※日経エンタテインメント! 2022年4月号の記事を再構成

創立80周年を迎える日本レコード協会(RIAJ)は、ソニー、ユニバーサル、エイベックスなど、メジャーレーベルのほとんどが参加する業界団体。音楽産業のために時代ごとに様々な取り組みを行ってきた。現在はコロナ禍も後押しし、デジタルシフトが急速に進行。さらに成長するためには何が必要か。2021年、RIAJ会長に就任したソニー・ミュージックエンタテインメント社長CEO(最高経営責任者)の村松俊亮氏に、現状の課題と今後の見通しを聞いた。

村松俊亮(むらまつ・しゅんすけ)
1987年、CBS・ソニーグループ(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。15年取締役。19年に同社社長に。21年に日本レコード協会会長に就任。大分県出身

――まず20年2月からのコロナウイルス蔓延の影響について聞かせてください。今年に入って、各社とも業績予想の上方修正が相次いでいます。最悪期は脱したという認識でよろしいでしょうか。

村松 レコード業界に関しては、そう捉えていいと思っております。ただ、コロナ禍において、コンサートができなかったために、ライブ映像を商品化できないという状況がまだあります。もちろん、ライブができなかったことそのものの影響も非常に大きいですよね。特にライブ事業に力を入れていたレコードメーカーは、かなり大きな打撃を受けたと思います。

 昨年の後半から年末にかけて、明るい兆しが見えたのですが、ご存じの通り、オミクロン株で第6波が来ました。今は、国や自治体からの入場者数制限などの要請もありますが、ファンの方々の、ライブ会場に足を運ぶ気持ちになれないという、感情的なところも危惧しています。特に地方において顕著なようで、全国ツアーを通常通りに行うという判断は、どの事務所さんもアーティストも迷われている状況が続いているんじゃないかなと思います。

――その一方で、コロナ禍を通じてユーザーの音楽への接し方に変化が起こったように思います。

コロナ禍でサブスクが加速

村松 ライブ関連以外では、比較的悪影響は少なかったのかなと思います。在宅期間が長くなりましたので、音楽に限らずエンタテインメント全般を楽しんでもらえる時間が増えました。特に、サブスクリプションの映像ビジネスは大きく伸長しました。映像ビジネスほどではないですが、音楽のサブスクリプションやストリーミングサービスも、ここ1~2年、非常にいい伸び率を記録しています。音楽に親しんでいただいている時間や絶対人数は、増えてきているんじゃないかなと。サブスクリプションへの転換は徐々に進んでいましたが、コロナがさらに後押しした可能性はありますね。これによって、ヒットの傾向も変わってきたように感じます。ストリーミングサービスなどで、自分の嗜好に合致する音楽をすごく見つけやすくなってますし、自分に合う音楽を自ら探すという傾向は今後もさらに強まっていくでしょう。

 加えて、ヒット曲の寿命がかなり長くなったと感じます。パッケージ販売が中心だった時代は、CDのヒットチャートで初週はベスト10に入るものの、2週目になると、そこに残っているほうが珍しいぐらいの傾向がありました。デジタルに切り替わりつつある今、ダウンロードでもストリーミングでも、1年前に発売した曲がいまだにベスト10に残っているということが珍しくありません。ロングテールで楽曲が世の中に受け入れられて、浸透していくのは非常にいい傾向だと思います。

 もちろん、CDに代表されるフィジカルは、ファンダムに向けたビジネスとして重要です。自分がファンであるアーティストに対しては、モノとしてしっかり音源を所有したいという、ロイヤルティーの高いファンはやはり多いです。それも素晴らしいことだと思います。またアーティストのアイデンティティーを、音以外のもので表現するという例が増えてきました。クリエーター気質のあるアーティストの活躍が目立っているなと。米津玄師さんなんかはその最たる例だと思います。現在の日本においては、フィジカルとデジタルの2つがうまく共存していると思います。ここは日本市場の強みだというふうに認識して、フィジカルはしっかりキープさせつつ、ストリーミングサービスをさらに伸長させていきたいですね。

