世界累計1340万本を突破したアクションRPG『ELDEN RING(エルデンリング)』。海外での販売はバンダイナムコエンターテインメント(BNE)が担う。「ガンダムメタバース」について聞いた前編に続き、後編は同タイトルを基にしたゲームのヒットについて宮河恭夫社長に聞いた。

バンダイナムコエンターテインメントの宮河恭夫社長
バンダイナムコエンターテインメントの宮河恭夫社長
▼前編はこちら ガンダムメタバースの全貌を宮河社長が語る 「半完成品でいい」

『エルデンリング』のヒットはダウンロード故

――フロム・ソフトウェア(東京・渋谷)が開発し、2022年2月に発売された『エルデンリング』が好調ですね。

宮河恭夫社長(以下、宮河) おかげさまで、全世界累計の出荷本数は、18日間で1200万本、3月末までに1340万本以上を記録しました。この数字が実現できたのは、オンライン販売が定着してきたからこそだと僕は思っています。

 当初見込んでいた22年3月期までの計画本数は400万本だったんですよ。ただ僕はもっといけると見込んでいたので、背中に“Road to 10 Million”と書いた『エルデンリング』のTシャツを作り、22年2月ごろから社内ではずっとそれを着て、スタッフを鼓舞していたんです。

世界累計1340万本を突破した『エルデンリング』。国内の販売はフロム・ソフトウェア、海外の販売はバンダイナムコエンターテインメントが担当した
世界累計1340万本を突破した『エルデンリング』。国内の販売はフロム・ソフトウェア、海外の販売はバンダイナムコエンターテインメントが担当した
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――社長がTシャツ姿でいることに違和感がない社風が生きていますね(笑)。

宮河 広報からは「外では絶対に着ないでくださいね!」と言われていましたし、株主などが集まる場では会場にいる皆さんに絶対に背中を向けないように慎重に歩いていました(笑)。1000万本を達成した今は“Road to 20 Million”に変わっていますが、相変わらず社内では同じデザインのTシャツを着ています。

 しかし、そんな僕でさえ、パッケージだけだったら400万本、ましてや1000万本は達成できなかったと思います。それだけの本数を発売時に用意するのは難しいですし、在庫管理にかかるコストも莫大です。短期間でたくさんの方に届けられたのはダウンロード販売になったからですよ。ダウンロード販売になってメーカーが請け負う責任も増えましたが、それ以上にチャンスが広がってきたと実感しています。

――ユーザーから見ても、SNSや動画配信などで情報に触れて気になったらすぐに手に入れられる点は魅力です。

宮河 売る側としては、店頭在庫がなくなって商機を逃すことが減った点が大きなメリットですね。

 一方で売り上げの予測は難しくなっています。従来はパッケージの生産数を基に売り上げの予測を立てることができました。でも、これだけダウンロード販売の比重が上がってくると、そちらでどれだけ伸びるかはなかなか予測がつきません。

ヒットの要因はコミュニティーマネジメント

――『エルデンリング』のヒットの要因をどう見ますか?

宮河 まず1つには、(フロム・ソフトウェア社長で『エルデンリング』ディレクターの)宮崎英高氏が、『DARK SOULS』などこれまで作ってきた自身のゲームで独自の世界観を構築し、根強い固定ファンを持っていたことにあるでしょう。

 『エルデンリング』は19年に開発中であると発表されてから、発売が延期されたこともありました。でもその間に新型コロナウイルス禍があり、“巣ごもり需要”で16年に発売された『DARK SOULS III』が再び売れるなどして、改めて作品が脚光を浴びました。結果的に『エルデンリング』に対する期待は大きく高まったと思います。まさに「機は熟した」状況で発売されたことがプラスに働いていますね。

取材当日も宮河社長は『エルデンリング』のTシャツを着用していた
取材当日も宮河社長は『エルデンリング』のTシャツを着用していた

――国内以上に海外での盛り上がりが注目を浴びました。

宮河 自画自賛になりますが、改めてバンダイナムコグループの持つ販売力を実感しました。

 現在、世界20の国と地域に35の拠点があります。以前はそうした海外拠点の仕事はほぼ流通の管理だけでしたが、近年は地域のコミュニティーマネジメント(ユーザーやファンとの交流を通じ、そのコミュニティーを創出、維持、活性化する活動)に力を入れるようになりました。

