鉄道会社による沿線開発が様変わりしている。都心のターミナル駅に遠方から人を集めるモデルから、沿線の中核駅をローカル拠点とし、周辺住民の暮らしやすさを生む街づくりにシフト。小田急電鉄は東京・下北沢などで、「地域が求める街をつくる」とのコンセプトを掲げ、地元と対話を重ねてニーズをすくい取る開発を進めている。

※「日経MJ」2022年7月1日付記事「ターミナル駅より地元」を再構成したものです
小田急といえば新宿と小田原を結ぶロマンスカーも有名だ
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 若者でにぎわう下北沢駅(東京・世田谷)を中心に、全長約1.7キロの細長い街並みが続く。「下北線路街」と名付けられた同エリアには、住宅、旅館、ミニシアター、学生寮など13種類の個性豊かな施設が立ち並ぶ。平日は近隣住民が散歩や買い物で立ち寄るほか、週末には若者らがカフェでの会話やショッピングを楽しむ。下北沢に住む会社員女性(31)は「再開発で新しいエリアができたのもよかったが、いい意味で『下北沢らしさ』が失われていなくてよかった」と話す。

 下北線路街は、もとは小田急線の線路が敷かれていたエリア。2004年に着工した複々線化事業で、線路が地下に移動したことで地上に空いたスペースを活用した。大部分が小田急の所有する土地で、都心の好立地をまるごと開発できる一大事業。だが22年5月の全面開業に至るまで、同社が採ったのは、これまでの街づくりからは異色と言える手法だった。

 「どんな街にするか一緒に考えたい」。17年9月、小田急エリア事業創造部の橋本崇課長は地元住民らによる有志の検討会議に出席し、こんな言葉をかけられた。小田急は独自に街区全体のコンセプトなどを決めていたが、「住民が作りたい街を作るのがあるべき姿だ」と気づき、一から計画の作り直しを決めた。

 プロジェクトチームとして参加した向井隆昭課長代理とともに、地元の商店街組合や住民らと計200回以上膝をつき合わせて意見交換した。「親族や友人が来た時に泊まる場所がほしい」「緑が多い公園はあるべきだ」――。一つひとつの声を拾うと同時に、住民とともに「下北沢らしさ」を追求。個性豊かな個人経営の店舗と、文化芸術の発信地であることは、新たな街に欠かせない要素となった。

暮らし完結の街づくり

 線路街の目玉の1つ、「BONUS TRACK」には個人経営の飲食店や雑貨店が集まる。チェーン店は「下北沢らしさ」を考えるとふさわしくない。「賃料のハードルを下げれば個人経営でも入居しやすいはず」(向井課長代理)との発想で、出店希望がある店舗に希望賃料をヒアリング。都心部では安価な33平方メートルで月額15万円の賃料でチェーン店以外の借り手を募った。

 同地域はもともと都市計画法上、低層住居専用との制約があったが、店舗の2階部分を住宅機能とすることで乗り越えた。「店舗オーナーにも街の住民となってもらい、関係人口を増やして楽しんでもらうことが街の魅力を高めることにつながると思った」(同)という。

 小田急はこうした住民目線の街づくりを「支援型開発」と呼ぶ。街の主役を住む人や働く人と設定し、それぞれが「作りたい街」を実現する。小田急はあくまでも黒子としての支援者に徹する。向井課長代理は「地域が主体になることで結果的に面白い街となり、また新たな人をひき付ける」と強調する。

小田急の沿線開発の取り組み
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