価格を需給に応じて変動させるダイナミックプライシング(DP)を導入する企業が広がっている。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ収益を改善させようとするケースだけでなく、食品の廃棄量削減や、人手不足対策のために導入する企業も登場。DPの要となるデータ解析や人工知能(AI)技術の進展により、価格をきめ細かく設定できるようになってきた。

※「日経MJ」2022年4月29日付記事「変価球(ダイナミックプライシング) 離職も抑える」を再構成したものです
徳島市で美容院を経営するオリガミ・キャリアデザイン。ダイナミックプライシング導入で来客時間を分散化、美容師の働き方改革につながった
徳島市で美容院を経営するオリガミ・キャリアデザイン。ダイナミックプライシング導入で来客時間を分散化、美容師の働き方改革につながった

 需給に応じて価格を変動させる取り組みは航空会社やホテルなどでは一般的だ。近年ではダイナミックプライシング(DP)の導入業種が広がっており、収益最大化だけが目的ではなくなっている。

 徳島市で美容院を経営するオリガミ・キャリアデザインもその1社。時期や曜日、時間帯などで分けた料金を設定。通常より2~3割ほど抑えた料金にする。

 オリガミがDPを導入した背景には、美容業界での離職率の高さと慢性的な人手不足がある。異業種から転身した大川亮平社長は美容師である妻や周囲のハードな働き方を見て、不安を覚えた。「美容師になってからファンがつく8年目ごろには結婚・出産で退職してしまう女性美容師が多く、このままでは立ち行かなくなる。美容院のあり方や生産性を再考すべきだと思った」

 美容院で働き方改革を進める上でのネックが繁閑の差が激しいことだ。土・日曜日は予約が詰まりすぎる一方、平日や朝の時間帯はすいている。そこで思い出したのがDPの存在だ。当時、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)が繁閑に応じて価格を変える制度を運用すると話題になっていた。

 DPで美容院の需要を分散することができれば、土日を休んだり、午後5時に退社したりといった働き方が可能になる。そこで、例えば開店時刻である午前9時のカットとカラーは安めにするなどした。「ネット予約ではなぜか午前9時は人気がなく、10時や10時半に予約が入ることが多かった」からだ。

 気をつけたのは単なる安売りにしないことだ。施術10分あたり1000円という料金ラインは割らないように、メニューの構成を考えながら試行錯誤した。朝は主婦層を狙い、午後からは学生などのカラー需要を狙ったところ、成果はすぐに出たという。

 当初は「客は美容院の都合に合わせてくれないのではないか」と不安がっていた美容師も、DPの導入で「働きやすくなった」と効果を実感。客単価も上がったという。同社では7~8割が子を持つ女性美容師だが、ここ5年で退職した人はほとんどいない。「今後はメニューをより細かく設定し、加速させたい」と大川社長は意気込む。

 こうしたオリガミの取り組みについて、リクルートの「ホットペッパービューティーアカデミー」の千葉智之アカデミー長は「従業員満足度を最優先の目的として設定し、何のためにDPを使うのかを明確にした」と評価する。

飲食業界、食品ロス対策でも成果

 コロナ禍で大きな打撃を受けた居酒屋業界。ダイヤモンドダイニングは、2021年夏にDPを導入した。東京・大崎に開いた新業態「焼鳥IPPON」で午後5時~11時、ドリンクが1時間ごとに基準価格よりも最大20%安くなる。

 午後6時ごろがピークとなる居酒屋にとって、ピーク以外の時間帯にどれだけ客を呼び込めるかが課題の1つだ。まん延防止等重点措置の期間中は営業していた午後4時台(解除後の営業開始時間は午後5時)のIPPONでは「周辺の店と比べて客足はひけをとらなかった」(新業態を開発した第一営業本部の長瀬裕樹事業部長)。

ダイヤモンドダイニングの新業態「焼鳥IPPON」のアプリ
ダイヤモンドダイニングの新業態「焼鳥IPPON」のアプリ

 実は居酒屋にとってDP導入は人手の確保にもつながる。通常、「午後4時台は、ほぼ1人の従業員で客席を対応している」(長瀬事業部長)。それがIPPONでは2人体制の時もあったという。早い時間帯から客が来るようになれば、必要な従業員も増え、結果的に「(収入を増やすために)少しでも長い時間働きたい人」をより採用できることにつながるという。

 食品ロス削減のためにDPを導入する動きも広がっている。

 東京都渋谷区にあるオフィスビル「渋谷ソラスタ」の一角に、一風変わった自動販売機が置かれている。サラダを販売する自販機「SALAD STAND(サラダスタンド)」だ。販売商品は「スモークサーモンとチーズの贅沢サラダ」や「蒸し鶏とキヌアの栄養サラダ」など6種類。いずれも980円で売られているが、時間がたつと値段が安くなる。

 「消費期限の短い商品は自販機との相性があまりよくない。DPなら期限が短いというデメリットを補える」。この自販機を設置したKOMPEITO(コンペイトウ、東京・渋谷)の梅津祐希・最高技術責任者(CTO)はこう語る。商品の消費期限はわずか2日。このため値段を少しずつ下げながら、商品の完売を目指す。

サラダを販売する自販機「SALAD STAND(サラダスタンド)」。AIセンサーを活用する
サラダを販売する自販機「SALAD STAND(サラダスタンド)」。AIセンサーを活用する

 割引率や下げるタイミングを決めるのに用いているのが、自販機に付けられたAIセンサーだ。センサーが周辺の通行者数を把握。そして実際に購入した人の年齢や性別などの情報を収集する。最初の設定価格は全て980円。商品の残り個数や消費期限はクラウド上で管理されており、現在はAIセンサーが収集した情報をもとに、1時間ごとに価格を変動させている。

 今後は、データ分析の精度を高めるため、データ会社との連携も視野に入れる。自販機ごとに商品の最適な納入数も算出する予定だ。22年5月にはJR有楽町駅銀座口そばの高架下の商業施設「ルミネストリート」内など数カ所に設置する。22年度内に50カ所での運用を目指す。

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