アクションRPGゲーム「ELDEN RING(エルデンリング)」が人気だ。ゲームソフト開発のフロム・ソフトウェア(東京・渋谷)が2022年2月に発売し、全世界で1300万本を超える異例のヒットになっている。壮大な世界観や、何度もゲームオーバーになる「死にゲー」ながら、再び挑みたくなる絶妙な難易度設定などが世界中を虜(とりこ)にしている。

※「日経MJ」2022年6月3日付記事「アクションRPGの王となれ」を再構成したものです
大ヒット中の「エルデンリング」はマルチプレーを楽しむこともできる
大ヒット中の「エルデンリング」はマルチプレーを楽しむこともできる

 「難易度が高く、ボス戦は一筋縄でいかないものばかり」。エルデンリングを毎週10~15時間プレーする京都市の会社員、田中慶介さん(31)はこう語る。ただ、そこがこのゲームの魅力。「何度も負けながら試行錯誤し、倒せた時の達成感や喜びはひとしお。『死にゲー』としての楽しさがある」と強調する。110時間超のプレーを経てクリアを迎えたという。

 エルデンリングはソニーグループのゲーム機「プレイステーション」やパソコンなど向けのアクションRPGだ。世界的人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作者と組み、独自の神話をもとにしたダークファンタジーの要素をもつ壮大な世界観を作り上げた。

 プレーヤーは「霊馬」と呼ばれる馬のような乗り物に乗り、広大なフィールドを自由に探索。敵を倒して経験値をため、レベルアップや装備の強化をしながら、各地のダンジョン最深部のボスを倒し、ゲーム内の世界の王となることを目指す。

 2022年2月25日にKADOKAWA子会社のフロム・ソフトウェアが発売。当初は400万本の想定だったが、3月末時点で全世界1300万本を超える大ヒットに。内訳は国内が100万本で、北米や欧州など広く海外でも支持されている。カナダ国籍の英会話講師の男性(33)は「プレーの時は汗をかくぐらい集中しており、ワクワクしてエネルギーが満たされる。最高峰のRPGだ」と絶賛する。

エルデンリングはプレイステーション4などでプレーできる
エルデンリングはプレイステーション4などでプレーできる

 KADOKAWAの22年3月期の連結売上高は前の期比5%増、海外販売を手掛けるバンダイナムコホールディングスは20%増。エルデンリングが貢献した。

 何が世界中のプレーヤーを引き付けたのか。

絶妙「死にゲー」のやみつき要素とは?

 まずは絶妙に設定された難易度の高さだ。フロム・ソフトウェアは何度も敵に倒される「死にゲー」を世に送り出してきた。

 エルデンリングも同様で、フィールド上に多数存在する一般の敵に倒されることも珍しくない。倒され続けると、ためてきた経験値が全て失われる。SNS(交流サイト)では「死に続けてコントローラーを投げた」などの書き込みが相次ぐ。

 ただ、救いがないわけではない。敵には行動パターンがあり、何度も倒されるうちに対策を立てられるようになる。作戦を考えてボスを倒した達成感は大きな魅力のひとつだ。アクションが苦手なプレーヤーへの「救済措置」もあり、オンラインで協力者を呼び出すことなどができる。

 ゲーム専門情報サイト「ファミ通.com」の三代川正編集長は「理不尽に難しいのではなく、プレーヤーの心が折れそうで折れない絶妙なバランスができあがっている」と指摘する。

 決められた場所を決められた順に攻略するのではなく、広いフィールドを自由に動く「オープンワールド」というシステムも魅力を高めている。フロム・ソフトウェアでは初採用した。同ゲームの宣伝プロデューサーである同社の北尾泰大氏は最もこだわった点を「自由度の高さ」とする。

 東京都の女性会社員(28)はオープンワールドに興味をもち、エルデンリングを購入。知人が遊ぶ様子を見て、「とてもきれいな世界で、自由に動き回ってみたくなった」と声を弾ませる。すっかりはまり、「最後のボスを倒すのに2時間かけた」という。

 オープンワールドはゲームの楽しみ方の幅を広げている。埼玉県の男性会社員(30)は「探索が面白い。何かありそうな所に必ずアイテムやダンジョンがある」と話す。

 フィールド上の一般の敵にすら、何度も倒される難易度の高さがエルデンリングの特徴だが、プレーヤーからは「ボスをなかなか倒せず行き詰まった時、よく周辺を探索する。レベルを上げて戻ってくると、自分のアクションの腕も上がっていて、倒せるようになっていた」との声があがる。

 主人公のアクションも好きなスタイルを選べる。例えば敵との距離を縮めながら剣を使って攻撃する「剣士」として遊ぶこともできれば、離れた所から魔法を使ってダメージを与える「魔術師」としても遊べる。「剣士」の中でも、盾を構えて相手の攻撃を防ぎながら戦うスタイルや、両手で大剣を持って相手の攻撃をかわしながら隙をうかがうなど自由自在だ。

