)

 HISは2022年8月30日、ハウステンボス運営会社の全株式(持ち分66.7%)を香港拠点の投資ファンド、PAG系の特別目的会社に売却すると発表した。ハウステンボスに出資していた西部ガスホールディングスなど九州の地元企業はハウステンボスの自社株買いに応じる。売却総額は計1000億円にのぼる。

 「客数が戻っていたとは言え、総額1000億円は高額だ」(金融機関関係者)と一部では驚きをもって受け止められていた今回の売却合意。ただ、HIS創業者の沢田秀雄氏は、「ハウステンボスの価値は800億円以上だ。4ケタ億円になる可能性もある」と合意前から自信を見せていた。

 HISは2010年に、業績不振に陥っていたハウステンボスを買収した。当時の出資額は20億円だった。新規ホテルの開業や園内の改築など設備投資を進めて経営を立て直した背景はあるものの、そこからハウステンボスの価値は大きくあがった計算になる。

 沢田氏やHISにとってハウステンボスは手がけた事業再生案件で最も成功した事例だ。実は、売却ではないもう一つの道も模索していた。それが「統合型リゾート施設(IR)の整備を見据え、早ければ23年にも機会をうかがっている」(HIS幹部)とされた上場だ。沢田氏は今年に入っても、上場準備を指示していたとされる。ただHIS本体の資金繰りが苦しくなるなか、上場よりも早く資金調達ができる売却に傾き、見果てぬ夢となった。

 HISのハウステンボス株の譲渡価格は666億円で、646億円を22年10月期の単独決算で特別利益として計上する見込みだ。さらにHISは今回の売却に合わせて決算期末(22年10月)直前の10月27日に臨時株主総会を開き、資本金を1億円に減資することを決める予定だ。

東京渋谷区のHIS新宿本社営業所
東京渋谷区のHIS新宿本社営業所

農・そば店、新事業は小粒

 HISは新型コロナウイルス下での海外旅行需要の急減で、21年10月期まで2期連続で計750億円もの最終赤字を計上した。単体では約280億円の繰越欠損金を抱えている。高額売却と減資の合わせ技で財務基盤の立て直しを図る同社。ただ、ハウステンボスを手放すことは、HISの「稼ぎ頭」を失うことも意味する。21年11月~22年4月期の部門別の営業損益を見ると、ハウステンボスを含むテーマパーク事業が唯一の黒字だった。

 HISは新型コロナ前から旅行業のみにとらわれない多角化経営を進めてきた。ハウステンボスのほか、ロボットが接客する「変なホテル」運営のHISホテルホールディングスや熊本県でバスを手掛ける九州産業交通ホールディングスなどが代表例だ。旅行に関連する宿泊や地域交通、クルーズ、テーマパークまで利用者の周遊を促すことでシナジーを模索してきた。今回、ハウステンボスの売却で窮地をしのげたのも、この多角化があったからこそともいえる。

 コロナ禍で主力の海外旅行事業が厳しい中、HISは様々な事業に乗り出す姿勢は継続してみせている。

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