1990年代、「カリスマ店員ブーム」の火付け役となったSHIBUYA109。2022年現在もその熱狂は衰えることなく、常に10代の憧れの「聖地」としてその地位を守り続けている。なぜSHIBUYA109はいつの時代も熱狂を生み出せるのか。バニッシュ・スタンダード(東京・渋谷)の木崎大佑氏が、国内の主要プレーヤーや小売業界の有識者との対談により、新たな小売りの形を探る本連載。第2回は、SHIBUYA109で総支配人を務める、SHIBUYA109エンタテイメント(東京・渋谷)の丸山康太氏をゲストに迎える。

SHIBUYA109渋谷店の総支配人、SHIBUYA109エンタテイメントの丸山康太氏(左)と、バニッシュ・スタンダードの木崎大佑氏(右)。SHIBUYA109のミーティングスペースは、来館したアーティストや芸能人のサイン、メッセージが壁一面に広がる
SHIBUYA109渋谷店の総支配人、SHIBUYA109エンタテイメントの丸山康太氏(左)と、バニッシュ・スタンダードの木崎大佑氏(右)。SHIBUYA109のミーティングスペースは、来館したアーティストや芸能人のサイン、メッセージが壁一面に広がる
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 around20(15~24歳)、つまり今のZ世代をメインターゲットに置くSHIBUYA109(以下、109)。15年間、109に関わってきた丸山氏は、現代のZ世代の特徴を表すキーワードとして、「失敗したくない消費」と「推し活」を挙げる。例えば、以前パーソナルカラー診断や骨格診断イベントを開催した際は、「似合わない色で失敗したくない」「自分に合うものが知りたい」と考えるZ世代が長蛇の列をなした。また「消費をしない」「消費を嫌う」と思われているZ世代だが、自らの「推し」には出費を惜しまないとも説明する。その背景にある心理や、なぜ109はいつの時代も若者から圧倒的な支持を得続けるのかを、丸山氏と木崎氏が語り合った。

109、「挑戦」へのDNA

木崎大佑(バニッシュ・スタンダード、以下木崎) 本日はよろしくお願いします。丸山さんは109の総支配人になる前は、どんなお仕事をされていたのですか?

丸山康太(SHIBUYA109エンタテイメント、以下丸山) 109の仕事を始めたのは2006年で、109公式通販(EC)サイトの立ち上げやサイト運営を経験してきました。その後リアル店舗の運営に携わり、プロモーション分野やエンタメ事業を担当。総支配人になったのは、21年7月です。

丸山康太氏
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丸山 康太 氏
SHIBUYA109 総支配人
1973年生まれ。大学卒業後、イベント・プロモーション企画会社に入社し制作業務を習得。2001年に現在の東急モールズデベロップメント(TMD)に転職。ショッピングセンターのプロモーション、コーポレートブランディング、直営事業、広報業務等を経験。06年から7年間109公式通販サイトの営業部門を担当し、13年よりリアル店舗の運営に携わる。直近ではエンタメコンテンツとのタイアッププロモーション、DISP!!!(エンタメ専門のポップアップストア事業)、シリンダー広告やイベントスペースのメディア部門を統括。21年7月より現職の店舗運営部長兼SHIBUYA109総支配人

木崎 先にECサイト運営を経験してから、リアル店舗を担当しているという順番なんですね。両者は見ている世界が全然違うので、ECサイトとリアル店舗を両方取り組まれている会社の中には、あつれきが起きることも多いと聞きます。109ではいかがですか?

丸山 確かに、私がEC事業の担当をしていた当時は話がかみ合わないことはよくありました。ECサイトを立ち上げた頃は109が全盛期でしたから、リアル店舗の方が圧倒的に売り上げが大きくて、ECは立場が低かったというのもあります。とはいえ全盛期のECの年間売り上げは約20億円、営業利益も2億円を計上している時代もあったので、数字としては悪くなかったと思います。(※編集部注:ECサイトでのファッションの取り扱いは20年に終了した)

木崎 ECサイトはいつから運営されていたのでしょうか。

丸山 SHIBUYA109の公式通販サイト「109NET」を立ち上げたのは、04年です。当時はまだスマートフォンはなく、「ガラケーで商品が買える」という時代だったので、かなり早い取り組みだったと思います。当時は商品を掲載すればすぐに売れていましたし、雑誌広告にECサイトへ誘導するQRコードを付けたら、これまた飛ぶように売れていました。

木崎 そんなEC黎明(れいめい)期からいろんな施策に取り組まれていたんですね。22年4月にはメタバース構想を発表し、オリジナルNFT(非代替性トークン)アイテムを販売開始するなど、他の企業が二の足を踏むことでも、109は新しいことに挑戦している印象があります。

丸山 歴史的な経緯もあると思います。109が開業した1979年当時は、呉服店、宝石店、書店、定食屋さんもある全方位型のビルでした。その方針が大きく変わったのが、90年ごろ。それまで世の中がバブル景気で順調に売り上げを伸ばしていましたが、バブル経済がはじけ、商業施設に集客できない時期がきたんですね。

 そんな最中、館内でルーズソックスを売っているお店に、女子高生が集まってきました。ちょうど世の中は、80年代の女子大生ブームから、90年代の女子高生ブームに変化した頃。渋谷の街にも高校生があふれていました。当時の開発担当者は、こうしたトレンドやマーケットの変化を分析し、若者に舵(かじ)を切る判断をしたそうです。

 当時、若者をターゲットにしたトレンドサイクルの早いファッションビルはどこにもなく、志を同じくする小さな会社や、若い個人の方にも出店してもらい、まさに混然一体となった「挑戦」が始まりました。こうした経緯がDNAとして受け継がれ、今でも新しいことへの挑戦ができているんだと思います。

取材後の雑談で、キャンプという共通の趣味があることが判明した2人。しばらくキャンプ談議に花が咲いた
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木崎 知らなかったです。初めから今の形態ではなかったんですね。

丸山 はい。若者に舵を切る決断から「チャレンジ」「挑戦」が当然のキーワードになり、出店ブランドも個性を爆発させ、多くの若い才能が開花しました。館内ではブランド同士のライバル意識から相乗効果が生まれ、館外ではいわゆる「マルキュー系」ファッション雑誌が次々創刊されました。そうした流れを若いお客様が支持し、「熱狂」につながっていったのだと思います。かつては雑誌で、「マルキュー(109)だけがなぜ売れる」と、1冊丸々109をいろいろな角度から掘り下げた特集が組まれたこともあるんですよ。

特集では、109の歴史や人気ブランドの戦略など、ビジネス視点で見た「マルキュー分析」が紹介されている
特集では、109の歴史や人気ブランドの戦略など、ビジネス視点で見た「マルキュー分析」が紹介されている
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優先するのは、若者の感覚

木崎 今のインフルエンサーやライブコマーサーの源流は、109で生まれた「カリスマ店員」だったと思うんです。カリスマ店員はこの20年ほどでどう変わってきましたか?

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