リアル店舗は、売る場から体験してもらう場へ――。「ショールーミング型(メディア型)店舗」への新規参入が相次ぐのはなぜか。蔦屋家電+を立ち上げ、現在はバニッシュ・スタンダード(東京・渋谷)で、店舗スタッフのオンライン接客を通じた価値向上を試みる木崎大佑氏が、国内の主要プレーヤーや小売り業界の有識者と対談する本連載。第1回は、ベータ・ジャパン(東京・千代田)代表の北川卓司氏に話を聞いた。
今回は、店内に設置されたAI(人工知能)カメラや、ヒートマップによる行動データの取得など、あらゆるデータを出品企業に提供することで、それらの情報を商品開発などに生かすことができるRaaS(Retail as a Service、小売業のサービス化)のパイオニアとして注目を集めるベータ・ジャパン(東京・千代田)代表の北川卓司氏を迎える。
2015年に米サンフランシスコで産声を上げた「b8ta(ベータ)」は、20年日本に進出。22年3月時点では東京・有楽町、新宿、渋谷に店舗を構える。
ベータ・ジャパンは、21年12月末、米国本社から日本国内向け事業における商標権及びソフトウエアのライセンスを独占的に取得し、独立した。新型コロナウイルス禍の影響を大きく受けた米国では、全店舗が閉鎖に追い込まれるなど苦しい状況が続くが、日本では22年4月下旬、4店舗目を埼玉県越谷市の「イオンレイクタウンkaze」内に開設する。コロナ禍でも国内事業が好調なのは、展示商品の構成や出展料金モデルなど、日本独自の展開が奏功しているからだ。
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コロナ禍で変革する小売業界
木崎大佑(バニッシュ・スタンダード、以下木崎) 北川さん、本日はよろしくお願いします。対談の第1弾です。
北川卓司(ベータ・ジャパン、以下北川) よろしくお願いします。どうして連載1回目にご指名いただけたのでしょうか?
木崎 正直にお話しすると、私はb8taを創業当初から知っていたわけではなかったんです。18年ごろにダグ・スティーブンスさんの『小売再生』(プレジデント社)という本を読んでb8taのことを知り、「これは面白いビジネスモデルだな」と感じました。
店舗をメディア化するという考え方は、日本だと私の前職のカルチュア・コンビニエンス・クラブが、「蔦屋書店」を通じて早くから実現していました。この頃米国では、(ECサイトの台頭などで)リアル店舗で販売する書店やレンタルビデオ店がどんどんと潰れていたので、日本も同じように変化するだろうという予測がありました。私が携わった「蔦屋家電+」は蔦屋書店から派生した「二子玉川蔦屋家電」のさらに派生系で、メディア型として完全にとがらせた新業態。RaaSを運営する上で、当時はあまり日本には例がなかったもので米国のb8taの店舗を視察したかったのですが、結局行けずじまいでした。日本の店舗と同じようなテイストだったのでしょうか?
北川 有楽町店そのままでしたよ(笑)。
木崎 そうなんですね(笑)。次は埼玉県越谷市のイオンレイクタウンkazeへの出店が決まっていますよね。b8taの都心以外への出店は、福岡でのポップアップを除けばこれが初めてですか?
北川 はい。b8taは販売を主目的にはしていないのですが、とはいえ不特定多数の方に来店いただかないと、付加価値としての定性的なデータを出品者に提供できません。なので地理的な場所というよりは、例えばモールなどの商業施設の中で人が多く集まりそうなベストロケーションへの出店を意識しています。今回はイオンレイクタウンの中でもいい場所にお店を構えられそうだということで、出店を決めました。
木崎 多店舗展開する場合、東京でブランドを認知されたら、次は関西に出店することが多いように思います。なぜ越谷市に開設するのでしょうか?
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