書店がすごいことになっている。入場料制を導入し、音楽が流れるおしゃれな空間では本は読み放題、コーヒーも飲み放題。友人同士でゆっくり半日ほど滞在できるのでコスパもいいと若者に人気だ。イベントや有料の選書など、新しい何かと「出会う」知のエンターテインメント施設に進化している。本を売るだけの従来像から脱皮し新たなモデルを再構築する。

※「日経MJ」2022年7月6日付記事「稼ぐ書店は『出会い系』」を再構成したものです
選んだ本を見ながら話し合う姿も(東京都港区の文喫六本木)
選んだ本を見ながら話し合う姿も(東京都港区の文喫六本木)

 「漫画が多いわけでもないのに、客層は20~30代が中心」というのは東京・六本木の文喫だ。書籍取次の日本出版販売の子会社「ひらく」(東京・千代田)が運営する入場料のかかる書店。平日は1650円、土日・祝日は1980円払うと午前9時から午後8時までの間、店内の書籍を自由に閲覧できる。コーヒーとお茶が飲み放題で、有料で食事もとれる。

 ECで注文すれば翌日には本が届くのに、わざわざ入場料を払ってまで若者が足を運ぶのはなぜだろう。店舗に足を運び、理由を探ってみた。

 平日の午前中、確かに20歳代らしき来店客の姿が目に付く。ソファでゆっくり本を読む人や、パソコンを開いて作業にいそしむ人など、みな思い思いに過ごしている。「本屋というより、洗練された漫画喫茶みたいな感覚」と話すのは、ヘビーユーザーという20代の女性。時間制限もなく、半日くらいゆったり過ごせるので「コスパはいい」という。

 雑誌売り場を見ていた藤井美咲さん(22)は、今回が初来店。「SNSで見て、来てみたいと思っていた。おしゃれだしきれい」と話す。筋金入りの本好きだけでなく、新しいエンターテインメント施設として来店している人も多い印象だ。

 文喫の売り場は独特だ。出版社ごとに整然と本が並ぶ資料室のような大型書店や、売れ筋ランキングで棚が占拠される小型店と違い、書店員が厳選したマニアックともいえる本のチョイスに「クセが強いな」と思いつつも、思わず好奇心がかき立てられる。

 来店客の並木一樹さん(36)は「音楽が心地よく、静かに本と見つめ合える。本を見て、手に取って、脳に刺激が得られるのも魅力だ」と語る。

 博報堂生活総合研究所・上席研究員の伊藤耕太氏は「文喫が演出する本との偶然の出会いに、自分だけの物語を感じられるのでは」と分析する。「ECの機械的なレコメンドでは出会えない本との出会いに意味や価値を感じている」とみる。

書店は様々な「出会い」の場に
書店は様々な「出会い」の場に

来店客の4割が書籍購入、驚きの仕掛け

 本との出会いを演出するしかけは他にもある。書店員による有料の選書だ。予算や希望ジャンルのほか、テーマ、本を読む目的などをウェブのシートに入力。年齢や職業といった個人の属性に加えて、最近良かったと感じた本や映画、大事にしていること、楽しいと思う瞬間も書き込む。

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