中期経営計画で定めた目標を、想定の2024年3月期から大幅に前倒してクリアしたコーエーテクモホールディングス。勢いはそのままに、25年3月期には売上高1000億円を目指す“新中期経営計画”を打ち立てた。コーエーテクモゲームスの鯉沼久史社長に、実現に向けた戦略について聞いた。
――2022年3月期の評価はいかがですか。
鯉沼久史社長(以下、鯉沼) 結果的に、3カ年の中期経営計画の目標としていた2024年3月期に営業利益300億円、経常利益400億円を、1年目の22年3月期で達成しました。営業利益は345億円、経常利益は486億円です。非常に良かったと思える年でした。
中期経営計画自体はたやすい目標ではありませんでしたが、自社パブリッシングのゲームタイトルがトラブルなく開発され、リリースできたため、収益が安定しました。外部に貸し出しているIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)タイトルのロイヤリティー収入なども好調だったため、望外に中期経営計画を達成できたという印象です。
ゲームタイトルの売り上げは、計画通りに進まないことも十分にあり得ます。22年3月期はそういったトラブルがなく、まんべんなく計画を上回る成績を残せた結果です。
――パッケージ販売とスマホゲームの売り上げが見込めるようになってきました。
鯉沼 当社は最初期からオンラインゲームにチャレンジしていましたが、時代がガラケーからスマートフォンに切り替わったタイミングで、スマホ向けタイトルへの移行がうまくいかなかった事実があります。忸怩(じくじ)たる思いでしたが、昨今はスマホゲームの領域にもある程度アプローチできるようになり、それが収益の柱になってきました。
決算発表でも申し上げておりますが、当社もパッケージ販売だけではなく、スマホゲームも含めた重層的な収益構造になり、お互いに補い合えるようになってきました。特に20年9月にスタートした、自社開発のスマホゲーム『三國志 覇道』の貢献は大きかったです。
日本国内とアジア圏でサービスを開始し、それが想定通りの数字を出してくれました。同じジャンルでは、ゲームの監修を担当した『新三國志』(18年)がリリースから4年たっているものの、特に売り上げが落ち込むこともなく、逆に少し良くなっています。こちらは想定外でした。
――『三國志 覇道』と『新三國志』は、お互いに食い合わないか心配にはなりませんか?
鯉沼 普通に考えるとそうかもしれませんね。私としては、やってみないと分からないところがあると思っていました。この2つのゲームは、テーマが同じ「三國志」で、ゲームのジャンルもGvG(ギルドv.s.ギルド)という団体戦のゲームです。
簡単にいうと、GvGはそのゲームの中で1番強いチームになるために競い合いうものです。勝利が続けば、ユーザーさんはそのタイトルに夢中になり、長くプレーしてくれます。しかし、煮詰まってくると、心機一転で他のGvGゲームをプレーしてみる方も少なくありません。
そう考えてみると、ゲームの操作に親和性があったり、ゲームシステムに共通性があったりすれば、新しいゲームタイトルにも手を出してみようというマインドが高まるということです。「自分が知っているジャンルのゲームだけど、中身がちょっと違いそう」――そういう「遊びやすさ」が大事だと気づきました。
GvGのようなソーシャルゲームの楽しさは、コミュニティーが生まれ、その中で活躍でき、気持ちよく楽しめる空間であることだと思います。自分にとって楽しい空間を求めて、似たジャンルのゲームへ流れていく人がいるからこそ、『三國志 覇道』と『新三國志』はすみ分けができていて、お互いに大きな影響なく運営できているのではないかと分析しています。
――パッケージ販売で成績が良かったタイトルはありますか。
鯉沼 自社開発のパッケージで売り上げが目立つようなタイトルがあったということはありませんが、全体的に良かったと思います。『Winning Post 9 2021』のような定番タイトルのリピートオーダーが根強かったですし、共同開発した『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』(スクウェア・エニックス)も22年3月までにリリースできました。
ガストの新作『ソフィーのアトリエ2 ~不思議な夢の錬金術士~』も22年2月に全世界向けにリリースして20万本を販売できました。
――『仁王2』も全世界で250万本突破したという話があります。
鯉沼 そうなんです。ソーシャルゲームやMMORPGなどリリースしてから長くネットワーク上で運営を続けるタイプのゲームと違って、パッケージ販売のゲーム(家庭用ゲーム機やPC向け)は発売後、流通に商品がなくなったら、そこで売り上げが急速にしぼんでいました。しかし、ダウンロード販売が定着してからは、ロングライフになっており、ありがたいと思います。
「強み」を身に付け、1000万本級タイトルを目指す
――新しい中期経営計画、および23年3月期に向けて動き出していると思います。
鯉沼 中期計画から申し上げると、25年3月期に売上高1000億円、営業利益400億円、経常利益500億円を目指しています。ただし、中期経営計画を新たに策定したからといって大きく何かが変わったということでもありません。
ゲームの開発は3~5年先のラインアップとして作るので、売り上げ増を目的に急に開発計画を変更することは難しいです。ですが、年度も進み、計画の数字の精度を見直すなど、実現可能な目標として営業利益400億円を設定いたしました。
私が入社した27、28年前の話になりますが、現コーエーテクモホールディングス社長の襟川陽一が作った「クリエイト1000」というスローガンがありました。売上高1000億円を目指すぞ!というもので、その時は夢のように高い目標だと思っていましたが、今はそれが夢ではなくなってきましたね。売上高1000億円というのは大きな節目であり、コンスタントにそういう売上高が出せるような会社に成長したいと思います。
――その売上高を実現する柱として、500万本級タイトル、200万本級タイトルをコンスタントに作るというミッションがあります。見通しは?
