ガールズバンドプロジェクト『BanG Dream!』(バンドリ!)、DJをテーマにした『D4DJ』(ディーフォーディージェー)など自社のIP(知的財産)をゲーム、アニメ、ライブ、舞台などのコンテンツに展開し、熱心なファンを醸成しているブシロード。新型コロナウイルスの感染拡大により、この2年は、同社が注力するライブエンターテインメントの開催にさまざまな制約がかかり、思うような活動はできなかった。ただ、そんな中でも感染予防対策を徹底し、野外フェスやプロレスの興行などは開催し続けている。2022年6月期第1四半期(21年7~9月)には、四半期の売り上げ、利益ともに過去最高を記録。反転攻勢に出る。この先の展望を、新規事業やIP戦略を引っ張る同社の木谷高明会長に聞いた。
――新型コロナウイルス禍が長く続いていますが、ブシロードの事業は徐々に復活してきている印象です。
木谷高明氏(以下、木谷) 感染拡大が収まっているわけではないですが、社会的に対応力が付いたというか、だいぶ慣れつつあるという気がしますね。舞台関係でも(陽性者が)出ますが、代役を立てて回しています。当社のコンテンツは必ずライブエンターテインメントを絡ませているので、コロナ禍の状況にかかわらずやるというスタンスはずっと継続していますが、2021年からはその決意をより固くしました。
差別化しないと生き残れない
――コロナ禍で変わってきていることはありますか?木谷 これはエンタメだけでなく、どの分野でもそうですが、デジタル化がすごく進みました。デジタルになればオンラインになり、オンラインになればグローバルになるわけですが、デジタルになると、強いところがより強くなる。どのジャンルも上位寡占になっていると思います。
その要因はいろいろあると思いますが、デジタル化によってユーザーが勝ち馬に乗りやすくなっているということもあるし、(情報発信側の)アナログ的な差別化が難しくなっているということもあると思います。差別化ってアナログでするところが多いと思うんですよ。それがコロナ禍で結構制約を受けるので、できることに限りが出てくる。
だから、ブシロードグループとしては、一つひとつのIPやプラットフォームを見直して、徹底的に差別化するというところから始めていますね。
――具体的には?
木谷 例えば当社グループが運営している女子プロレス団体「スターダム」は競合があまりないんですよ。ということは、思いっきり王道をやればいい。21年から、誰もが知っているような大きな会場で大会を開いています。仮にお客さんが会場の3分の1しか入らなくても、コロナ禍なのですいていることに対する抵抗感はあまりない。むしろすいているほうがいいじゃないですか。環境がいいわけですから。
そういう王道のやり方で、情報発信をとにかく増やして、一気に急成長させています。元のパイが小さいから、まだまだではありますが、倍、倍と来ていますね。
パイが小さいといえども、そのジャンルのナンバーワンだったらメジャー感を出すべきなんですよ。逆に、そのジャンルで何番手か分からないようなものは徹底的に他と差別化すべきです。何十番手かのものであっても、差別化して、視点をちょっとずらしてみると、1番手、2番手だよねと言える。そういうふうにすべきだと思いますね。
リアルあってこそオンラインの効果がある
――コロナ禍ではオンラインによるプロモーションが主流になっていますが、リアルを大切にしている木谷さんは、どう見ていますか。
木谷 オンラインで人間関係ができるとはあまり思えないですよね。特に深い人間関係が。人間関係がリアルでできていたから、オンラインでも対応できるわけじゃないですか。オンラインだけで成り立つものもあるかもしれないですけれど、基本的にはリアルがあるからオンラインができるんだと思います。
例えばアニメの製作委員会でも、一度もリアルで集まらずオンラインだけだったら、深い話ができるのかなと思いますよね。リアルで集まっているから、今回はオンラインにしましょうということができるんだと思います。
――コンテンツのプロモーションをする上で、やはりファンとはリアルでつながっておかないと、オンラインの効果も十分に発揮されない?
木谷 もしかしたらオンラインでつながっていることが前提のゲームなどは、オンラインだけでいい可能性もあります。でも、例えばカードゲームの場合、上からカメラで映した映像を流してオンライン対戦だけにすればいいなんていうことには絶対ならないでしょうね。絶対リアルが必要ですよ。それは大きな会場でもそうだし、店舗レベルにおいてもそう。
どこからどこまでリアルが必要で、どこからどこまでオンラインでいいかというのは、エンタメの種類によってかなり違ってくると思います。デジタルのゲーム会社はオンラインだけでいいやという考え方も、間違ってはいないと思います。
――コロナ禍にあっても、新しいIPがいくつか立ち上がってきています。どのように成長させていきますか。
木谷 ブシロードにとって、「音楽コンテンツ」「カードゲーム」「プロレス」が三種の神器みたいなものです。グループは全部そこから派生している。だから、今後ともこの3つのジャンルに当てはまるものが中心でしょうね。うまくいっているゲーム会社って自分の(得意とする)ところからあまりはみ出していないですよね。
――それは蓄積してきた経験があるから?
