2021年に従来のフェイスブックから社名を変え、来る新時代に向けて、事業の中心にメタバースを据えたのが米メタ。FacebookやInstagramといったSNSのプラットフォーマーとして、また、VRヘッドセット「Meta Quest」のメーカーとして、日本のゲーム市場にどのように取り組むのか。
人と人がつながる新たなコミュニケーションの場として、急速に注目度が高まっている仮想空間の“メタバース”。来るIT新時代に向けて、そのメタバースを事業の中心に据えたのが米メタだ。メタは、FacebookやInstagramといったSNSだけでなく、ソーシャルVR(仮想空間)の体験の場「Horizon Worlds」やVR空間を体験できるVRヘッドセット「Meta Quest」を展開する。
メタは近年、ゲーム領域にも力を入れる。SNSおよびメタバースのプラットフォーマーとして、ゲームビジネスにどのように取り組んでいくのか。日本におけるゲーム事業の責任者であるBenjamin Yu氏に文書で戦略を聞いた。
Instagramでもゲームコンテンツは人気
――日本のゲーミング分野における2021年の成果、および22~23年の注力ポイントは?
Benjamin Yu氏(以下、Yu) ゲームは世界中で成長しています。20年からゲームを始めた多くの新規プレーヤーたちが、21年以降も引き続きプレーしているので、新作ゲームが脚光を浴びやすくなっています。例えば、スマートフォン向けゲーム『ザ・アンツ:アンダーグラウンド キングダム』は、戦略シミュレーションゲームのジャンルでトップに躍り出ました。このゲームは、プラットフォームの双方向性を生かして、Instagramの「アンケートスタンプ」機能とアリの王国を発展させるというゲームコンセプトを組み合わせ、プレーヤーがアリの戦いの結果を左右できるようにしたのです。
Instagramも世界的に成長していることから、ゲームパブリッシャーは続々とInstagramにアカウントを開設して、ゲームコンテンツを共有しています。Cygamesなどは、舞台裏を伝えるアートワークやファン参加企画をInstagramで共有して、コミュニティーを拡大しています。また、ポケモンは、購入可能なコンテンツやステッカー、AR(拡張現実)フィルターを共有して、ファン同士がお気に入りのポケモンへの愛をアピールできるようにしています。
当社は引き続き、22年から23年も、現実世界と仮想現実で体験できることのギャップを埋めることに力を入れていきます。初期のInstagramは写真共有が一般的でしたが、その後ストーリーズや動画といった、より没入感あるコンテンツが増えました。日本ではここ1年でリール(最大60秒の縦型動画を投稿・視聴ができる機能)が著しく成長しており、利用者自身がより楽しみながら、自分らしさを表現することができるようになっています。オリンピックのワンシーンからONE OK ROCKのコンサートまで、さまざまな瞬間がリールでキャプチャーされており、メタバースが浸透すれば、リールの活用はゲームのプレー画面にも広がっていくと考えています。
実際、新型コロナウイルス禍の間、韓国のゲームパブリッシャーCom2uSは、自社の『サマナーズウォー: Sky Arena』と『ストリートファイターV チャンピオンエディション』とのコラボレーション企画として、プレーヤーが自宅で、両タイトルのキャラクターをARで見られるようにしました。コロナ禍後は、現実世界(フィジカル)にゲームの世界(デジタル)を融合させた「フィジタル」な体験という新たな機会が生まれていくでしょう。実際の街角に『サマナーズウォー』や『ストリートファイター』のキャラクターが現れたら、面白いと思いませんか?
VR(仮想現実)では、Meta Quest 2用にリマスターされた『バイオハザード4』を、多くのプレーヤーに楽しんでいただけていることを、非常にうれしく思っています。そして、4月には、無料ダウンロードコンテンツ『ザ・マーセナリーズ』をリリースしました。
AR/VRクリエイターの育成に注力
――メタバース事業に軸足を移していくなか、御社が描くメタバースの未来像とはどのようなものでしょうか? そこにゲーミングはどうからむとお考えですか?