 現在、世界的にゲームを売るために一番重要な要素は、地域ごとのコミュニティーマネジメントをしっかりやることだと思っています。ただし、日本から各地域のコミュニティーマネジメントをしようと思ってもSNSを使ったところで限界があるのは必然。世界各地に置いた営業所がコミュニティーマネジメントを行うという施策が、『エルデンリング』で開花したと強く実感しています。

――開発期間が延び、発売が延期になっても期待感が落ちなかったことにもコミュニティーマネジメントは影響しているのでしょうか?

宮河 期待感を持ってもらうための情報の出し方などの面で、大きな影響があったと思います。

 ソフトの流通がオンラインによるダウンロード販売、つまりデジタルに移行している一方、世界中にいる当社の社員がフィジカルな活動を行ってきた、その結果だと思います。ことIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)に限って言うなら、どこか1つの国から最新情報を発信して世界的なトレンドをつくるような時代じゃない気がしています。

 例えば、かつて海外の映画を日本で上映する際は邦題が付けられていました。同様に、他の国や地域でもそれぞれに異なるタイトルが付けられていた。音楽のレコードジャケットも国によって違うものが作られることは珍しくありませんでした。実はそれってすごく重要なことだったんじゃないかと思うんですよね。

 『エルデンリング』には地域ごとのタイトルは付けられていませんが、その魅力の伝え方という点では地域ごとのアレンジをしました。日本なり米国なり、そのIPを生み出したところで考えたメッセージを翻訳して全世界に出せばいいという人もいるかもしれませんが、僕はそれは違うと思うんです。

既存のシリーズも売れ方に変化が

――『エルデンリング』以外のタイトルについてはどうでしょう?

宮河 21年9月に『テイルズ オブ アライズ』を世界同時に発売、翌10月には世界累計出荷本数が150万本を超えました。今まで「テイルズ オブ」シリーズは国内での売り上げが中心だったことを考えると、ゲームのマーケットに変化が出てきたことを感じます。

 僕が19年にバンダイナムコエンターテインメントの社長に就任してからずっと言ってきたのは、「いいものを作って長く売っていこう」ということ。『テイルズ オブ アライズ』の開発が始まったのは僕が来る前ですが、修正を重ねて長く売れそうないいものに仕上げてくれたのはうれしかったですね。

21年9月に『テイルズ オブ アライズ』を世界同時に発売
21年9月に『テイルズ オブ アライズ』を世界同時に発売

――ゲームの開発陣に対して具体的な指示を出されることはあるのですか?

宮河 ゲームづくりの細かいところまで口出しはしないのですが、大まかな部分で「こうしてほしい」みたいなことを伝えることはありますね。映像にも長く携わった僕から見ると、ゲームにおける演出やキャラクターの造形にはまだまだ改善の余地があるんです。そういうところは「ちゃんとやらなきゃダメ」と言い続けています。

 せっかく同じグループにゲーム制作と映像制作が両方そろっているんだから、その力をどう融合させていくかが、今後もっと重要になっていくのではないかと思っています。

 ゲームはテクノロジーがなければ作れませんが、IPとしての魅力も不可欠。「ドラゴンボール」のように原作がしっかりしているタイトルならまだしも、オリジナルで勝負するゲームタイトルでは、IPとしての魅力を支える人を現場にきちんとそろえる必要があるでしょう。

 昔と違うのは、今は1つの会社の中ですべての作業を担い、利益を独占するような作り方ではなくなってきているということです。メタバースの分野では、オープンイノベーションを進め、必要に応じて投資や業務提携も通じて最新のテクノロジーを持った若い会社と協力してやっていこうと思っています。

