参加選手の給料保証や破格の3億円という賞金総額が話題を集めたeスポーツリーグ「X-MOMENT」。2年目に突入し、その勢いと注目度はさらに高まっている。今後のX-MOMENTの活動方針や課題について、NTTドコモビジネスクリエーションeスポーツビジネス推進担当課長の森永宏二氏に聞いた。
――まずはX-MOMENTの1年を振り返って、リーグとしての成果と課題をどう捉えていますか。
森永宏二氏(以下、森永) 2021年2月にリーグを開幕するに当たり、当初は大きな会場でお客さんを入れて開催したいと考えていました。それが、新型コロナウイルス禍によってかなわず、オンラインでの開催となってしまいました。
eスポーツの良いところはオンラインで開催しやすいところです。無観客にするのはもちろん、選手も自宅やチームのゲーミングハウスから参加できる。これは大きな利点です。野球やサッカーですと無観客は可能でも、選手はスタジアムに集まらないと試合ができませんから。
それでも、やはり現場の熱狂や盛り上がりは伝えづらいと実感しましたね。コロナ禍の状況によるところもありますが、やはりオフラインの大会、有観客での開催は必要だと思っています。現場で聞いたファンの声を今後のイベント運営に反映していきたいですね。
――オンラインの開催による成果はあったが、今後を考えるとそれだけでは不十分と言うことですね。
森永 オンライン配信で開催した成果として、幅広いファンの獲得まではいきませんでしたが、コアなファンの獲得はできたと思います。配信のコメントもおおむね好意的なものでした。
スポンサー企業の目線で見てみると、足りない部分はあったと反省しています。オフライン開催ならできたはずのさまざまな計画も実現できていませんでしたし、NTTドコモやX-MOMENTに期待していただいたメニューを提供できたかというと、正直足りていなかったと思います。
――22年はオフライン大会も開催されています。スポンサーに対してはどんなメニューを提供しようと考えていますでしょうか。
森永 まだ発表できる段階ではありませんが、現状、いろいろ仕込んでいます。NTTドコモが持つアセットを活用し、何が提供できるかを考えています。さまざまなアセットによってスポンサーの皆さんに付加価値を提供していきたいですね。これから順次発表していきますので期待していただければと思います。
――既存事業との連携も考えているということでしょうか。
森永 そうですね。現状でも、X-MOMENTは初心者向けの解説を用意したり、大会のライブ配信を人気のストリーマーが実況配信するミラー配信を行ったりと、多くの人が楽しめるような施策展開しています。
これに加えて、例えばNTTドコモが展開するマルチデバイス型メタバース「XR World」でのeスポーツ観戦なども視野に入ってくるでしょう。実現すれば、地方のファンの方々にも会場で観戦しているかのような臨場感を体験してもらえるようになります。また、NTTドコモにはドコモショップのようなロケーションが全国にありますから、それらを活用すれば各地でeスポーツの集いのようなこともできるのではないかと考えています。
――X-MOMENTでもオフラインイベントが少しずつ開催されていますが、オフラインを実施する際の基準などはあるのでしょうか。
森永 当然ですが、世の中の動向をみて考えていきます。先ほども言った通り、オフラインにはオフラインの良さがありますので、できる限り開催していきたいですね。
22年に入ってから、『レインボーシックス シージ』の国内トップリーグ「Rainbow Six Japan League 2022」(RJL 2022)は、3月の開幕直前イベントや6月の試合を、『PUBG MOBILE』のプロリーグ「PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE(PMJL)SEASON2」は4月の試合をオフラインで行っています。PMJLの試合はチケット販売を抽選としましたが、観戦希望の応募はその数倍にのぼりました。ファンもオフラインイベントを望んでいるんだと分かりました。
テレビなどで認知を向上
――eスポーツ番組「X-MOMENT Presents CHOTeN~今週、誰を予想する?~」をテレビ東京系列で放送するなど、メディアを活用した認知向上戦略も展開しています。その効果はどうですか。
森永 「CHOTeN」は、ゲームよりも選手にスポットを当てる作りになっています。そのため、「CHOTeN」によって、ゲームが好きな人以外にもeスポーツに興味を持ってもらえるようになってきていると感じています。eスポーツでもフィジカルスポーツでも、瀬戸際で頑張っている選手にどのような背景があるかを知ると、視聴者は共感してくれるのではないかと思います。
――X-MOMENT立ち上げ後に、NTTドコモはNTTの完全子会社となりました。それによるX-MOMENTの事業環境の変化、方針の変化はありましたか。
森永 全くと言っていいほど変わってないです。eスポーツに関してはこれまでもNTTe-Sportsと連携していましたが、それ以外のNTT関連会社と連携があまり取れていませんでした。NTTの下、同じグループの会社になったことで、それらの企業とも連携しやすくなると思います。
――X-MOMENTはリーグの所属選手全員に対して給与を保証したことが話題になりました。この給与保証についてはどのように考えていますでしょうか。
森永 リーグを運営する立場として、参加チームに対し選手の給与をサポートしています。将来的にはチームが独立して運営できればと考えていますが、現状でもX-MOMENTに参加したことでチームスポンサーが増えたといった話も聞きますので、給与保証ではなく、X-MOMENTに参加すること自体がチームにとってバリューとなるのが理想です。
――入れ替え戦があるリーグでは、リーグのみ給与保証があり、その他チームとの格差を生じてしまいます。その点はいかがでしょうか。
森永 給与保証のあるリーグとそれ以外では大きな差があることは理解しています。入れ替え戦の結果、降格したチームから昇格したチームへの選手移籍なども起きやすい状況にあるのも事実です。リーグへ昇格した場合は選手に関する規約はありますが、落ちた場合は、リーグの規約外となるため、規約による縛りはなくなってしまいます。こうした点も含め、何が理想型なのか現段階でも模索しています。
――『ストリートファイターV チャンピオンエディション』のチームリーグ戦「ストリートファイターリーグ:Pro-JP」(SFL)も21年からX-MOMENTの運営となりました。今後X-MOMENTとしての独自色は出していくのでしょうか。
森永 SFLはカプコンさんとの共催です。カプコンさんができない部分についてNTTドコモとして貢献したいと考えています。例えば、21年は選手が自宅から参戦することになりましたが、プレー中の表情を映す配信にはNTTドコモが提供する5G端末を使って回線を分けるなど、ゲームに少しでも影響が出ないように工夫しています。
――最後に、2年目に突入したX-MOMENTの今後の目標を教えてください。
森永 より多くの人にX-MOMENTを知り、大会の配信を視聴してもらいたいですね。今後はオフラインイベントも開催していく予定なので、会場にもぜひ足を運んでいただけたらと思います。オフラインイベントは有料の観戦チケットを販売していますから、お金を払うに値する価値あるコンテンツを作るように心がけています。
22年6月4、5日に開催したRJL 2022のプレイオフの観戦チケットは、ペアチケットから売れていったんですよ。ペアチケットは、1人用チケットを2枚買うよりお得という点もありますが、この流れをさらに発展させて、誘い合って訪れるコンテンツとしてX-MOMENTを成立させていきたいですね。そのためにも、NTTドコモが持つノウハウを生かし、見るに値する付加価値を付けていきたいと思っています。
(写真/志田彩香)