売上高1000億円突破を果たし、その他の経営指標も軒並み過去最高と相変わらずの好調ぶりを見せつけたカプコン。推進してきたデジタル戦略が完全に軌道に乗り、「バイオハザード」と「モンスターハンター」の2大シリーズを柱に、新作と旧作の販売がかみ合った。映像ビジネスの独自展開にも意欲的。同社の辻本春弘社長に勢いの背景と次なる目標について聞いた。
売上高1000億円突破、業績好調の背景
――2022年3月期(21年4月~22年3月)の業績は、売上高が1100億5400万円(対前年15.5%増)、営業利益も前年比24%増の429億900万円と、9期連続の増益、そして5期連続で全ての利益項目で最高益を塗り替えました。この勢いの理由は何でしょうか。
辻本春弘社長(以下、辻本) まず、21年3月期の終わりになりますが、21年3月26日に『モンスターハンターライズ』のNintendo Switch版を発売し、これが全世界で1000万本を突破しました(22年7月5日時点)。その後、21年5月7日に『バイオハザード ヴィレッジ』を発売して、こちらも既に610万本を超えました。
さらに21年7月9日に『モンスターハンターストーリーズ2 ~破滅の翼~』を発売するなど、タイトル投入のタイミングが非常に良かった1年でした。「モンスターハンター」と「バイオハザード」という、カプコンにおける2大ブランドの成果が表れたと言えるでしょう。
もう一つはデジタル戦略を推進してきた効果です。ネットワークを活用したデジタル販売によって、1本1本のタイトルを長期間売ることができるようになりました。パッケージ販売では、小売店に売っていただかなくてはなりません。しかし、店舗側も売り場効率を考えれば、必然的に新作を中心に棚を構成して利益確保を目指します。それだと、定番タイトルを別にすれば店舗で売ってもらえる期間は長くても約半年です。
これがデジタル販売中心に移行したことで、今から5年前の17年に発売した『バイオハザード7 レジデント イービル』が、前期においてもなお180万本を売り上げ、6期連続で年間100万本以上の販売を達成しています。また、同じく前期においては、18年発売の『モンスターハンター:ワールド』が約90万本、19年発売の『モンスターハンターワールド:アイスボーン』は約140万本販売しています。こうした、前期以前に発売したタイトル、いわゆる「旧作」が顕著に販売をけん引します。旧作が持つ非常に高い価値と、長年支持される高品質なタイトルを開発し続ける重要性を再認識した1年でした。
――デジタル販売によって、販売期間の長期化の効果は明確ですが、そうなると、シリーズタイトルの場合は新作と旧作の相乗効果が、収益アップのポイントになってきますよね。
辻本 「バイオハザード」シリーズについては、移植版を含めて毎年のようにタイトルを準備しています。例えば『バイオハザード ヴィレッジ』を発表した際は、ストーリーがつながっている『バイオハザード7 レジデント イービル』とのバンドル版を販売したほか、シリーズ作品のセールによって『バイオハザード RE:2』『バイオハザード RE:3』も伸長しました。
「モンスターハンター」シリーズについては、21年に『モンスターハンターライズ』を発売し、22年1月にはPC版を追加しました。そして22年6月30日には『モンスターハンターライズ』の超大型有料拡張コンテンツ『モンスターハンターライズ:サンブレイク』を発売と、短いスパンでタイトルを投入してきています。
このように、大型新作や移植版などを継続的に発売できること、またデジタル販売を通じて長期販売できることがカプコンの強みです。タイトル発売に併せて関連情報も発信し続けますから、ユーザーに対するブランドの浸透、ロイヤルティーの強化も図れます。だからこそデジタル販売によって長く売れることのメリットが、年月を積み重ねるごとに利いてくるのです。
ゲームプラットフォームとしてPCへの対応を強化したことも、収益に大きく貢献したと思います。今回改めて感じたのは、PCユーザーの圧倒的な裾野の広さです。半導体不足で製品を供給しにくい状況下、PCユーザーのゲーム購買動向には現時点で顕著な変化はありません。カプコンはマルチプラットフォーム展開を基本戦略としていますので、今後もPC比率をもっと押し上げていく方針です。
映像ビジネス強化でブランドを浸透
――シリーズタイトルのブランディングやユーザーとの継続的なつながりという面では、映像作品の効果も高いのではないでしょうか。
辻本 日本では21年3月にハリウッド実写映画『モンスターハンター』を公開しました(米国公開は20年12月)。21年7月にCGドラマ『バイオハザード:インフィニット ダークネス』がネットフリックスで配信となり、8月にはCGアニメ映画『モンスターハンター:レジェンド・オブ・ザ・ギルド』も配信が始まりました。さらに、22年1月にハリウッド実写映画『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』が公開されました(米国公開は21年11月)。
このように映像ビジネスも、毎年何かしら展開できる状況になっています。強力なシリーズブランドに支えられたゲームと映像コンテンツの投入タイミングが戦略的にうまくいったこともあり、21年はユーザーに対するブランドの浸透度がかなり高まったと思います。
――映像コンテンツの効果を含めて、旧作の売れ行きに関しては主に新規ユーザーの掘り起こしにつながっていると考えていいのでしょうか。
