「デジタルとフィジカルの融合」を掲げ、ゲームを中心としたIP(知的財産)事業を展開するバンダイナムコエンターテインメント(BNE)。社内に設けた配信スタジオ「MIRAIKEN studio」や2025年までの構想を発表した「ガンダムメタバースプロジェクト」など、オンライン空間の活用を進める。宮河恭夫社長にその方針を聞いた。

バンダイナムコエンターテインメントの宮河恭夫社長
バンダイナムコエンターテインメントの宮河恭夫社長

――2021年5月に配信用の自社スタジオ「MIRAIKEN studio」をオープンして以来、バンダイナムコグループとして同スタジオから活発にコンテンツを配信していますね。

宮河恭夫社長(以下、宮河) 社内でもMIRAIKEN studioは高く評価されていますし、その稼働率の高さにも驚いています。面白いのは、MIRAIKEN studioを機に、社外との協業が生まれていること。21年11月にグループ会社のBANDAI SPIRITSが開催したオンラインイベント「TAMASHII NATION ONLINE(タマシイ ネイション オンライン) 2021」はMIRAIKEN studioから配信、制作はBNEが担ったんですよ。

「MIRAIKEN studio」は高画質LEDディスプレーを使用した4面ステージを常設、XR、リアルタイムモーションキャプチャー技術にも対応した自社スタジオ
「MIRAIKEN studio」は高画質LEDディスプレーを使用した4面ステージを常設、XR、リアルタイムモーションキャプチャー技術にも対応した自社スタジオ
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 XRにまで対応させたことで、用途が広がったなと思います。TAMASHII NATIONをきっかけに東映さんとMIRAIKEN studioとのご縁ができ、戦隊もののオープニングの撮影にも使われました。結果的にスタジオがフル稼働状態で今は余裕がないのですが、いずれはミュージシャンを招いて音楽のライブ配信なんかもやりたいと考えています。オンラインのライブ配信は今が完成形ではなく、リアルとデジタルを融合させてこれからもどんどん洗練されていくでしょうね。

――そうしたチャレンジは新型コロナウイルス禍だからこそ進んだ面もありそうです。

宮河 それはそうだと思います。世界中がダメージを受ける中、企業は新しい時代への適応力を試されていると強く感じました。コロナ禍がこれほど長く続いたからこそ見えてきたことや得られた経験も大きいですね。

 もともとはライブやイベントができなくなり、社員食堂など社内の各所からネット配信をするケースが増えたため、「そんなに配信の頻度が高いなら、スタジオを作ろう」ということで完成したのがMIRAIKEN studioです。

「TAMASHII NATION ONLINE(タマシイ ネイション オンライン) 2021」は「MIRAIKEN studio」から配信
「TAMASHII NATION ONLINE(タマシイ ネイション オンライン) 2021」は「MIRAIKEN studio」から配信

 スタジオを作るには想定以上のお金がかかりましたが、結果的にさまざまな配信コンテンツを作れるようになりました。配信や映像の技術については、MIRAIKEN studioを稼働させる中で初めて分かったことも多く、表現できることはさらに増えています。

 XRやリアルタイムモーションキャプチャーにも対応できる配信スタジオを社内に作るなんて、コロナ禍がなければ思いつきもしなかった。あくまでもリアルなライブイベントができない状態で、「それならば何ができる?」と考えたことから生まれたのがMIRAIKEN studioですから。

――今まで当たり前にやっていたことを、根本から見直すきっかけになったことは確かですよね。

宮河 会場いっぱいにお客様を集め、そのお客様だけに満足していただくのが従来の「ライブ」の常識でした。そこにXRや配信などデジタル技術が加わったことで、新しいライブの魅力、表現形式が生まれていると思います。

メタバースはコミュニティーを楽しむもの

――昨今ではメタバースが急激にクローズアップされ、バンダイナムコグループとしても「ガンダムメタバースプロジェクト」への取り組みを発表しました。

宮河 オンラインでのイベントが増え、ファンが「場を共有する楽しみ」を模索するようになった頃からメタバースのようなものが盛り上がってくる予感はありました。

 というのも、僕はバンダイで「ピピンアットマーク」というハードウエアを出して大失敗を経験していますが、そのときに高城剛氏のフューチャーパイレーツと組んで「フランキー・オンライン」というものを作り、1995年6月にサービスを開始しました。

「ガンダムメタバースプロジェクト」はメタバースを介してバンダイナムコグループとガンダムファン、あるいはファン同士をつなぐ
「ガンダムメタバースプロジェクト」はメタバースを介してバンダイナムコグループとガンダムファン、あるいはファン同士をつなぐ
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――今からもう30年近く前ですね。