ストリーミングは倍増も

――世界に目を向けると日本以外の市場は5~6年前から成長に転じています。日本市場は底を打ったようには見えますが、そこで足踏みが続いています。

村松 海外はフィジカルの衰退が日本よりはるかに早かったため、一足早くかなりのレベルまで市場が縮小しました、そこからストリーミングの成長に合わせて、マーケットがどんどん広がっている状況です。一方で日本は、フィジカルも減衰はしているものの、まだマーケットの70%程度を占めるほど存在感は大きい。そのフィジカルの減衰率を、ストリーミングなどのデジタル売り上げが、現状はカバーしきれてない状態ですね。

 ただ、ストリーミングなどについては、現在有料課金ユニークユーザー数が1500万人くらいで、これは10年前の「着うた」「着うたフル」の絶頂期のユーザーの数にやっと肩を並べたレベルです。各国の人口におけるストリーミング契約の比率を照らし合わせると、日本は今後3000万人ぐらいまで増やせる可能性が見えていますので、ストリーミングマーケットを現状から2倍にすることは全く夢ではないと思います。

――そのためにはどのような施策が必要でしょうか。

村松 個々のメーカーそれぞれで、様々な施策を組んでいると思いますが、ストリーミングというか楽曲ヒットというのは、SNSなども有効活用して、楽曲そのものをいかに拡散していくかが重要。その部分をいかに戦略的に各プロモーションチームがマーケティングしていくかということだと思います。加えて、日本発の世界的ヒットも、狙っていかなければなりません。

 海外戦略という意味では、行政とより強くタッグを組むことも重要と考えています。まず作り手の育成を組織的、機能的にしっかりやっていく必要がある。あとインフラですね。コンサートホールの整備はもちろん、国営スタジオのような施設があってもよいかもしれない。クリエーティブに関連する技術開発への投資も重要になってくると思います。

――海外の音楽シーンとの違いといえば、例えば米国におけるグラミー賞など、各国には目標とすべきアワードや基幹となるヒットチャートが存在しています。一方日本では、そうしたもの存在感が薄れてきているように感じますが、ユーザーの音楽への入り口としての必要性をどのようにお考えになりますか。

村松 確かに、音楽の楽しみ方が変わってきたため、今は何をもってヒット曲とするかという物差しがないですよね。個人的には、すべての方に納得感のあるヒットチャートのような存在を、どうにかして作り出さなきゃいけないなと考えています。同様に年に1度でよいので、アーティスト自身にも認められるようなアワードの必要性はあると思います。そうしたものが、音楽産業の広がりにつながるのであれば、レコード協会でトライする課題の1つかもしれないので、検討するべきなのかなとは思います。

――デジタルと通信技術の発達により、特に映像分野を中心にエンタテインメント市場にも多くの新規参入がありました。ただ、音楽分野に関しては、例えば「TikTokでバズったことがきっかけでブレイク」といった、一見アマチュアのようなミュージシャンや、新規の音楽動画配信番組として注目されているサービスも、実は名前は出さないものの、既存のレコード会社がしっかりバックアップしているという例が少なくないですね。こうした日本のレコード会社の強さはどのように見ていますか?

村松 まず、確かにDIYアーティストは増えてきています。ただ、彼らが成功している部分はありますが、楽曲1曲のみが世の中に広まっていったみたいな例も多く、その後、総合的なマネタイズにまで結びつけるのはなかなか難しい。一方、レコード会社は長い経験のなかで、音楽制作をはじめ、メディアへの露出方法、ライブの企画、ファンクラブ、マーチャンダイジングなど、あらゆるノウハウを持っていますので、そこは個人でできる範疇を超えている部分は当然あると思います。この部分はレコード会社の強みですよね。

――急速に進んだデジタルへのシフトへのキャッチアップも素早かったように思います。

村松 レコード会社はそもそも、その時代ごとに、自分たちのアーティストや楽曲を、どういう形が1番世の中に早く、広く、正しく伝わっていくかというのを常に考えてきました。メディアの変化をいち早く捉えキャッチアップするのは、DNAに組み込まれているのではないでしょうか。新しいものが出てきた瞬間に、面白そうと思って飛びついていかないと、我々は食っていけないですよ(笑)。

――かつてはミュージシャンにとって目標だった「メジャーデビュー」の意味も変わってきています。

村松 そうかもしれないですよね。一部のアーティストにとっては、メジャーはクールではなくなっているのかもしれません。それはアーティストやそのチームの考え方だと思います。日本レコード協会は、メジャーレーベルの団体ですが、インディーズの方々も、日本の音楽業界の成長に不可欠な存在ですし、当然私共も応援しています。

求められる人材とは

――これから音楽業界を支えるために求められる人材は?