辻本 ユーザーの詳細情報までは把握できていませんが、例えば「バイオハザード」シリーズは近年南米で伸びているなど、どの国や地域でどれくらい売れたかという実数はつかんでいます。恐らく、映像作品に触れて興味を持ち、ゲームもやってみようと思った新規ユーザーが相当数いると思います。
これだけ動画配信が普及して、PCやスマートフォンなどさまざまなデバイスで見られる環境になった現在、「バイオハザード」や「モンスターハンター」へのファーストタッチが映像だったという人たちが増えてくるでしょう。映像ビジネスは新規顧客の獲得に有効な手立てだと思いますし、カプコンにとって注力すべき分野だと認識しています。
米国に「カプコンピクチャーズ」設立
そこで22年4月に、映像作品の企画・製作を手掛けるカプコンピクチャーズを米ロサンゼルスに設立しました。映像ビジネスはこれまで主にライセンスで行ってきましたが、今後は本格的に自社で展開できる体制も整えていきます。
例えば「バイオハザード」シリーズは、映画やゲームなどさまざまな世界観が並行して存在しています。『バイオハザード7 レジデント イービル』と『バイオハザード ヴィレッジ』の話はつながっているのですが、映像コンテンツによってその間を補完することも狙いの1つになります。サイドストーリーのような作品を投入すれば、ファンのゲームに対する購入意欲も増すでしょう。
映像コンテンツをつくるメリットは他にもあります。歴史の長いシリーズタイトルでも、映像であれば1~2時間ほど見てもらえれば、内容を理解できます。以前、ゲーム本体に映像特典のDVDを付けたこともありますが、物理的なパッケージだったので製造コストや在庫コストがかかってしまいました。それが現在では動画配信が使えます。リスクを抑えて利益率を高めながら、映像特典も提供するようなビジネスが展開できるのではないかと考えています。
そのため今後は、映像関連のノウハウを持った人材との接点を増やしていく予定です。映像作品はハリウッドを中心に行い、映像ビジネスの手法をゲームにも取り入れていきたいですね。既に映画でも実績がありますから、ハリウッド側も期待してくれているのではないでしょうか。
以前から映像ビジネスに大きな興味を持っていたのですが、劇場での作品公開はそう簡単ではありませんでした。それが新型コロナウイルス禍で状況が大きく変わり、映像配信という手法が使いやすくなったわけです。
――現在のところ、どのような作品を考えているのでしょうか。
辻本 これから実行プランを固めていくのですが、まずは実写版ではなく3Dアニメーションを考えています。3Dアニメーションであれば、脚本家やディレクター、声優の確保などは既にゲーム開発で経験してきたことですし、適正コストなども含めてこれまでのノウハウが生かせます。
ただし、映画の場合は1~2時間という制限の中で起承転結が不可欠です。映画とゲームの脚本は似ているようで全く異なります。映画は登場する主人公がさまざまな問題を乗り越えていきますが、ゲームではプレーヤー自身が乗り越えていくことになります。映画は何かをクリアすればいいというものではないので、そこはしっかりした演出がなければ成立しません。
「バイオハザード」や「モンスターハンター」のような大型ブランドを映像化するアプローチもありますが、フラットに考えていきます。カプコンにはそれ以外のIP(キャラクターなどの知的財産)もたくさんありますから、いろいろな可能性について柔軟に検討していく方針です。
営業利益にこだわり、23年に向けタイトル続々
――計画では今期の売上高について1200億円、営業利益480億円と、10期連続の増益、6期連続の最高益を目標に掲げられています。22年の見通しについて教えてください。
辻本 経営者としては上を目指すのは当然ですが、特に営業利益の拡大にはこだわりたい。いくら売上高が上がっても、利益が出なくては意味がありません。販売本数は今期3700万本を計画していますが、長期的には年間1億本を目標に考えています。もちろん簡単な道ではありませんし、ラインアップの補強が不可欠です。PCもメインプラットフォームに置きながら、市場の伸びしろの大きい新興国に対してどのようなマーケティング施策を展開していくか、その点もしっかり考えていく必要があります。
既に国別に担当者を配置し、マーケットごとに細かくチェックすべく動き出しています。例えばアメリカ地域なら合算で数字を見るのではなく、米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンという5つの国と、その他の南米テリトリーに分けて、計画と実績、分析を報告するよう指示を出しています。
――引き続き「バイオハザード」や「モンスターハンター」をけん引役としながら、今後はどんなタイトルを投入する予定でしょうか。
辻本 直近では6月30日に『モンスターハンターライズ:サンブレイク』を発売しました。さらに『バイオハザード ヴィレッジ ゴールドエディション』の発売が10月28日に決まりました。これは『バイオハザード ヴィレッジ』にシナリオを追加し、さらにストーリーを三人称視点で楽しめる「サードパーソンモード」などを加えたタイトルです。23年には3月24日に発売予定の『バイオハザード RE:4』のほか、完全新作の『プラグマタ』や『エクゾプライマル』も控えています。
また、『ストリートファイター6』も23年に発売する計画です。『ストリートファイターV』はeスポーツで使用していますから、「V」から「6」へどう移行するか慎重に検討しなくてはなりません。eスポーツにおけるルールは継続しますが、いい意味でゼロベースに置き換えることも念頭に置いています。これを機にもう一度eスポーツの世界に戻ろう、あるいは新たに参入しようという機運を育みたい。そうすれば、「ストリートファイター」やeスポーツの活性化につながると思います。
