LINEのゲームプラットフォーム「LINE GAME」が提供開始から10年を迎えた。日本で開発したオリジナルゲーム『LINE POP』のサービスを開始したのが2012年11月19日。以来、LINEというコミュニケーションプラットフォームをベースとし、カジュアルゲームを主体にさまざまなチャレンジを続けてきた。この10年間どのような方針でゲーム開発・運営に取り組み、市場にどのような影響を与えてきたのか。今後の10年の方向性も含め、LINEのゲーム事業を取り仕切る、LINE執行役員ゲーム事業担当の奥井麻矢氏に聞いた。
――この10年間、LINEにとってLINE GAMEはどのような役割を果たしてきたのでしょうか。
奥井麻矢氏(以下、奥井) LINEでは「CLOSING THE DISTANCE」というミッションを掲げ、人と人との距離を近づけることに注力してきました。それゆえLINE GAMEに関しても人と人、人とゲームとの距離を縮め、それによってユーザーを楽しく夢中にさせることをポリシーとしています。
スマートフォンへのシフトが進んだ10年前、スマホゲームはまだ数が少なくプレーする人もまだ多くありませんでした。そこでまだスマホでゲームを体験したことがない人に対して遊びやすいゲームを提供し、ゲームを楽しむ人が相対的に増えたらいいな、という考えでLINE GAMEを立ち上げました。その時のポリシーは今もあまり変わっておらず、たくさんの人に遊んでもらうゲームを提供できているのかなと思います。
――LINE GAMEはLINEのリアルグラフを活用し、身近な人とのコミュニケーション活性化に力を入れてきましたが、最近ではゲームを巡るコミュニケーションにも変化が出てきています。
奥井 確かに、LINE GAMEでリアルの友達とつながるムーブメントをつくることはできましたが、ゲームのコミュニケーションは当然リアルの友達とだけではありません。知らない人ともつながる体験こそ、ゲームが持っている良さだと思いますし、人と人とのつながりを大事にしている会社としてはそうしたつながりをつくることにも力を入れています。実際LINEのオープンチャットなどを使って、会ったことがない人同士がメンバーとなってゲームを楽しみ、会話できる仕組みを整えています。
――オープンチャットはゲームにどのような形で活用されているのでしょうか。
奥井 たくさんの人が遊んでいるゲームではアクティブにコミュニケーションが働いていますし、それがうまく回って多くの人にゲームがプレーされている状況です。一方で、よりコアでターゲットを絞ったプレーヤーに楽しんでもらっているゲームでは、リアルグラフを取り入れるのはどうなの? というケースもあり、その場合はバーチャルなつながりを促進するためオープンチャットでコミュニケーションの場を提供するなど、プロダクトごとに分けていますね。
また当社が提供しているゲーム以外にもオープンチャットやリアルグラフのような機能を提供するケースもあります。
――外部企業からLINEを活用したいという声は多いのでしょうか。
奥井 問い合わせはたくさんいただいていています。特に海外の会社から「日本で大きなプラットフォームであるLINEを活用したい」という引き合いが強いですね。中国であれば「WeChat」、欧米であれば「Facebook Gaming」など、同様の機能を持つサービスが海外にあることから、日本では当社に声がかかることが多いようです。
「変えないぞ」と腹をくくることも大事
――この10年間さまざまなタイトルを投入し、ヒットを生み出した一方で終了したゲームも少なからずあります。それらの経験からどのようなことを学びましたか。
奥井 包み隠さず言いますと、当初カジュアルゲームで成功体験を出せたものの、その後どうするかと悩んだ時期がありまして、ミドルコアも含めさまざまなタイトルを出してきました。そうした中から『ジャンプチヒーローズ』や『LINE レンジャー』など花開いたゲームもあれば、日の目を見なかったゲームもあります。
やはりLINEだからこその強みでもあるリアルグラフやオープンチャットをしっかり使いきれるかどうか、自分達が提供する際の付加価値が付けられる状態かどうかが大事だなと反省し、いろいろな経験から他が追随できないものをいかに生み出すかにこだわっていくことが重要だと感じました。
――逆に、ミドルコア領域で成功できたタイトルにはどのような理由があったと考えていますか。
奥井 自己分析ではありますが、共通しているのは分かりやすいゲーム性と魅力のあるIP(知的財産)の掛け合わせでしょうか。万人に認知されているキャラクターを使い、他社のミッドコアよりも幅広い層をターゲットにできたことが成功要因なのかなと考えています。
一方で、一部の年齢層にぐっと入り込んで高いARPU(1ユーザーあたりの平均売り上げ)を出すようなゲームは、LINE GAMEにあまりフィットしなかったですね。我々のゲームを遊んでくれている層はLINEブランドという安心感の影響も大きく、年齢層も広い。LINE GAMEの印象とマッチしているからこそユーザーが集まってくる、という部分もあるのではないでしょうか。
――『LINE:ディズニー ツムツム』のように人気が長く続いているタイトルも多いですが、それだけ人気が継続している要因はどこにあると見ていますか。
奥井 気を付けていることの1つは、毎日習慣的にゲームを遊びにきてくれているユーザーに、大きな変化を与えると受け入れられない可能性が高いことです。運営として変化を加えたくても、それをユーザーが求めているのかという点を一番意識しています。運営視点でどんどん要素を足しているうちにシンプルさが失われることはよくあるので、ある意味「変えないぞ」と腹をくくる部分を持つことが、長期運営する上で大事なのかなと思ったりしています。
―― 一方で最近のスマートフォンゲームの傾向として、古くからあるタイトルが継続してプレーし続けられ、新しいゲームが広がりにくいことも課題になっています。
