単に商品の説明をするだけでなく、潜在的な顧客ニーズを掘り起こし、個別の提案をする高度な「ソリューション営業」を強化しようとする企業は多い。だが、WACUL(ワカル)代表の垣内勇威氏は、安易なソリューション営業の取り組みは、地道な営業DX(デジタルトランスフォーメーション)へ向けた努力から目をそらす、経営陣の甘えにすぎないと警鐘を鳴らす。

コンサルティングに近い高度な提案をする「ソリューション営業」でビジネスの活路を開こうとする企業も多い(写真/Shutterstock)
コンサルティングに近い高度な提案をする「ソリューション営業」でビジネスの活路を開こうとする企業も多い(写真/Shutterstock)

 どのような事業でも「営業部門」と「リード(見込み顧客、あるいは見込み顧客リスト)獲得部門」が分業すると、すぐにけんかを始める。売り上げを増やすという共通のゴールを追う部署でありながら、「リードの質」が悪いのか、「営業の質」が悪いのか、責任の所在をなすりつけ合うためだ。

 この「営業部門」「リード獲得部門」の確執をなんとかまとめ、成果に結びつけていくことがマネジメント層に求められるリーダーシップと言える。その努力を放棄して、より高度な提案をするための「ソリューション営業」チームを立ち上げればうまくいくだろう、という幻想にとらわれる経営者が後を絶たない。

 ソリューション営業とは、顧客の課題や要望を聞き取り、問題解決のための解決方法(ソリューション)を提示する業務のことである。営業部門と似ているが、より高度な専門知識を持ち、顧客のニーズに合わせたサービスを提供することを目指す。

 しかし、この「ソリューション営業」チームを組成して期待通りの成果を上げることは、「営業部門」「リード獲得部門」のけんかの仲裁をすることの何倍も難易度の高い仕事であり、全くもって現実的ではない。

 「営業部門」「リード獲得部門」のすり合わせを放棄し、非常に難易度の高い「ソリューション営業」の実現に向けてまい進する姿は、あたかも「パンが手に入らないので、代わりにいかにケーキを手に入れるかを考えることにした」かのような喜劇にも見える。拙著『BtoBマーケティングの定石 なぜ営業とマーケは衝突するのか?』でも詳しく解説しているが、本記事ではなぜ前者の地道な努力から目をそらすべきではないのかということを解き明かしていきたい。

▼関連リンク(クリックで別ページへ) 『BtoBマーケティングの定石 なぜ営業とマーケは衝突するのか?』(日本実業出版社)

ソリューション営業は、リード獲得部門にとって都合のいい営業

 「ソリューション営業」は、「コンサルティング営業」「インサイト営業」などという呼称も与えられている。本質的には「顧客の潜在的な課題を抽出・整理して、カスタマイズしたサービス・商品を提案する営業」を指す。もし「ソリューション営業」ができるならば、顧客のニーズがぼんやりしていても、契約につなげられるということになる。

 経営層としては「リード獲得部門」がリードの質を高めるのは難しいことや、営業部門に渡しても捨てられるリードが多いことを課題に感じているかもしれない。そんなときに、もしも営業部門が「ソリューション営業」をやってくれたら、と夢想したくなるのも無理はないが、甘い夢にだまされてはいけない。真に「ソリューション営業」ができるような人材はほとんどおらず、育成の難易度もとてつもなく高いからである。

ソリューション営業とは、「自分を商品にできる」ということ

 ソリューション営業とは何だろうか? 定義は様々だろうが、少なくとも顧客すら気づいていない「潜在ニーズ」を掘り起こせる知識や技能がなければならない。それ故、今売りたい商品を売り込んでいるようではいけない。それだけでなく、今持っている商品で何ができるか、などと考えている時点で間違いだということになる。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
12
この記事をいいね!する