一定期間新作が発売されていない、いわゆる休眠IPも積極的に活用していきます。現在、既存作品をまとめてお手ごろな価格で発売する「コレクション版」と呼ぶタイトルが好評です。21年に発売した『大逆転裁判1&2』では、既にブランドが浸透していることもあり、セールスで非常にいい結果が出ました。カプコンにはアーケード(業務用)ゲームがありますし、ファミコンやスーパーファミコン時代のゲームも数多くあります。どれも熱心なファンが存在しますから、そうした休眠IPを掘り起こし、コレクション作品としてしっかり展開することも大切です。
――コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻など、企業がコントロールできないような影響もあります。その辺りはどう受け止めていますか。
辻本 2年間にわたるコロナ禍については、余暇時間の増加などゲーム業界にとってプラスの側面もあります。しかし春以降は収束の気配もあり、人々は外のレジャーも楽しむようになってきていますから、最近の数字を見るとゲームに対するニーズが若干下がっているかもしれません。しかし、ここ数年の業績は、巣ごもり需要というよりもデジタル販売戦略の結実が主因であり、新作の投入や旧作の拡販などで十分補えるでしょう。
スマートフォンやPCといったゲームを楽しめる端末が普及していますから、ゲームの世界市場は今後も拡大すると見ていますが、スマートフォンで遊べる範囲には限界があります。そうなると次はPCです。新興国のデジタル化が進めば、PCへの切り替わりも進むでしょう。実際、コロナ禍でPC需要は伸びましたし、ゲーミングPCもeスポーツの後押しで購入層が拡大しています。これと並行して家庭用ゲーム機の需要も伸びますから、市場は拡大していくはずです。
実はゲームを存分に楽しめる環境というのは、グローバルで見ればまだまだ整っていないのです。クラウドゲームもあれば、課金ではサブスクリプションもあります。ゲームを中心に多様なビジネスが広がっている状況を踏まえれば、この勢いはしばらく続くと思います。
また、ウクライナ侵攻については、人道的危機が継続している現状に深く心を痛めており、当社グループとして支援に取り組んでいきます。早急に事態が収束し、ウクライナおよび世界に平和と日常が取り戻されることを切に願ってやみません。販売状況としては、実際に店舗での販売が停止し、デジタル配信もプラットフォーム側でストップしているものの、当社全体における関連地域の販売割合は限定的です。補う努力はしなくてはなりませんが、こちらも他の部分で吸収できるレベルだと考えています。
日本は「Switch」比率が高い独特な市場
――日本のゲーム市場へは、どのような見方をされていますか。
辻本 日本独自の市場構造として、「Nintendo Switch」が占める割合が高い。ファミコンやスーパーファミコン、ニンテンドーDS、Wiiといったプラットフォームの歴史を振り返れば、以前から任天堂のシェアが高いのは分かりきっていることです。現在の販売ランキングを見ても、ほぼ9割がNintendo Switchのタイトルで占められています。
一方、海外市場では、各ハードの割合のバランスが取れています。そうした中、日本市場に力を入れるとなると、どうしてもNintendo Switchもしくはスマートフォン向けタイトルの開発に比重を置かざるを得ません。グローバルで即戦力となるようなゲーム人材の育成という観点から考えて、この状況は長期視点では課題とも言えるかもしれません。カプコンとしてはPC版に力を入れながら、日本の市場についてもう一度考え直す必要があると思います。
――最後に、今年の「東京ゲームショウ(TGS)2022」に対する抱負を聞かせてください。
辻本 22年は、オンラインを絡めたハイブリッドになりますが、3年ぶりのリアルでの開催となります。米国のE3(Electronic Entertainment Expo)が中止になりましたから、TGSは世界的に注目されることになるでしょう。それだけに今一度、日本のゲーム産業の方向性というものを、TGSで発信できればと考えています。コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の理事の方々からの協力も得られていますから、22年のTGSに期待していただきたいと思います。
コロナ禍の影響で、TGSの在り方が変わったのではという見方があるかもしれません。しかし、CESAの理事は大手ゲーム会社の経営者を中心に構成されていますから、ゲーム産業あっての企業だという認識を誰もが持っています。オンライン開催に切り替えた時期も、各社工夫して非常に良いコンテンツを提供しました。
ゲーム産業が発展することに疑いの余地はありませんから、TGSを盛り上げて情報を発信していくスタンスに全く変化はありません。22年はオンラインとリアルのハイブリッド開催ですから、ユーザーやゲーム業界内だけでなく、業界外からの期待も高まるのではないでしょうか。日本のゲーム産業に対して、きっとまだまだ元気だなと感じてもらえるはずと確信しています。
(写真/稲垣純也、写真提供/カプコン)
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