『ウマ娘 プリティーダービー』の大ヒットが記憶に新しいCygames。モバイルゲームと並び、注力するのがコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム機向けのゲーム) だ。2022年6月にリリースした『リトル ノア 楽園の後継者』も好調だ。コンシューマー事業本部長で、同作のプロデューサーも務める高木謙一郎氏に話を聞いた。

Cygamesコンシューマー事業本部 プロデュース部 コンシューマー事業本部長の高木謙一郎氏
Cygamesコンシューマー事業本部 プロデュース部 コンシューマー事業本部長の高木謙一郎氏

コンシューマーで狙う世界的なブランド浸透

――2021年2月にリリースされた『ウマ娘 プリティーダービー』(ウマ娘)が引き続き好調です。

高木謙一郎(以下、高木) おかげさまで『ウマ娘』がいまだ高い人気を誇っていると共に、『グランブルーファンタジー』(グラブル)はリリースから8周年を迎え、登録者数も22年5月の時点で3200万人を超えました。この1年は会社として盛り上がった時期でしたね。

 私は『ウマ娘』には直接関わってはいませんが、配信開始が近づくにつれて社長などが内容をチェックする音を近くで聞いているだけでも「もしかしたらすごいものができているのでは?」と思っていました。正直なところ、『ウマ娘』がここまでヒットするとは当社はもちろん、誰も予想できなかったのではないでしょうか? 「よりよいものを」と配信開始をあえて延期させて完成度を高めた成果ですね。

2021年2月にリリースされ、大ヒットした『ウマ娘 プリティーダービー』
2021年2月にリリースされ、大ヒットした『ウマ娘 プリティーダービー』
『グランブルーファンタジー』はリリース8周年で登録者数が3200万人を突破
『グランブルーファンタジー』はリリース8周年で登録者数が3200万人を突破

――社内にもよい波及効果が生まれたのでは?

高木 社内にとてもいい雰囲気が生まれていますね。他のチームにも勢いがついていることを実感します。

――以前からCygamesはコンシューマーゲームを強化する意欲を示しています。こちらはどうでしょう。

高木 モバイルゲームは、国内を中心にアジア圏においてさまざまなタイトルがよい結果を出せていて、知名度と人気を得ていると自負しています。一方でグローバルで見ると、北米や欧州ではそこまでの実績を上げるには至っていません。コンシューマーゲームはそうした現状を打破する戦略の1つと考えています。

――モバイルでマーケットに地域的な偏りが生まれる理由はどんなところにありますか。

高木 日本と海外では受け入れられるゲーム性に違いがあります。日本を含むアジア圏ではキャラクター性とそれを支えるグラフィック、ストーリー性が重視されますが、グローバルではまた別の強みを持つタイトルが強かったりして傾向が捉えづらいんですね。

 コンシューマーゲームは数字で見るとモバイルゲームほどの爆発力がないものの、コンテンツとしてより広い地域で受け入れられる可能性がぐっと高まります。Cygamesというブランドを世界へと広げていくためには、やはりコンシューマーゲームにも注力していきたいです。

開発者から見たモバイルとコンシューマーの違い

――高木さんは19年4月にCygamesへ入社されましたが、その時点ではコンシューマーゲームの事業部は御社内にはありませんでしたよね。

高木 はい、「コンシューマーゲームで何か出してよ」(笑)と代表の渡邊(耕一)に誘われてCygamesに合流しました。その時点で、コンシューマータイトルを作るメンバーはたくさんいましたが、パブリッシュ(ゲーム事業においてリリースや販売に関わる業務)をまとめる事業部がまだありませんでした。情熱を込めて作り上げたゲームをしっかりと広めるには、コンシューマーゲームのパブリッシュにたけたスタッフがそろった事業部の存在は欠かせないため、合流早々に立ち上げ、人集めから始めました。

――その「何か」は、高木さんがこれまで手掛けてきた作風を生かしたものなのでしょうか?

高木 確かに私が手掛けてきた作品に通底する「作風」というものは存在すると思いますが、それはこれまでの環境で“できること”と“やりたいこと”から培われたものです。Cygamesに入って環境は大きく変わりましたし、可能性もぐっと広がりました。

 頭を切り替えて、今までできなかった、より大きなことにチャレンジしようと思っています。Cygamesは正統派を狙う会社だと思っているので、まずはその流れにのっとって「これぞCygames」とお客様に思っていただけるような作品をリリースしたいです。

 そうした流れをしっかり構築した上で、私が過去に作ってきたゲームと通ずるテイストのものもいつかは作れたらなと。

――モバイルとコンシューマー、両方のタイトルを内製するゲームメーカーは大手を除くとそう多くはありません。制作者側から見て両者の違いはありますか。

高木 この5年ほどでだいぶ差がなくなってきたと思います。モバイル端末の性能が上がったために、家庭用ゲーム機やPCで人気のタイトルがモバイルに移植されるようなことも起きています。とはいえ、操作するインターフェースも違いますし、ゲーム性をどこに求めるかなどの根本の部分でも違いは大きいです。

