新型コロナウイルス禍が長引く中、3年ぶりに迎えた行動制限なしの夏休み。国内旅行をする人も増えてはいるが、訪日外国人客(インバウンド)は戻らず、第7波の影響も出た。観光地の状況もコロナ禍前と同じとは言いがたい。苦境が続く中、各地の土産メーカーが観光客だけに頼らない取り組みを進めている。目指すのは「旅の恋人」から、「日常の友」だ。
2022年8月中旬、多くの観光客でにぎわうJR新大阪駅の土産コーナーに、東京土産として人気が高い「東京ばな奈」ブランドの商品が並んでいた。東京ばな奈を手掛けるグレープストーン(東京・中央)が7月に発売した新商品「東京ばな奈ミニオン『見ぃつけたっ』濃厚バナナカスタード味」。パッケージや商品に、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)にも登場する人気キャラクターの「ミニオン」があしらわれている。
東京ばな奈ブランドとしては初となる関西限定商品。バナナが大好物、というミニオンの設定に合わせて通常の東京ばな奈と比較して、バナナペーストとピューレの量を2割増量した。JR新大阪駅やJR三ノ宮駅などの関西の主要駅や、関西国際空港などで販売しており、発売から10日間で20万個を売り上げた。
グレープストーンは、コロナ禍で土産需要が落ち込む中、販売戦略の転換を進めてきた。その一つが販路の拡大だ。コロナ前まで東京ばな奈は、東京駅構内など都内を中心に販売していた。しかし、20年6月からセブンイレブンなど全国のコンビニエンスストアにも販路を拡大した。特別感を出すため、各店舗とも数量限定で販売しているという。ブランドコミュニケーション部の三島伸康氏は「今後は全国でたまに買える少し珍しいお菓子として認識してもらいたい」と意気込む。
販路の拡大に取り組むのはグレープストーンだけではない。パンや菓子の製造販売を手掛けるもりもと(北海道千歳市)では、土産の看板商品で、北海道特産のハスカップを使った洋菓子「ハスカップジュエリー」の売り上げがコロナ禍で落ち込んだ。これまで同社は自社店舗を中心に商品を販売してきたが、現在は他社との連携で道外での販売を模索している。
例えば20年にはローソンと共同で、北海道産食材を使った家庭向けスイーツの共同開発を始め、道内外のローソン店舗で販売した。21年には日本航空(JAL)グループのJALスカイ札幌(同市)と連携。ハスカップを共同収穫し、もりもとの洋菓子製造に使用した。商品はもりもとの店舗だけでなく、道外の空港でも臨時販売した。
「うなぎパイ」の春華堂もコロナ禍で新戦略
コロナ禍が長引く中、観光客以外も取り込もうとしているのは「うなぎパイ」で知られる菓子メーカーの春華堂(浜松市)だ。土産需要が大部分を占めるうなぎパイは、コロナ禍で観光需要が減少し、長期にわたり減産を強いられた。
ただ、土産需要が減少しても、販売エリアを地元に限定する方針は変えなかった。うなぎパイは東海エリア、他の生菓子類は浜松市内のみで販売するのが同社の方針。「旅の思い出をお菓子と一緒に持ち帰ってほしいという思いが基本」(同社)。エリアを限定することで「特別感」を持たせ、商品価値を維持する狙いもある。
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