鯉沼 頑張りどころではありますが、200万本、300万本級のタイトルは、これまでも結果を残せていますので、可能だと思っています。
収益の側面で大きく貢献しているのが、『三國志 覇道』のように月商10億円というスマホタイトルがリリースできるようになったことです。この延長線として、月商20億円レベルのスマホゲームを出せるようになることで、目標に近づいていくと考えます。今の倍以上の収益を獲得できるように、ラインアップを拡充していくことは簡単ではないですが、まだまだ伸ばせる余地があります。
パッケージのタイトルでは、全世界で1000万本の出荷を記録した国内企業もあります。我々も500万本級のタイトルを生み出した先には、1000万本級を目指すなど、まだまだ先があると思っています。
当社の得意分野にコラボレーション企画があります。6月に発売した『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』のようなタイトルで、強みを生かしていきたいですね。Team NINJAも『仁王』シリーズのように新しいジャンルに挑戦しています。新しいことにチャレンジしたら、それを自分たちの強みに変えていかなければいけません。新しい「強み」を身に付けることで、200万本から500万本、1000万本、と目指していけるようになると考えています。
――スマホタイトルで月商20億円を目指すということですが、セールスランキングにするとどの辺りを目標にするのですか?
鯉沼 当社IP許諾タイトル『三國志 戦略版』は世界TOP 5ランクインを経験していますから、世界トップを目指して開発運営していく野心はあります。
――それだけ収益を上げていくには、ワールドワイドの売り上げを立てていかないといけませんね。
鯉沼 高い収益を目指すには、グローバルを視野に入れて考えなければいけないことは、パッケージゲームと変わりません。現在リリースしている『三國志 覇道』のような三国志系のスマホゲームは、全世界というよりは日本を含めたアジア圏が中心になります。よりグローバルで楽しめるスマホゲームも作りたいと思っています。
――中国市場についてはどのように捉えていますか。
鯉沼 中国市場は自社だけでビジネスができないので、パートナー企業を探すことが必要です。例えばベトナムでもそうですが、その国ごとにルールがあるので、それに合わせながら市場を狙っていきます。
中国市場への進出という意味では、35年ほど前から北京や天津などに拠点を置いており、真摯に向き合って対応してきました。PCオンラインゲームなども中国企業を通して、中国市場に提供しています。スマホゲームで初めて中国市場に進出したというわけではなく、以前より長くお付き合いいただいているパートナー企業もあります。これまでの方針を変えることなくビジネスを続けていく方針です。
――グローバル市場におけるコーエーテクモゲームスの強みというと「オリエンタルなゲーム」という風に捉えているようですが。
鯉沼 パッケージゲームやスマホゲームなどの収益で考えると、国内よりも海外のほうが割合は高くなっています。それだけ海外市場で当社の認知度がアップしてきているということですが、やはり強みは歴史モノ。その強みを生かしつつ、(日本の常識にとらわれた)独りよがりにならないように、グローバルを意識したゲーム作りが大事だと思います。
日本だけでなく、世界で通用するゲームの仕様を取り入れる必要があります。ゲームの内容をチェックするチームも日本人だけではなく、グローバルな人材を入れて様々な文化の目で見て確認するようになりました。
対応する言語数もかなり増えて、FAQなども多言語対応が必要になってきました。デバッグだけではなく、ゲームの品質を左右する「翻訳」部分も重要です。変な翻訳だと興ざめしてしまいますから。
「オリエンタルな雰囲気のゲーム」であっても、国籍問わず理解できるような説明が入っていて、内容が良ければ、欧米でも売れると思っています。「日本の歴史ゲームはグローバルで売れない」ということはなくて、「日本人じゃないと想像できない」という要素を入れることがダメだということです。ユーザーの想像力のみに頼まない姿勢が重要です。
自社エンジンとプロジェクトマネジメント強化で開発力アップ
――コーエーテクモゲームスの強みとして、「KATANA ENGINE」というゲームエンジンを中期経営計画で明示しました。この意図は何ですか?