奥井 運営母体をしっかりさせる上では今、頑張っているタイトルが大事であるものの、そのことは悩みどころです。自分達が満を持して出しても、ユーザーは「既に遊んでいるゲームから乗り換えてまで遊びたいと思うか?」という視点で見ていると思いますので、ハードルは高いですよね。
その意識を変えられるまで頑張っていかないといけないと思いますし、正直どの会社も苦労しているところではないでしょうか。ただ年に1度は大きなタイトルが出てきたりするので、ヒットゲームがもう出ない状況でもないかなとは思っています。ユーザーは待っている状況だと思うので、愚直に頑張りたいですね。
ツムツムのファンから直筆の手紙
――この10年間、LINE GAMEとして大切にしてきたことは何でしょうか。
奥井 LINE GAMEで人と人の距離が縮まり、より多くの人に楽しい時間を提供することです。ただそれを続けていく為には、時代の変化、パラダイムシフトが起こるタイミングと、自分たちの価値観をどう整合させるかが大切だと思います。
技術やトレンドは変化しようと、ユーザーは同じ人だったりするので、それらユーザーにとって我々のアプローチはどう感じられるのかという想像力を持ち続けることが大事。トレンドにいち早く乗るアーリーアダプターはビジネスの良いお客さんになるかもしれませんが、LINE GAMEが大事にしている「より多くの人に」という価値観からは少し外れます。急いでトレンドを狙ってビジネスチャンスをつかみに行くより、最終的に広がる潜在ユーザーを想像して、そちらを取りに行くというのが我々らしいアプローチなのかなと思っています。
――スタートからの10年間、LINE GAMEは社会にどのような影響を与えてきたと考えていますか。日本の利用者の53.3%が女性というのもLINEをプラットフォームとするLINE GAMEならではの特徴と感じますか。
奥井 実は「親子三代でLINE○○を楽しんでいる」という声を頂くことが多いんですよ。これまでゲームをやらなかったおばあちゃんが、「(ゲームを)プレーするのでハートが欲しい」と言ってきたりする。そういうことはLINE GAME以外では成立しづらく、人と楽しく遊びながらつながりを感じる日々の提供を担えてきたのではないかと思っています。
実際、LINE GAMEで初めてゲームをしたという人は結構いるようです。80歳くらいの女性から、旦那さんに先立たれてショックを受け、生きる意味を見失っている中で、『LINE:ディズニー ツムツム』に出合って楽しみを見いだせているという感想をいただいたんです。LINEではなく直筆のお手紙で、です。あの時はうれしかったですね。
――他にはどのようなことがありますか?
奥井 隙間時間にゲームをプレーする習慣を作り出したことでしょうか。これはスマートフォンゲームが流行した時代だから生まれてきたもので、我々だけがその習慣をつくったとまでは言いませんが、今では普通になっている習慣を生み出すことに貢献してきたのではないかと思っています。
ゲームはより簡単に、暇つぶし感覚に
――LINE GAMEとして次の10年、どのようなことに取り組んでいこうと考えているのでしょうか。
奥井 動画がそうであるように、コンテンツがよりカジュアル化、ショート化していく流れには逆らえず、もっと簡単にプレーしてやめられる、暇つぶし感覚のものが模索されていると思っています。その具体的な取り組みの1つが、ハイパーカジュアル系のゲームを遊んでLINEポイントがもらえる「LINEポイントゲーム」です。“ポイ活”ユーザーをターゲティングしながら事業としても順調に拡大しています。
もう少し長いスパンで見ますと、パラダイムシフトがこれから起きるかどうかと騒がれている中で、自分達がどうチャレンジしていくのかをしっかり考えていきたい。そこで普段のLINE GAMEの運営組織とは別の形で、中長期的な取り組みを専門的に考えていきます。“イノベーションのジレンマ”をどうやって乗り越えていくか、より組織的に意識して未来づくりをやっていきたいなと思っています。
――ポイントゲームとパラダイムシフトという視点で言うと、昨今ブロックチェーンゲームが注目を集めています。こちらの取り組みはいかがでしょう。
奥井 ブロックチェーンについては、技術よりも、潜在的なユーザーニーズに対してその技術を生かして多くの人が楽しめる我々らしいエンタメが届けられるかを見極めたいという状況です。ブロックチェーン自体がLINE GAMEのユーザーさんにはなじみのないものかなと想像しますが、「こんな未来は起こらない」ということが起きた歴史もある。そこをバイアスなく見ていくことが必要だと思っています。
――昨今注目されているメタバースについてはどうでしょう。
奥井 メタバースは、自分の時間や生活を仮想空間上に持っていくという類のものです。動画や音楽の体験ニーズがショート化するのがトレンドの今、どっぷり時間を使う類のメタバースにどれほどユーザーの潜在ニーズがあるのかがポイントになってくると思います。最終的に広がるかどうかを意識しながら、メタバースのハードルを下げる役割こそがLINE GAMEが介入する余地になってくるのかなと思います。
LINE GAMEとしては最先端の技術を一番に実現しなくても、自分達のポジションを取ることが大事です。来るか来ないか分からなくてもスピード優先で相場を張るという方針ではないことは確かですね。
――もう1つ、次の10年を見据える上で大きな変化が、21年3月のZホールディングスとの経営統合です。この統合がLINE GAMEやその役割に変化を与えているのでしょうか。
奥井 LINE GAME自体に大きな影響はありませんが、LINEとヤフーのエンタテインメント事業を統合し、Z Entertainmentという1つの会社として運営しています。その流れで、LINE GAMEにフォーカスして考えてきた我々も、他のサービスと一体となって盛り上げるムーブメントを起こしていきたいと考えています。
LINE執行役員ゲーム事業担当
(写真/中川容邦)