宮河 3DCGを使ったアドベンチャーゲームのようなインターフェースで、例えば郵便局へ行ってメールの送受信をしたり、街頭テレビで動画を見たりできる、コミュニティーツールというか、通信サービスですね。当時はハードもソフトも通信インフラも今とは比べものにならない未熟なものでしたが、このフランキー・オンラインの経験から、テクノロジーが追いつきさえすれば、メタバースのようなものが台頭してくるイメージをずっと持っていました。

 メタバースは基本的にコミュニティーであり、コミュニケーションを楽しむものでもあるはずです。それは僕にとってはライブ会場と同じ。同好の士が集まって1つの世界観を共有することが楽しいのだろうと思います。そう考えたときに、メタバースをバンダイナムコが手掛けるならばIPごとに世界観を作っていくのが分かりやすいということで、「IPメタバース」、その第1弾としての「ガンダムメタバース」を作り始めました。

 メタバースの中には、いずれは数億人、数千万人が集うメタバースも出てくるかもしれません。我々が作るものはそこまでの規模にはならないかもしれない。それでもガンダムメタバースにはガンダム好きな人が集まってくるというのは、とても分かりやすい世界です。それにコミュニティーとして捉えれば、好きな人たちが集う熱量こそが一番重要じゃないでしょうか。

――ガンダムメタバースは、「アニメ」「ガンプラ」「ゲーム」といった分野ごとのコミュニティーを「スペースコロニー」とし、それが集まってメタバース空間「GUNDAM METAVERSE SIDE-G」を形成するという、作品世界の設定を生かした構造になっているところがさすがだと感じました。

宮河 いきなり大きな“森”を作ろうとしても時間がかかるし、実現するのは困難になります。ガンダムメタバースでは、まずは「アニメ」「ガンプラ」「ゲーム」といった“林”を1つずつ作り、それをつなげて森に育てていこうと考えました。

ガンダムメタバースの構想は1年以上前から

――構想はいつ頃からスタートしていたんですか?

宮河 1年以上前ですね。BNEは2020年11月に、ロサンゼルスのスタートアップである米Geniesさんと日本を拠点とする同社のアジア本社と資本業務提携を結びましたが、そこから流れは始まっています。同社はリアーナやジャスティン・ビーバーといった海外の著名人をアバター化しているアバター技術に優れた企業です。メタバースのようなファン参加型のオンラインコミュニティーにはアバターが魅力的であることが重要だと考えて資本提携しました。

 さらに、22年4月にはコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)「Bandai Namco Entertainment 021 Fund」(以下、021 Fund)を設立しました。021 Fundは投資金額を3年間で30億と設定しており、メタバース領域と新たなエンターテインメント領域に特化させることを特色としています。我々は投資家ではないので、姿勢としては「一緒に何かできるんじゃないか?」と思える若い才能を発掘するのが目的です。

――22年6月には、021 Fundとしてブロックチェーン技術を活用したコミュニティープラットフォームを提供するGaudiy(東京・渋谷)に出資しました。

宮河 CVCを始めて驚いたのは、優れた才能を持った若い人たちが思っていた以上にたくさんいることです。(Gaudiyの)石川裕也社長もその1人です。

 僕はIPが専門で、石川社長はデジタルが専門。得意領域は違います。だから一緒に食事に行っても、互いに相手が言っていることがよく分からなかったりするんですが、そういった全く違う専門性を持っているからこそ、一緒に何かを作ることに意味があります。

 僕はよく言うんですよ。僕たちIPの人にはデジタルの技術や世界は分からない。逆にデジタルの人にはIPやストーリー作りが分からない。異なる専門性を持った人たちが混じり合い、1つの世界を作り上げていくことこそ僕がイメージするメタバースなんです。

――その「メタバース観」は何かから着想を得たものなんですか?

宮河 GUNDAM FACTORY YOKOHAMAの「動くガンダム」ですね。いつも言っていることですが、あのプロジェクトには「元請け」が存在しません。僕からすると、どこか1社に発注するほうがはるかに楽なんですが、絶対にそれはやりたくなかった。それよりも、得意なものを持った企業や人が集まってみんなで実現させることが重要でした。その結果、まとめ役が誰もいなくて話が進まないという事態に陥ったこともあって。2回くらいプロジェクトを中止しようと思ったくらいです。(笑)

GUNDAM FACTORY YOKOHAMAの「動くガンダム」
GUNDAM FACTORY YOKOHAMAの「動くガンダム」
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 でも、このままじゃ立ち行かないとなったときに、テクニカルディレクターの石井啓範氏が「僕がまとめ役になります」と言って日立建機を辞め、専任として参加会社をまとめてくれた。いろんな得意分野を持った人が集まって実現した「動くガンダム」は言ってみればバンダイナムコ版のオープンイノベーションですよ。

