クラウドゲーミングサービス「Xbox Cloud Gaming」の展開や有力ゲーム企業の相次ぐ買収など、マイクロソフトのゲームへの取り組みは活発だ。日本マイクロソフト執行役員の竹内洋平氏に「Xbox」の戦略を聞いた。
近年、マイクロソフトはゲーム事業に関連する取り組みを次々と進めている。2020年11月に家庭用ゲーム機「Xbox Series X|S」を日本でリリース。21年10月1日には、欧米で先行してスタートしていたクラウドゲーミングサービス「Xbox Cloud Gaming(Beta)」を日本でも開始した。
21年3月には、有力ゲーム会社ベセスダ・ソフトワークスを傘下に持つ米ゼニマックス・メディアを買収。さらに、ゲーム業界史上最大ともいわれる総額687億ドルを投じ、「コール オブ デューティ」「オーバーウォッチ」などのゲームシリーズで知られる米アクティビジョン・ブリザードもグループに加えようとしている。
ゲームプラットフォーマーとして、また、ゲームパブリッシャーとして、機先を制するマイクロソフトは、日本でのビジネスをどのように展開していくのか。日本マイクロソフトでコンシューマー事業を管掌する執行役員の竹内洋平氏にその戦略を聞いた。
店頭でのXboxのブランド力を再構築
――初代Xboxは米国での発売が2001年11月、日本での発売が02年2月。22年で日本での発売から20周年を迎えました。
竹内洋平氏(以下、竹内) Xboxが発表された頃のことは私も鮮明に覚えています。まさか自分がXbox事業部を管掌することになるとは当時は思ってもみませんでしたが、現在は当事者として、この20年間、多くのファンの皆さんに支えられてここまで来たということを実感をしています。
Xboxは「Gaming for Everyone」を掲げ、ユーザーを第一に考えて設計しているブランドです。ゲーム機を買わなくても、ユーザーが遊びたいデバイスで、遊びたいゲームをプレーできる環境を整えています。ゲーム機だけでなく、PCやスマートフォン、タブレットでも遊べるので、ユーザーの裾野はだいぶ広がってきたと思っています。
ただ、このプラットフォームをもっとたくさんの皆さんにお伝えしていくことが我々の使命でもあります。店頭では、(Xboxのブランドカラーである)“緑色”がだいぶ少なくなってしまったということは事実としてありますので、今後の3カ年計画では、店頭に“緑色”を戻して、ゲームファンの皆さんに「Xboxはここにありますよ」ということをしっかり訴求していきたいと思っています。
――Xboxは20年間で大きく変わりました。もともとはゲーム機を指していましたが、いまやハードそのものではなく、ゲームを楽しむプラットフォームのブランドに変わってきています。店頭に“緑色”を戻すために、どういう施策を考えていますか?
竹内 引き続きゲーム機をメインにコミュニケーションをしていこうと思っています。Xbox Series X|Sはかなりの好評をいただいていますが、残念なことに、半導体不足もあって、現在の需要に対応できず、皆さんにご迷惑をおかけしています。家電販売店からも引き合いが多く、あるだけ持ってきてほしいといつも言われていますが、提供できていません。
もしXboxのゲームがゲーム機からしかプレーできなかったとしたら、最新ゲームが遊べないという状況が続いていたかもしれません。しかし、PCやタブレットなどでも遊べるサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」(以下、Game Pass)があることで、いろいろなゲームを自分の好きなデバイスからプレーいただけるようになっています。Xbox Series X|Sを購入したいと考えている皆さんには、本体を入手できるようになるまでは、ぜひGame Pass を試していただきたいと思っています。
Xboxをお客様にお届けする方法はいろいろありますが、私としては店頭でのブランド力を改めて高めていきたいと考えています。今までXboxは、日本全国でというよりも、首都圏の大型店などエリアを絞って販売や訴求をしてきました。ですが、今は郊外店からもXboxを取り扱いたいというご相談をいただき、Xboxの売り場がちょっとずつ復活してきています。まだまだ足りてはいませんが、地方でも伸びてきているところです。
我々としては、こうした店舗をきっかけにGame Passをもっと多くの方に知っていただき、そこからプレーするゲームを探していただけるように、認知を拡大していくことも戦略の1つだと思っています。
――販売促進を加速する中、核になるのがGame Passなのですね。
竹内 はい。Game Passは1つの重要な要素です。Xbox Series X|Sの本体やアクセサリー類を店舗に展示するのと併せて、Game Passのサービスを提供していきます。どれかにフォーカスするというよりは、いろいろなデバイス、いろいろなサービス、いろいろなゲームを体験いただけるゲームプラットフォームということを、首都圏だけじゃなくて郊外でもしっかりと訴求していきます。
――確かに、ヘッドセットやコントローラーなど、魅力的なアクセサリーがそろってきていると個人的に感じています。
竹内 まさにその通りです。ただ、製品はそろってきているものの、現在は皆さんからご要望をいただいている数を提供できていない状況なので、Xbox Series X|Sの本体同様、アクセサリーもしっかりと用意していきたいと考えています。
クラウドゲームは幅広い層に向けて
――21年10月には、日本でもGame PassのUltimateプランユーザーを対象にクラウドゲーミングサービス「Xbox Cloud Gaming(Beta)」を始めました。「東京ゲームショウ2021 オンライン」で公開したプロモーションビデオを見ると、訴求対象はミレニアル世代なのかなという印象を受けましたが、ターゲット層はどうとらえていますか?
