独自開発商品を売りにするスーパーの動きが活発だ。成城石井は自家製総菜やスイーツの製造能力を倍増させ、出店拡大の足がかりにする。紀ノ国屋は看板商品のアップルパイを海外で外販していく。こだわりの自社商品を自社で作って商圏を広げる。そんな製造小売業(SPA)を進化させた「製造業型」経営がスーパーの勝ちパターンの1つとなりつつある。

※「日経MJ」2022年8月26日付記事「勝つスーパーは製造業」を再構成したものです
自家製総菜やスイーツが人気を博している成城石井
自家製総菜やスイーツが人気を博している成城石井

 「家族みんな成城石井のチーズケーキが大好き。お店があるとつい立ち寄ってしまう」

 都内の成城石井の店舗から出てきた会社員男性(56)は楽しげに話す。濃厚なチーズを使った自家製チーズケーキは成城石井でも屈指の人気商品。「1本1000円もしないので専門店で買うより手軽に楽しめる」

 成城石井はこうした自社開発の商品を製造する工場「大和第3セントラルキッチン」(神奈川県大和市)を、約66億円投じて新設。2022年8月に本格稼働を始めた。延べ床面積約1万平方メートルは既存の東京都町田市の2工場の合計の1.8倍だ。

 新工場ではピザや自家製麺、ホールケーキなど新たなメニューも手掛け、22年度は100品目以上の新商品を開発する方針だ。既存2工場が手狭となり、これまで作れなかった商品を作る。生クリーム入りのメロンパンも復活させる。

成城石井の生クリーム入りメロンパン
成城石井の生クリーム入りメロンパン

 「商品の鮮度が伸びる環境づくりをして、できるだけ供給エリアを広げたい」(成城石井の五十嵐隆執行役員)。背景にあるのは、強みとする独自商品をてこに出店地域を拡大する狙いだ。

 成城石井は現在約200店舗を展開するが、出店地域は東京・名古屋・大阪の大都市圏が中心。北は宮城県、西は岡山県にとどまり、北海道や九州、北陸地方には店を出せていない。売りである独自商品の製造能力の不足に加え、既存工場から商品を供給するには遠すぎて鮮度を保てなかったためだ。

 新工場にはフィルムで蓋をして密閉性を高める設備を導入したことで、総菜や弁当の賞味期限を伸ばせるとみている。

 「テレビ番組で見た地方の消費者から『成城石井の商品が欲しい』という声が増えている」(五十嵐氏)。成城石井の売上高に相当する営業総収入は22年2月期が1092億円と、19年2月期比25%増。積極出店で消費者との接点は増えているが、それでもなお捕捉できていない需要は大きい。

 実は、成城石井には自社店舗以外へも独自開発の商品を卸す「メーカー」のような顔もある。沖縄県地盤の食品スーパー、サンエーには成城石井商品のコーナーが設けられ、セントラルキッチンで監修したプライベートブランド(PB)や輸入食材などが並ぶ。成城石井の輸入食材を取り扱っていた地方スーパーや百貨店がオリジナル商品まで販売するようになり、200社以上まで広がっている。

 自社製造商品の売上比率はこれまで約20%だったが、25年までに30%へと増やす方針だ。将来は西日本など地方にセントラルキッチンを設けることも「1つの選択肢」(五十嵐氏)という。

食品スーパーが商品力を磨いている
食品スーパーが商品力を磨いている

紀ノ国屋、クイーンズ伊勢丹も有力PBを外販

 22年7月上旬。JR東日本傘下の食品スーパー、紀ノ国屋の高橋一実副社長の姿は、シンガポールにあった。

 「現地の幅広い年齢の方が購入してくれた。今後は欧米でも販売したい」。シンガポールの伊勢丹の一角で開催したポップアップストアに駆けつけた高橋氏は、世界進出の手応えを感じた。

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