――ガンダムメタバースでもそのようなメタバース観が生かされるのでしょうか。

宮河 権利はあくまでも当社が保全しますが、いろいろな人や企業が集まって「動くガンダム」を作ったように、ガンダムメタバースもガンダムを軸にファンがああでもない、こうでもないと作り上げていく。これがIPが最も輝く形なのではないかと思っています。

――ガンダムメタバースではコミュニティーの在り方も独特のものになりそうですね。

宮河 メタバースのイメージとして映画『レディ・プレイヤー1』がよく話題に上がりますが、あの作品では物語が佳境に入ってくると、登場人物たちがリアルで顔を合わせて共に行動するようになります。リアルな姿がアバターから想像していたものと違っていて最初は驚いたとしても、すぐに1つになれる。それが僕があの作品で一番好きなところです。

 僕が関わるメタバースでもああいうふうにありたい。アバターとしての交流で生まれた精神的なつながりがリアルでも生きるものにしたいと思っているんです。もちろんバーチャルだけで楽しみたいという人は尊重しますが、望めばリアルでもつながれる。それが本当のメタバースじゃないかと思います。

――バーチャルとリアルは対比的に語られることが多いですが、バーチャルでのつながりがあることでリアルのコミュニティーにも文脈やつながりが生まれる可能性があるということですね。

宮河 言ってみれば、動くガンダムもバーチャルとリアルの融合です。あんなものを作ろうという発想が生まれたのは、僕がガンプラなどの玩具と映像の両方に携わってきたから。映像作品だけを作る会社だったとしたらお台場に立像を立てるより映画を作りますよ。

 僕は以前から「デジタルとフィジカルの融合」という発言をしていますが、それは「ゲームと玩具」だけでなく、物語世界と僕らが生きる現実世界の融合でもあるわけです。ゲームも玩具も手掛けていることがIPの世界を多面的に広げられるバンダイナムコの強みであると同時に、面白さでもある。バンダイナムコグループでやるメタバースも、バーチャルとリアルの相互に開かれていないと面白くないでしょう。

ガンダムに続くIPメタバースの創造へ

――ガンダムメタバースは各スペースコロニーを順次稼働させ、ガンプラが45周年を迎える25年にはSIDE-Gの全貌が見えるようにしたいとのことですが、ガンダムに続く他のIPメタバースも作るのでしょうか。

宮河 構想はすでにありますが、今は僕ら企業がファンに対して一方的に「こういうものを作りました。面白いでしょう?」と押しつけるような時代でもありません。ファンがどういうものを望むのかを第一に考える。特にコミュニケーションの場でもあるメタバースは、ファンが参加して完成度を高めるのが自然でしょう。

 だからこそ僕はファンが望むものをファンが生み出すCtoCに期待しています。ガンダムメタバースでは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)やそれを他のファンに販売するCtoCビジネスも視野に入れていますが、これからの時代、どんなIPもそうやって広がっていくんじゃないですかね?

メタバースは他社やユーザーと共に作っていくという宮河社長
メタバースは他社やユーザーと共に作っていくという宮河社長

――IPメタバースは相互にリンクさせるんですか。

宮河 メタバースはIPごとに作り、それらをバンダイナムコIDでつなげて相互に行き来できるものにするつもりです。例えば、ガンダムが好きな人が『鉄拳』メタバースに遊びに行き、そこで『鉄拳』の面白さに目覚めるとか、そんな世界を作りたいですね。

 ガンダムメタバースが段階的に少しずつ規模を大きくしていく道を取ったように、他のIPメタバースもいきなり大規模なものは作れないでしょう。まずは、ガンダムメタバースで基礎となるものを作ることで、ファンがどう反応するかなど見えてくる部分もあると思います。

――そういう意味でも、まずはガンダムメタバースを無事に開始することが優先ですね。

宮河 僕は映像や玩具の出身だから、どうしても完成品を目指してしまいます。動くガンダムを作っているときに言われたのは、「いいんですよ、半完成品で」ということ。できたものをベースに完成度を高めていけばいいだけの話で、逆に言えば最終形なんてないというんですね。

 すでにゲームなども発売後にアップデータが配信されることが珍しくなくなっています。メタバースではそれが細部の修正にとどまらず、全体像をまるっきり書き換えるようものであったり、ファンと徐々につくり上げていくようなものであったりするんじゃないかと思っています。

※この記事は後編に続きます

(写真/中村 宏)

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