村松 まず、アーティストやクリエーターとしっかり寄り添って、「世界中をあっと言わせるような作品を作ろうぜ」という根源的な熱を持っている人は絶対必要です。そんななかでも世の中に拡散させて伝えていく方法は、時代でどんどん変わっていくので、そこに即座に対応できる、臨機応変で柔軟な思考が求められると思います。

 おかげさまで、音楽業界で働きたい、エンタテインメントビジネスをやりたいという学生さんは多いのですが、魅力をさらに上げなきゃいけない。世界規模においては、ストリーミングの伸長もあり、原盤ビジネスのバリュエーション(市場価値)は急拡大しています。そういう意味では、産業としてもすごくチャンスがあるビジネスになってきました。こうした中で、日本の音楽をこんなものじゃない、国内だけじゃなくて世界に届けたい、そのために、こういうアーティストとこういう楽曲を作ってみたいというような、大きな夢を持った若者にぜひジョインしてほしいですね。

 一方で、何百万CDセールスというのは、そうそう出る時代ではなくなってきているように思います。そうした市場に対応するには、マスに向けて作るよりも、ある一定のプロファイリングされたペルソナに向けた深いものを作るという戦略もあるかもしれません。そのためには、個々人のA&Rやディレクターが好きだと思っていることを追求してほしいなと。そこには必ず自分と似た考えの人たちがいるはずと信じて、可能性を見いだしてほしいです。

 一方、人々に受け入れられるような良い曲を作るアーティストに寄り添うといった基本的な姿勢は不変です。100年後も200年後も変わらないでしょう。ただ、ポートフォリオは明らかに変わってきていて、ストリーミングが定着したら、その次はUGC(User Generated Contents=ユーザー自身が作るコンテンツ)に行くわけです。ユーザーが聴くだけでなく、使うということを想定しなきゃいけなくなってきたときに、ほとんどはデジタルなわけですから、その知見も貯めていくことが今の作り手には求められていると思います。

 デジタルに関しては、レコード業界全体で人材がまだ不足しています。エンジニアである一方で、しっかりクリエーティブが理解できている人材が育っていけば、そこを中心に組織を作っていくという可能性はあると思います。

「違法アプリ」には徹底対策

――音楽のデジタル化が進んで以降、日本レコード協会は、クリエーターに利益が還元されない違法状態での音楽流通を撲滅するために、行政への働きかけやユーザーへの啓蒙を行ってきました。現状はいかがでしょうか。

村松 ユーザーの著作権に対する意識は、かなり高まっていますね。寄付講座などで学生さんに「今、音楽アプリ、何を使っている?」と聞くと、ほとんどの人が正規の有料サービスを使ってくれているのが分かります。ただ、現状でも「違法アプリ」の存在は看過できないので、そこへの対策はさらに強化していこうと思っています。

 僕は個人的に、音楽はほかのエンタテインメントコンテンツに比べると特異性があると思っているんです。映画にしても、小説、ゲームにしても、楽しんでいるときは、それに集中しなきゃいけない。一方、音楽は、別のことをしながらでも楽しめます。だからといって、存在が軽いわけではありません。例えば、人生を振り返ったとき、節目節目の思い出とともに、必ずそのときに流れていたり聴いていた楽曲って、誰しもリマインドされると思うんですよね。それってやっぱり音楽の強さだと思います。

 僕はよく言うんですけど、音楽というのは、自分が主役の人生の、名脇役だと思うんです。もしその名脇役が突然いなくなったら、自分の人生って成り立たないに等しいんじゃないかと。だから、違法な手段で音楽を聴くのはやめてくださいと訴えたいのです。自らがそこに対して対価を払わないと、人生に寄り添う音楽というものが作られなくなるということを、ぜひ理解してほしいなと思います。

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