鯉沼 それは、自社開発のゲームエンジンがあるということをきちんと外部に言おうよ、という流れがあったからです。マルチプラットフォームでゲーム開発するにはゲームエンジンは大事です。Unreal EngineやUnityのような外部のゲームエンジンを活用する方法もありますが、我々は自社のゲームエンジンを構築していくことを選びました。自社エンジンであることが効率化に役立つこともありますし、独自性をしっかりとアピールすることもできます。
それに、入社の動機として、ゲームエンジン開発に興味があると話してくれる優秀な大学生が結構いるんです。「自社でゲームエンジンを開発しているから、コーエーテクモゲームスに入りたい」と志望してくださいます。
独自エンジンにこだわる理由は、単純にゲームエンジンのソース(基本的なプログラム構造)を理解できるという点にあります。外部のゲームエンジンを使う良さも理解できますが、ロイヤリティーのコストもかかる上、もしそのゲームエンジンがなくなれば、何も開発できないゲーム会社になってしまう恐れがあります。
そのため、ゲームエンジンのソースコードを理解できて、ゲームをしっかり作れる企業になりたいという意志が強いですね。ゲームプラットフォームのハードウエア特性をきちんと理解して開発できるようになる、という方針があります。
新しいゲームプラットフォームが登場したが、それに対応したゲームエンジンが開発されないためにゲームが作れない、というようにはなりたくない。自分たちのゲームエンジンをすぐに対応させて、すぐに開発すればいい。そのように考えてきました。その方向性は当面変える必要はないと思っています。
――コーエーテクモゲームスの強みの一つに、プロジェクトマネジメントという説明がありました。具体的にどんなマネジメントをしているんですか。
鯉沼 昔のゲーム開発のチームは少人数で、規模も小さかったので、プロジェクトマネジメントがそこまで重要ではありませんでした。しかし、今や4年、5年と長期化し、開発スタッフの数も10倍以上の規模となってきました。さらには分業体制が細かくなり、おのおのの進捗が見えづらくなってきています。
そこで、経験を積んだゲーム開発者をプロジェクトマネージャーに抜てきし、人員を強化しています。ゲーム開発者の一つのキャリアプランとして考えてもらうような仕組みになってきました。大型タイトルの開発の中で、少なくとも1人は専任のプロジェクトマネージャーとして入っています。
――新型コロナウイルス禍でリモート環境での業務が増えたと思いますが、業務が見えにくくなっているだけに、プロジェクトマネジメントには大変じゃないですか。
鯉沼 そうですね。リモート環境だと事前に考えた設計図通りのものしか作れないことも少なくありません。設計図通りに組み上げてみたら、「面白くない」ということがあります。そうしたら設計図を作り直すことになりますよね。
そうして開発に遅延が発生した上に、開発費が高騰するということがあります。実際に集まって開発したほうがリスクは少なくなりますが、コロナ禍前と同じ環境には戻らないと思っています。
20年から21年にかけてはコロナ禍における開発態勢は手探りでしたが、21年から22年にかけてはリモート環境下での開発に慣れてきました。だから、プロジェクトマネージャーも含めた開発全体に、「コロナ禍を言い訳にしてはダメ。こういう状況下でもしっかりとゲームを作れる仕組みになっていないといけない」というメッセージを出して開発態勢を切り替えてもらっています。
――そうした新しい開発態勢で作っている22年の新作というとどんなものがありますか。
鯉沼 任天堂と共同で開発している『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』を6月24日に発売しました。続いて、シブサワ・コウ40周年記念作品の『信長の野望・新生』が、7月21日にリリースされました。少し遅れてしまったので申し訳なかったのですが、ようやく発売です。
その他『信長の野望』シリーズでは、新作のスマホアプリゲーム『信長の野望 覇道』を開発中です。22年度内のリリースを目指しております。さらに23年にリリース予定の完全新作『Wo Long: Fallen Dynasty』も発表しました。続々と新作が登場しますので、どうぞご期待ください。
(写真/稲垣純也)