竹内 Z世代やミレニアル世代などの若い層はもちろんですが、そこに絞っているわけではありません。Game Passのラインアップには、“アラフィフ”(50代前後)にとって懐かしいゲームタイトルや、「これやってみたかったんだよね」と思っていただけるようなタイトルもたくさん入っています。
Cloud Gaming(Beta)は、今までのXboxのコアファンだけではなく、初めてXboxのゲームに触れる人たちにも幅広く楽しんでいただけるプラットフォームになっていると考えています。
――サービス開始については、業界やユーザーからどんな反響がありましたか?
竹内 お客様からはとてもいい評価をいただいています。今までは、高性能のGPU、ゲーム機、パソコンが必要だったゲームがスマホでも、ストリーミングでプレーできるという点が好評です。「Microsoft Surface」シリーズなどのパソコンでも気軽にプレーできるので、感触は非常にいいですね。
――現状、サービス名は「Xbox Cloud Gaming(Beta)」とベータ版になっています。
竹内 これが完成版ではなく、ユーザーの皆さんからフィードバックをいただいて、常にアップデートをしていくという我々の意思表示です。スマホでの操作性やレイテンシー(遅延)、ネットワークスピードなど事業者と共に改善を進めているところですが、ゲームをプレーする上でレイテンシーが発生しないようにすることは特に重要だと思っています。
――パッケージでの売り切り型の時代と比べて、好まれるタイトルの傾向などに変化はあるのでしょうか。
竹内 傾向はあまり変わっていませんね。ただ、従来だったら買っていないかもしれないけれど、ちょっとやってみたかったゲームに触ってみるという人たちが増えています。また、若い人たちが複数でプレーするとき、以前ならそのゲームを持っていない人は買わないといけなかったわけですが、今では、Game Passに入っているから一緒にプレーできる。プレーヤーの裾野が広がってきたことで、プレーするゲームジャンルの幅も広がってきているところはありますね。
――サブスクリプションになると、それほどメジャーなタイトルでなくても目にしてもらえるチャンスがある一方、(リアルタイムで)人気のゲームとそうでないゲームの差が鮮明になってしまうところがあります。AI(人工知能)の活用を含めて、プラットフォームとして埋もれがちなゲームをどう掘り起こしていくのでしょうか。
竹内 例えばインディーゲームも我々が盛り上げようとしているところですが、開発者が大規模なテレビ広告を打てないゲームであっても、Xboxのプラットフォームを通じてお客様の手に渡り、コアファンの中でバズって広まっていくケースは過去にもたくさんありました。店頭では1番目のチョイスに入らなかったゲームでも、Game Passを通じてお客様が触れられるという環境ができていますので、幅広いゲームをお客様に知っていただくことはやっていかないといけないと思います。
――21年10月には、Windows 11がリリースされました。ゲームのプラットフォームとしてのWindowsも強化されています。
竹内 Windows 11によって、ゲームがよりきれいに、快適にプレーできるようになりました。例えば、(映像の輝度を自動的に調整し、視認性を向上させる)「Auto HDR」や起動スピードを速くする「Direct Storage」といった機能が追加されました。
もう1つ重要なのが「Xbox Game Bar」を使ったゲームプレーの録画機能です。Windows 10から搭載しているのですが、自分のゲームプレーを友達と共有したり、SNSにアップしたりする操作はWindowsと高い親和性があります。「Gaming for Everyone」の戦略を進める中で、ゲームを見る楽しみも充実させたいので、プレー中の様子を録画できるXbox Game Barは非常に重要な機能です。
――現在、ゲームのプラットフォームがいくつかある中で、Xboxはどういうポジショニングなのでしょうか?
竹内 もともとは「海外ゲームのプラットフォームで、ちょっとハードルが高い」と思っているお客さんが多かったですが、その印象はだいぶ変わり、ハードルが低くなってきたかなと感じています。
とはいえ、認知度はまだまだなので、日本の幅広いユーザーに「Xboxはすごく楽しいプラットフォームですよ」としっかりと訴求したいですね。Xboxは他のプラットフォームとは違って、ゲーム機が基点ではなく、遊びたいゲームを、遊びたいデバイスで、いつでも遊べるというところを目指しています。Xbox Series X|Sを買っていただいてもいいですし、自分のPCでプレーをしていただいてもいい。Xboxというプラットフォームをもっと幅広い人に理解いただいて、自分の好きなデバイスでXboxの世界に入ってきていただくことが「Gaming for Everyone」につながる第一歩かなと思っています。