 印象論のように聞こえるかもしれませんが、コンシューマーゲームは腰を据えて遊び、しっかり満足感を味わってもらう。一方のモバイルゲームは「もうちょっと食べたいな」という感覚を残すというか、満足させ切らないところでとどめておくというような傾向があります。

――その違いは収益構造の違いも影響しているのでしょうか。

高木 そうですね。ガチャの有無などは収益面でも楽しませ方という意味でも大きな違いです。

 加えて作り方による違いもあるでしょう。モバイルは大枠を作り、中身はアップデートや期間限定イベントなどで積み重ねていくような作り方が可能です。リリースしてみて、ユーザーから不満の声が上がればそこを修正することもできます。

 それに対しコンシューマーゲームは、ゲーム機がネットにつながるようになってだいぶ変わったとはいえ、やはり発売日までに完成されたものをしっかりと作らないとユーザーに「つまらない」と評価されたらそこで終わりというところがあります。

6月末に『リトル ノア 楽園の後継者』を発売

――22年6月28日にはNintendo Switch、PlayStation 4(PS4)、PC(Steamでダウンロード販売)向けに『リトル ノア 楽園の後継者』を発売しました。

高木 15年にグループ会社のBlazeGamesがモバイル向けにリリースしたリアルタイムストラテジーゲーム『リトル ノア』の世界観とキャラクターを利用したアクションゲームです。錬金術師の少女「ノア」が旅の途中で壊れた方舟を修理するため、ネコのジッパーと一緒にダンジョンを攻略しながら遺跡を探索する内容です。ゲームの内容も1500円(税込み)という価格も、手軽に始められてしっかり楽しめることを重視して作りました。

2022年6月28日にNintendo Switch、PlayStation 4、PC向けに発売した『リトル ノア 楽園の後継者』
2022年6月28日にNintendo Switch、PlayStation 4、PC向けに発売した『リトル ノア 楽園の後継者』

――開発に当たって気をつけた部分などはありますか?

高木 本作は「ローグライト」と呼ばれるジャンルのゲームです。攻略するダンジョンに入るたびにマップの構造がランダムに変わるという“ローグ”(と呼ばれるゲームジャンル)の要素を持ちながら、途中でキャラクターが死んでしまってもアイテムを持ち越せるなどリスクが小さい設定にしています。

 キャラクターが死んだらすべてを失ってゲームオーバーというひりひりするような緊張感もいいんですが、それだとストーリーが進むほどゲームオーバーのリスクが重く感じられる人もいるでしょう。もっと手軽にプレーできるゲームがあってもいいだろうということで、『リトル ノア』はゲームオーバーになっても成果は手元に残り、繰り返しチャレンジするうちに誰もがクリアできるという難易度を意識しました。

――Nintendo Switch、PS4、Steamでの同時リリースです。

高木 ダウンロード専売なので、ワールドワイドで同時にリリースしました。目標としてきた本格的な世界進出の第1弾とも言える作品です。

 コンシューマーゲームは、インストール数ではモバイル向けにはまったくかなわないにしても、プラットフォームを広げて販売していきたいという思いは常に持っていました。日本やアジア圏で売れてほしいのはもちろんですが、思いもよらない地域で爆発しているような光景も見てみたい。

 実際、リリース後には、英語圏や中国語圏からのレビューが日本語のものを上回るくらい寄せられるなど、手応えを感じています。

――一方でPS4、PS5、PC向けリリースを予定している『グランブルーファンタジー リリンク』(グラブル リリンク)は23年に発売が延期になりました。

高木 『ウマ娘』のときと同様、しっかりと作り込んで完成度を上げるための延期です。会社としてもチームとしてもそういう方針で鋭意開発を進めているところですから、楽しみにしていてください。

2023年に発売予定の『グランブルーファンタジー リリンク』
2023年に発売予定の『グランブルーファンタジー リリンク』

コンシューマーゲームだけで約20タイトルが開発中

――今後リリースを予定しているゲームはどれくらいあるのでしょう。

高木 『リトル ノア 楽園の後継者』のようにライトなものから大作まで、規模もジャンルも異なる20弱のコンシューマーゲームを現在開発中です。プロデューサーはたいてい大小合わせて4~5本を兼務で進めている状況ですね。

 そのうち半分くらいは発売時期が見えていて、23年以降、年に2~3本のペースで出していければと考えています。中には「期限を切らず、最高の1本を」と進めているタイトルもありますね。

――コンシューマーだけで20タイトルですか?

高木 はい。クリエイターとしてもゲーマーとしても、レースもあれば、アクションもシューティングもRPGもあるような、ジャンルのバリエーションが豊富なメーカーこそが面白いと思っていますし、まずはそこを目指したいですね。

――それだけのタイトルを何人くらいで作っているんですか?