木谷 一番大きいのはお客さんの印象ですね。例えばうちが新しい作品を発表したら、きっとライブをやってくれるだろうとか、イベントに力を入れてくれるだろうという期待感が最初からある。カードゲームであれば、リリースしてすぐにやめることはないだろうなという信頼感があると思う。プロレスでも、新日本プロレスがうまくいっていて、今回、スターダムも盛り上がってきているので、プロレスを広めるのはブシロードが一番うまいよねという印象にはなっていると思うんです。
――木谷さんは「ブシロードの箱推し」、いわゆる会社のファンが付いてきたということをおっしゃっていますが、ブシロードに対する期待感を持った人たちが醸成されてきているので、その層にうまく当てていくことが、今は重要ということでしょうか。
木谷 そう思います。その“箱推し”をさらに進めるために、クレジットカードを作ったり、コンテンツによってはファンクラブを作ったりしているわけです。ブシロードでは、本格的にヘルスケアの分野に出ていくのですが、子会社の新社名「ブシロードウェルビー」を発表したときも、「ブシロードが最期の面倒まで見てくれる」なんて冗談を言っているファンもいました。
アフターコロナのほうがリアルを取り入れやすい
――ヘルスケアと先ほどの「三種の神器」との連動性は?
木谷 プロレスでは新日本プロレスやスターダムのほかに、健康や美容にも出ようと思っていて。例えば(新日本プロレスのアイコンである)ライオンマークのサプリとかを出そうと思っているんですよね。
――木谷さんは社会全体を見渡し、時代を読み解いた上で、新しいIPを開発して次の一手を打ってきました。今はどんなところに注目していますか?
木谷 先ほども申し上げた通り、ゲーム会社は完全に二極化しています。上位のゲーム会社は業績がすごくいいけど、中堅以下はぼろぼろじゃないですか。1つのジャンルの中でも二極化が進んでいるし、会社単位で見ても進んでいる。上位にどうやって入れるか――というか、上位に入るしかないわけです。そのために徹底的に差別化していく。うちの持っている強みをもっともっと強くするしかないなと思っています。
音楽コンテンツに関してはやっぱりライブが鍵になります。だいぶ体制も整ってきました。目先でいうと22年春にオープンしたばかりの「飛行船シアター」(東京・上野)ですね。常設劇場が持てたので、舞台は力を入れます。飛行船シアターを格闘技でいう後楽園ホールみたいにしたいですね。アニメ系コンテンツの舞台の聖地みたいなイメージです。
5月から年内に3つぐらいの演目を実施して、23年1月以降は毎月、アニメコンテンツの舞台をやっていく。トレーディングカードゲーム『ヴァイスシュヴァルツ』の舞台化されていないタイトルを舞台化することも考えています。
――舞台に力を入れる理由は?
木谷 (IPをトレーディングカードゲーム、アニメ、デジタルゲーム、音楽などさまざまなビジネス領域で展開する)マルチ出口戦略のうちの1つです。舞台を見に来た方に「ヴァイスシュヴァルツ」のカードをプレゼントしたり、出演者の実写カードを作ったりもするかもしれないですね。いろいろなものをすべてプラットフォーム化していこうと思っているんです。
うちの戦略を分かりやすく言うと、1つはグローバル化。もう1つはマルチエグジットというか、出口をどんどん増やしていくことです。プラットフォームをどんどん増やしていく。そして3つ目はやはりライブエンターテインメントを使った差別化。この3つだと思います。
――アフターコロナ時代は、コンテンツに何か変化が出てくるのでしょうか。
木谷 当然あると思います。アフターコロナのほうがリアルなものを取り入れやすいですよね。デジタルのコンテンツを作るにしても、連動性がより重要になるかなと思います。うちとしては本来に戻るということで、やることを変えるわけじゃないです。今まで通りのことをやればいい。
あとは舞台、ライブのインフラをどんどん整えていっていますから、そこがフルに回るようになれば強いですよね。アナログとデジタルを組み合わせることができるのは、ブシロードの一番強みじゃないですかね。
――「ファンマーケティング」が注目されていますが、ブシロードが一番得意とするところですね。
木谷 今期第1四半期は他社のIPを活用した戦略を推し進めた結果、過去最高の売り上げと利益になりました。一方、オリジナルIPは立て直しが課題です。特にスマートフォンゲームは流れを変えなければダメだと思っています。まずは、2月にリリースしたプロレスラー育成ゲーム『新日本プロレスSTRONG SPIRITS』(新日SS)をうまく進めて、この先2年ぐらいかけて自社IPから次の人気者を出していこうと思っています。
ブシロード代表取締役会長
(写真/辺見真也)

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