※日経エンタテインメント! 2022年4月号の記事を再構成

デジタル化の波が音楽業界にも押し寄せるなか、レコード会社の取り組みにも変化が表れている。では具体的にどのようなことを行っているのだろうか。最初に紹介するのは、拡大するインディーズ市場に向けて、サポートを充実させ、ヒットの種をまいているエイベックスだ。

 テクノロジーやSNSの進化で、個人の音楽活動が昔に比べてしやすくなっている昨今。インディーズアーティストに向けた取り組みにもレコード会社は力を入れ始めている。エイベックスが2016年にスタートしたのが、「BIG UP!」。インディーズアーティストの作品を、ストリーミングサービスへの配信代行を行う事業だ。加えて、現在ではレコード会社だからできるアーティストのサポートにも注力している。

「BIG UP!」はApple Music、Spotify、LINE MUSICといった音楽ストリーミングサービスへの配信代行を中心に、アーティストの楽曲制作サポートなども行うサービスとして2016年にスタート
「BIG UP!」はApple Music、Spotify、LINE MUSICといった音楽ストリーミングサービスへの配信代行を中心に、アーティストの楽曲制作サポートなども行うサービスとして2016年にスタート

 BIG UP!のような配信代行サービスは、アーティストが楽曲を登録すると各ストリーミングに配信され、再生回数に応じて売上が分配される仕組み(定額制もある)。このインディーズや個人クリエーターの市場は、音楽ストリーミング市場以上に成長している分野で、BIG UP!の配信楽曲数はここ5年で約17倍、売り上げは約11倍の伸びを見せる。同様のサービスには「TuneCore」などがあり、20年にはユニバーサルミュージックも「Spinnup」を日本で開始するなど、取り組みが広がっている。

 このなかでBIG UP!の強みは、レコード会社としてのノウハウや機能を使えること。具体的には、レーベルが得意とするアーティストへの楽曲制作のサポートやプロモーション協力などだ。

 「BIG UP!に登録しているのは、多くがインディーズアーティスト。楽曲制作は自分たちでできても、プロモーションなど、活動を展開していく上で手が回らないところもある。アーティストが課題にしている分野で、レコード会社の知見やサービスを提供していくのが役割であり、新しい関係値を築くことが目的です」(エイベックス・エンタテインメント取締役・レーベル事業本部長 猪野丈也氏)。

 BIG UP!チームが発掘に携わったバンド・あたらよには、インディーズ時代からレコーディング時にスタジオ、ディレクションを提供したほか、積極的にプロモーションを行い『ミュージックステーション』(テレ朝系)の特集で取り上げられたこともあった。メジャー契約前のマカロニえんぴつのサポートも、BIG UP!が行っており、アーティストの育成サポートの場としても機能している。また、夜のひと笑い、花譜、DUSTCELL、Fischer’s、上野大樹、れんなど幅広いアーティストのヒット作りのために、営業、プランニング面でサポートを行ってきた。

 「今後はBIG UP!に登録している、していないに関わらずファンクラブ運営や、グローバル展開のサポートなどもアーティストに即した柔軟な契約形態でサービスを提供していく」(猪野氏、以下同)。

インディーズ市場が同規模に

 また、エイベックスは20年10月に、音楽系YouTuberに特化したエージェンシー「muchoo(ムチュー)」を設立。現在はMELOGAPPA、深根など60組が所属。すでに活動しているYouTuberをスカウトする形で、20代前半などデジタルネーティブ世代が発掘を担当している。

音楽系YouTuberに特化したエージェンシー「Muchoo」。アーティストが音楽関連動画の収益を高められる契約形態などを活用し、音楽系YouTuberを専門的にサポート。現在は60組のアーティストが所属している
音楽系YouTuberに特化したエージェンシー「Muchoo」。アーティストが音楽関連動画の収益を高められる契約形態などを活用し、音楽系YouTuberを専門的にサポート。現在は60組のアーティストが所属している

 muchooでは、PR案件の紹介やプロモーションのサポートを行う。また、レコード会社や一部のディストリビューターにだけ適用されている音楽に特化した契約形態を活用することで、YouTubeにおける音楽カバー動画を含む音楽関連動画の収益を高めることができるのも特徴だ。

 「事務所に所属するよりももっとライトで、アーティストにとってはリスクがない関係だと思っています。彼らが自由度を保ちながら活動できる点は変えず、利益を多く還元したり、足りない点をサポートしたりできることが今後アーティストとの新しい関係だと思っています」

 インディーズ・DIYアーティストによる“クリエーターエコノミー”は年々成長している。

 「今後は国内でもインディーズとメジャーの市場が近い規模になっていくと言われています。この潮流をキャッチアップし、レーベルのノウハウをアーティストに伝えていくことや、レーベル自体の形を変えていくことが重要だと感じています。それが国内だけに限らず、戦略的にグローバル展開ができる環境を整え、エイベックス所属のアーティストはもちろんのこと、他の日本のアーティストや優良な作品をアジアに届けられるレーベルを目指したい。この分野におけるリーディングレーベルになっていきたいと考えています」

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