Yu メタバースは、ソーシャルテクノロジーにおける次の進化であり、モバイルインターネットの後継と捉えています。プレーヤーがオフラインからオンラインに移行したのと同じことが、メタバースでも起こると考えています。一夜にして起こる変化ではありませんが、いずれメタバースは、人々とコミュニティーに新たな機会を切り開くようになるでしょう。
それ以外にも、例えば以下のような形で、現実世界からメタバースの没入型仮想体験への「架け橋」が構築されるのではないかと注目しています。
- Instagramのページをクリックすれば、ゲームに接続してプレーができる設計
- 新作ゲームのプロモーションを盛り上げるために限定版のデジタルグッズを制作して、熱烈なファンがメタバース内で作品への愛を表現できるよう喚起
- ブランドとのエンゲージメントを深めるために、メタバース上でクリエイターやVTuberと提携したライブイベントを開催し、インストリーム動画でイベント後のフォローアップ
――その未来像に向かって、日本で具体的に進めていく施策などを教えてください。
Yu メタは、没入型教育コンテンツを制作する次世代のクリエイターの育成のため、1億5000万ドルの基金を設立することを発表し、次世代のAR/VRクリエイターを育成しています。パートナー企業の皆様と、直接または大規模なイベントを通じて、ぜひ日本でお会いしたいと思っています。21年は東京ゲームショウに参加しましたが、22年はさらに多くのイベントに参加していく予定です。
――VRプラットフォーマーとして、VRヘッドセット「Meta Quest」の日本での普及状況をどうみていますか? また、今後の展開はどのように考えていますか?
Yu 日本は、非常に重視しているマーケットの一つです。VRに対するユーザーの期待が高く、販売市場として重要なだけでなく、トップクラスのゲームIP(知的財産)を開発する才能豊かな開発者が数多くいるので、VRコンテンツ開発においても欠かせない存在です。実際、日本でのVRヘッドセット「Meta Quest 2」の販売は好調で、ゲームやエンターテインメント、友人たちとの交流、フィットネス、学習目的のほか、VRのビジネス利用も増えています。
「Meta Quest 2」の上位機種を開発中
――VRヘッドセットなど、メタバースに対応するデバイスはこれからどのような点がより強化されるのでしょうか。
Yu ハードウエアの面では、Meta Quest 2は、引き続きVRヘッドセットの中核となります。それに加えて、「Project Cambria(プロジェクト・カンブリア)」というコードネームでハイエンドのヘッドセットの開発にも取り組んでいます。Meta Quest 2よりもビジネス寄りの利用を想定しており、最終的にはノートパソコンやデスクトップPCに取って代わる存在となることを目指しています。
この上位機種は、進歩した人間工学とフルカラーのパススルー(周囲の現実世界が見える機能)が可能なMR(複合現実)を実現し、仮想現実と現実世界をシームレスに融合します。
また、アイトラッキング(視線追跡)とフェイストラッキング(表情追跡)技術を搭載しているので、ユーザーのアバターを通じてアイコンタクトや表情表現が可能になり、臨場感が劇的に向上します。SNSプラットフォームだけでなくハードウェアの開発にも力を入れる理由には、このような点(を重視していること)があります。
――ゲーミング用アクセサリーなど、外部パートナー企業との共同開発を通じてエコシステムをさらに発展させる計画はありますか。
Yu メタバースは、1社だけで構築できるものではありません。さまざまなパートナーと協力することが不可欠です。日本ではVRを中心とした取り組みが急速に広がっており、今後もさまざまなパートナーとの対話を重ねることで、メタバースの実現に貢献していきたいと考えています。
――大規模なイベントへの出展、その他ストアイベントなどメタバースに興味を抱くコンシューマーに向けて、今後メタがより積極的にタッチポイントを拡大する必要があると考えますか?
Yu 日本は、リアルな触れ合いとオンライン上の没入感のどちらも享受するユニークな市場です。新型コロナウイルス感染拡大が日本で落ち着いてきたところで、利用者の皆さんとまた直接お会いしたいと思っています。
この春から、「動けるほうが、オモシロイ。」をコンセプトにしたキャンペーンを開始しました。テレビCMやWebなどの広告では、全身を動かして楽しめるお薦めのタイトルを紹介しています。
また、Meta Quest 2の魅力を伝えるには、コンシューマーの皆様に実際に体験していただくことが重要だと考えています。そのため、この夏、さまざまな場所で、期間限定の体験デモイベントを開催する予定です。22年後半にも、コンシューマーとビジネス利用者を取り込んでいくために、さらに多くのイベントを企画しており、メタバースに触れて、体験していただく方法を模索しています。スケジュールは順次お知らせいたしますので、ぜひお楽しみにお待ちください。