高木 Cygamesには3000人を超えるスタッフがいます。完全内製のものもあれば、外部の制作会社と連携して作っているものもありますが、これだけの人的資源があれば、ジャンルも方向性も、幅広くカバーできます。

――22年3月には大阪の開発拠点にモーションキャプチャースタジオを新設しました。

高木 ゲーム開発に必要なモーションキャプチャーや音声収録のための専用施設を作りました。施設を自前で持つのは、それら作業にかかる時間をカットするためです。設備投資に対する思い切りの良さは私から見てもすごいと感じます。「いいものを作る」ための環境がどんどん整っています。

――クリエイターとしてはやはり開発環境が社内で完結するほうがいいですよね。

高木 そうですね。注力するポイントはどうしてもリテイクが多くなります。アウトソースすると細部まで理解し合うだけでもかなり時間と手間がかかりますし、クオリティーレベルの要求を貫き通せない部分も出てきます。すべて社内で賄うなら全員が納得するまで詰められるのは強みです。

「チーム・サイゲームス」がスローガン

――モバイルとコンシューマーのバランスについて目標や目安はありますか。

高木 「面白いものを作ろう」ということが最優先で、デバイスにこだわりはありません。その作品を広めるにはどういった表現方法が最適なのかが大事です。コンシューマーか、モバイルか、それとも映像作品か、コンテンツのコアを見極めればおのずと見えてくるものだと思っています。

 ゲームを作るというよりは、IP(ゲームなどの知的財産)を作るという感覚です。今までのCygamesは、たまたまそれがモバイル中心になっていただけということでしょう。

――例えばモバイルからコンシューマーに移植といったケースもあると思いますが、そうした場合、モバイルとコンシューマーの事業部の役割はどういう分担するのでしょう。

高木 その場合はモバイルを開発したコアメンバーがプロジェクトの中心となって、コンシューマー版の采配を振るうといった形です。あくまでも1つプロジェクトとして進めます。

――モバイルとコンシューマーでは販路も違うし広告の打ち方も違いますが、そこはいかがでしょう。

高木 同じタイトルであれば、それもモバイルとコンシューマーの事業部が協力しながら行います。例えばコンシューマーゲームの『グランブルーファンタジー ヴァーサス』(グラブルVS)では、『グラブル』のユーザー属性などをモバイルのチームと共に分析し、ゲーム性や広告戦略をコンシューマータイトルとしてどう落とし込むかといった方針を立てました。

 当社には「チーム・サイゲームス」というスローガンがありますが、その言葉通り、異なる部署が1つの固まりとなって知恵を出し合い、取り組んでいますね。

『グランブルーファンタジー ヴァーサス』
『グランブルーファンタジー ヴァーサス』

ユーザー主導のイベントやゲーム大会にも注力

――新型コロナウイルス禍も長くなり、リアルのイベントも徐々に復活しています。

高木 さまざまなイベントを通じて世界的に「Cygames」という名前を浸透させる流れを作ろうとしていたところでコロナ禍になり、この数年の予定は大きく変わってしまいました。

 ですが22年になって、リアルなイベントがだいぶできるようになってきました。感染拡大の状況にもよりますが、eスポーツ大会やファン向けの大規模イベント、各地のゲームショップを会場にした小規模イベントなど、大小さまざまなイベントを徐々に展開していきたいですね。

――Cygamesというと大規模イベントの印象が強いのですが、ショップイベントなどにも注力しているんですね。

高木 コミュニティーやファンと直接触れ合ってその反応を知ることはすごく重要です。集客数では大きくなくても、後々根強いファンを生み出す下地になりますから、今後は積極的にやっていきたいと思っているんですよ。

――今後のeスポーツタイトルの展開は?

高木 『シャドウバース』と『グラブルVS』には引き続き力を入れていく方針です。Cygamesではユーザーコミュニティーや、ユーザー同士の大会もサポートしています。ユーザーの皆さん自身にコミュニティーを拡大していただける面があるのでそこはありがたい。この部分にはもっと投資していくべきだと思っています。

「コミュニティーやファンと直接触れあう機会は重要」と語る高木氏
「コミュニティーやファンと直接触れあう機会は重要」と語る高木氏

――クリエイターとして注目している技術やトレンドはありますか?

高木 今後はメタバースやNFTに関わっていくこともあるでしょうね。とはいえ、技術ありきで考えることはなく、あくまでもコンテンツの表現に最適なものを必要に応じて採用していきたいです。

 個人的にはホログラム技術の発展に期待しています。モニターにしばられず、テーブルの上に浮かび上がる立体映像でゲームができるようなものが理想。VRヘッドセットを使って自分がバーチャルの世界に入るのではなく、映像に飛び出してきてほしい。

 お酒なんかを飲みながらテーブルの上でサッカーができるくらいまでになれば、新しい遊び方が生まれるはずだし、人と人とが集まって遊ぶコミュニケーションツールとしても新たな可能性が生まれるのではないかと思います。

(写真/中村宏、写真提供/Cygames)

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