 こうした自由度の高さから、クリア以外を目的とする遊び方を楽しむプレーヤーもいる。都内の男性会社員(27)はクリア後に一度倒したボスと再戦。「ボスの攻撃を全て見切ってはじき返しながら倒す」という目標を立て、3日間ひたすら同じボスに挑戦していたという。

エルデンリングのヒットの理由
エルデンリングのヒットの理由

 エルデンリングのヒットの理由に、オープンワールドを挙げる声は市場関係者からも。UBS証券の福山健司アナリストは「ここ数年、オープンワールドゲームが興隆している。数年前の発売ならここまでヒットしなかったかもしれない」と指摘する。

 福山氏が転換点だと語るのが17年に任天堂が発売した「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(BOW)」だ。ゲーム進行の自由度が高く、従来は入手が求められた伝説の武器「マスターソード」を手に入れなくても、「さびた剣」や弓矢など初期に手に入る武器でいきなりボス戦に挑むことができる。隠しステージやアイテムも多く「ラスボス」を倒した後も時間をかけて楽しめるのが特徴だ。

 同作は22年3月末までに累計2655万本を販売するメガヒットを記録。国内外のゲームメディアがその年に発売されたソフトで最も優れた作品を選ぶ「ゲームオブザイヤー(GOTY)」を多数受賞するなど、完成度の高さも評価された。

 福山氏は「オープンワールドは以前からコアゲーマーの人気はあったが、BOWで市民権を得た」と話す。オープンワールドの楽しみ方や世界観が一般に認知された結果、エルデンリングも「ヒットしやすい市場環境になっていた」と指摘する。

 11年発売の「DARK SOULS(ダークソウル)」など、もともとフロム・ソフトウェアの作品はコアなゲーマーから人気が高かった。エルデンリングも発売前から期待が高く、ソニーストア銀座(東京・中央)で2月19日から開かれた発売記念イベントでは、初日の開店と同時に100人を超える客が訪れたという。書店でもソフトの特設コーナーが設けられ、反響があった。

 ただ、今回のヒットは「新規プレーヤーを開拓できたことが大きい」と三代川編集長は指摘する。フロム・ソフトウェアは「従来と比べて特別な販促はしていない」といい、SNSやゲーム実況がファン拡大に大きな役割を果たしている。

 ツイッターは同社が新たなイメージ動画や情報などを発信する度に盛り上がった。22年1~3月に、全世界でゲーム関連のツイートが最も多かったのはエルデンリングの発売日。期間内に米マイクロソフトがゲーム大手を約8兆円で買収するなどのニュースがあったが、それらを抑えた。

 ゲーム実況の動画配信では、人気配信者の累計再生回数が1900万回超に。三代川編集長は「何度も挑戦しながら攻略するという遊び方をわかったうえで楽しむ人が増えた。高難易度ゲームへのハードルが下がったのではないか」とみる。

欧米の評価「あつ森」超え

 エルデンリングは市場関係者も驚くヒットだった。「過去に先例がないくらいの衝撃」。UBS証券の福山健司氏はこう話す。これまで初動販売で1000万本を超える国内ソフトは「ポケットモンスター」新作か、「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)など任天堂の有力ソフトに限られていたからだ。

 評価の高さも異例だった。欧米圏のゲームメディアの評価を集計して平均点を出す米メタクリティックによると、5月末時点の評価は「96点」。カプコンの歴代最高売り上げの「モンスターハンター:ワールド」(90点)やあつ森(90点)をも上回る高得点だ。

 エルデンリングは今後も販売を伸ばす可能性が高い。ゲーム機のほか、ダウンロード版をパソコン(PC)向けに供給。店舗での陳列に左右されないPC向けは長期的に販売を伸ばす余地が大きい。福山氏は今期中にも約700万本が売れ、最終累計販売は約2500万本に達するとみる。

 制作業界にも影響を与える。かつてはゲームの覇権を握った国内勢だったが、最近では「フォートナイト」など利用者が1億人を超える「億ゲー」の大半が米国発。マイクロソフトが大手スタジオを約8兆円で買収すると発表するなど「メタバース」の興隆をにらんだ制作会社の買収合戦が続くが、国内の動きは鈍い。

 東洋証券の安田秀樹氏は「日本発の大作は不可能と思われていたが、今回の特大ヒットで変わった。今後は投資や協業対象に国内スタジオが入る可能性がある」と話す。 ヒット作の収益をアップデートや次回の大作開発に充てて急成長――。エルデンリングのヒットは、そんな好循環を日本でも生み出すきっかけとなるかもしれない。

(日本経済新聞社 伊藤威、平嶋健人、長田真美、西城彰子、宮嶋梓帆、河端里咲)

2
この記事をいいね!する

日経MJ購読のご案内

日経MJ購読のご案内
新しい“売り方、買い方”を
いち早く伝えるマーケティング情報紙!
週3日発行(月・水・金)
詳しくはこちら