 同じように、ゲーム制作においてもいろいろな才能を積極的に採り入れるか、一緒に作品を作り上げていくために、どこをどうオープンにしていくかが、今後の会社としての強さにつながるんじゃないでしょうか。

――得意技を持った会社が共により良いものを作っていく環境が大事というわけですね。

宮河 僕がこの数カ月で最も驚いたのは、ホンダとソニーグループが合弁会社を設立してクルマを造るというニュース。ソニーはすでにあそこまで完成形に近いクルマを先行して造っていたのに、いざ量産となると、ソニーは中身に徹して、ホンダが外側を造ることになりました。

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 あんな大企業がこれだけの協力関係を築いて製品づくりをするような時代です。うちみたいな中小企業はもっとオープンにやっていかなければならないと、危機感を覚えました。

今年は異業種へ進出し、多様性の獲得を推進

――今後の注力分野についてうかがえますか?

宮河 実は、今はB.LEAGUEのクラブ、島根スサノオマジックが面白くてしょうがないんです。19年に経営権を獲得したのですが、グループにはデジタルを扱っている会社ばかりの中、超アナログなフィジカルスポーツに携わるのが大きな刺激になっています。僕が関わる会社の中では最も小さいけれど、めちゃくちゃかわいいんですよ(笑)。

島根スサノオマジックは2021-22年シーズン、B.LEAGUEの年間優勝クラブを決める「チャンピオンシップ」に初めて進出した
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 僕はスサノオマジックを「3年で成功させる」と宣言しています。下位に低迷していたチームの経営権を手に入れ、21年は西地区5位、22年は初の「チャンピオンシップ」出場と順調に強くなってきた。それにつれ、クラブのみんなも自信を持つようになってきました。

 ゲームやメタバースなど、本業であるデジタル分野でやらなければいけないことはたくさんありますが、スサノオマジックみたいな全く違うジャンルの事業を成功させることは、今後、オープンな環境で他業種の企業とも力を合わせてものづくりをしていくうえで、大きな力になると思っています。

 最近は朝礼でスサノオマジックの安藤誓哉選手の映像を流したりしているんです。彼のバスケットボールに取り組む姿勢やチームに対する覚悟は社員にも参考になるはず。それにデジタルばかり扱っている会社が、デジタルと全く無縁のフィジカルなスポーツ選手と同じグループとして共存していることがすごく面白い。

――逆にスサノオマジック側から見ると、フィジカルしかなかったスポーツクラブにバンダイナムコエンターテインメントのデジタルが加わり、情報発信や運営面などでできることが広がりそうです。

宮河 そうなんです。極端な違いがあるからこそ、融合したときが面白い。経営権を獲得したときは、「なぜ東京のチームにしなかったのか?」と聞かれたりもしましたが、地方だからこその面白さというのもあると思っています。

 新しいことをやるときは、デジタルとフィジカル、東京と地方のように違いが大きいほうが、関わる社員はいろんなことを学んで大きく変わっていける。そこにも面白さを感じていますね。

「エンターテインメント企業にとって『選択と集中』が一番いけない」という宮河社長
「エンターテインメント企業にとって『選択と集中』が一番いけない」という宮河社長

――グループとしては多様性がさらに進みそうです。

宮河 そうです。「選択と集中」の真逆ですね。僕は社外の研究者や経営者と話をする機会をよく持つのですが、「企業にとって何が一番いけないか?」を話していて「選択と集中」という結論に達したことがありました。

 アドバイザリーボードメンバーにも入っていただいているソニー・ミュージックエンタテインメント元社長の丸山茂雄さんがおっしゃっていたんです。「エンターテインメント企業で大事なのは“放任と撤退”」。何に対して「選択と集中」をするかは現場の仕事をしない経営者が決めます。その結果、現場の社員の意に反したことをやってしまうことになりかねません。これがエンターテインメント企業にとっては良くないと。

 大事なのは、現場に立つ社員たちが感じ、考えたことを行えるようにすること。それが放任です。結果としてまずいことになりそうになったら、経営者の判断で撤退する。この「放任と撤退」をキーワードに、会社の事業には携わっています。

(写真/中村 宏)

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