「東京ゲームショウ2022」(以下、TGS2022)に初出展したクラスター(東京・品川)。日本最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を運営するソフトウェア企業である同社が、TGSに合わせ、企業カラーをクールな水色系からポップな赤色に一新。新デザインを起用したブースで手軽さや親しみやすさを表現するとともに、協力企業とのコラボレーションによって、メタバースの可能性を示そうとしていた。前編に続き、代表取締役CEOの加藤直人氏と取締役COOの成田暁彦氏に、同社およびメタバース全体の今後の展望を聞いていく。

加藤直人氏、成田暁彦氏(写真/辺見真也)
(写真/辺見真也)
加藤直人(かとう・なおと、右)
クラスター代表取締役CEO
1988年生まれ。大阪府出身。2015年にクラスターを創業。17年、メタバースプラットフォーム「cluster」をリリース。経済紙『Forbes JAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。著書に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社)
成田暁彦(なりた・あきひこ、左)
クラスター取締役COO
1983年生まれ。神奈川県出身。サイバーエージェントでネット広告営業を経験後、子会社による新規事業立ち上げを担当。その後、CyberZで広告部門の営業統括および企画マーケティング部門、海外支社の責任者を兼務。2019年10月からクラスターに参画し、ビジネス、アライアンス、マーケティング全般を管掌。20年9月より取締役就任

 TGS2022のビジネスデイ初日にクラスターのブースで発表されたのは、『メタバース 黒ひげ危機一発』だ。『黒ひげ危機一発』はタカラトミーが1975年に発売して以来、これまでに87種類が発売された玩具で、2022年8月までに世界47の国と地域で累計1700万個が出荷されたロングセラー商品。タカラトミーと「cluster」がコラボレーションすることで、玩具をデジタル空間で楽しむ新たな体験を創出した。

 クラスターではTGS2022の出展に合わせて「cluster」にTGS特設ワールドを開設。ブースがメタバース上にも再現され、イベントなどが同時配信されたほか、『メタバース 黒ひげ危機一発』やアーケードゲームなどで遊べる場所が用意された。

 また、VR(仮想現実)やスマートフォンを使って体験ができるブースには長い列ができ、TGS2022の重要なキーワードでもあったメタバースへの関心の強さがうかがえた。注目が集まっていた様子をどのように見ていたのか。

写真はビジネスデイ1日目の様子。試遊ではメタバースを初めて体験し感銘を受ける企業担当者もいたという
写真はビジネスデイ1日目の様子。試遊ではメタバースを初めて体験し感銘を受ける企業担当者もいたという

加藤直人(以下、加藤) 多くの方がブースを楽しまれていたのは、すごくありがたいことです。メタバースが多くの人をひきつけているのは、自分の理想の世界や、妄想の世界がつくれるからだと思っています。個人のユーザーだけでなく、企業の方も含めて、メタバースの世界なら自分のアイデアを形にできるのではないかと感じているのでしょう。

 ただ、1社で新たなマーケットをつくるのは絶対に不可能です。いろいろな企業の方と一緒に取り組みながら、市場自体をつくっていくのがあるべき姿だと思っています。今回のブースでクラスターは面白そうだなと感じてもらって、これからコラボレーションや、いろいろな取り組みができればと思っています。

成田暁彦(以下、成田) ブースで体験した方のなかには、会社でメタバースをやらなければいけないけれど、何をすればいいのか分からず、しかもこれまで触ったことがなかった方がけっこう多かったですね。TGS2022に参加してよかったのは、ブースに並んでいただいたマーケターの方、ゲーム会社の方、それに一般の方にメタバースに触るきっかけを提供できたことです。

 実際に体験した方に楽しいと感じてもらえたのであれば、メタバースの手触り感を会社に持ち帰って、いろいろ検討していただけるきっかけになったのではないでしょうか。これからビジネスでの利用が加速するような手応えを感じています。

日本中、世界中の人が毎日使うサービスに

 TGS2022への出展記念として、「cluster」はゲームに限らず、さまざまなジャンルとコラボレーションした。

 まずは小説からアニメ、ゲームと展開している『ソードアート・オンライン』とのコラボレーション。キャラクターの衣装などを「cluster」で作成したアバターに着せることができる。実施期間は12月18日までとなっている。

 次にスポーツ。プロバスケットボールチームの「千葉ジェッツふなばし」とコラボレーションした。ユニホームをアバターに着せることや、バスケットボールなどのアイテムで遊ぶこともできる。

 さらに、アパレルブランドの「WIND AND SEA(ウィンダンシー)」ともコラボレーションしている。「cluster」内でブランドのアイコンである「SEA」をデザインしたコラボTシャツが無料配布され、アバターに着せることが可能になった。

「TGS2022」期間中には、幕張メッセの特設ブースと同じ仕様のワールドを「cluster」内に設置。「千葉ジェッツふなばし」のユニホームや「WIND AND SEA」のTシャツを着たアバターも見える。(c)2022 Cluster, Inc. All Rights Reserved.
「TGS2022」期間中には、幕張メッセの特設ブースと同じ仕様のワールドを「cluster」内に設置。「千葉ジェッツふなばし」のユニホームや「WIND AND SEA」のTシャツを着たアバターも見える。(c)2022 Cluster, Inc. All Rights Reserved.
「cluster」上で楽しめる『メタバース 黒ひげ危機一髪』も発表。加藤氏と、タカラトミー Moonshot事業部部長の山崎正彦氏が登壇した(写真/辺見真也)
「cluster」上で楽しめる『メタバース 黒ひげ危機一発』も発表。加藤氏と、タカラトミー Moonshot事業部部長の山崎正彦氏が登壇した(写真/辺見真也)

 いずれのコラボレーションも、初日の9月15日から始まり、会場のブースや特設ワールドでオリジナル3D映像も配信された。企業との取り組みを担当した成田氏は、今回の企画の意図を次のように説明する。

成田 TGS2022に出展したものの、クラスターはゲーム業界でのプレゼンスは皆無に近いと思っています。「cluster」のユーザーがたくさんいるからとか、ワールドがたくさんあるからとか、自社のサービスにあぐらをかくようなことは絶対にしないことをテーマにしていました。

 どのような切り口ならゲームのマーケットのなかで興味を持ってもらえるのかを、必死に模索しました。そこで目をつけたのは、自社のサービスにあるゲーム性が強い切り口です。その1つがアバターでした。アバターはさまざまなカルチャーを体現しやすく、アニメやマンガだけでなく、スポーツやファッションとも親和性があります。

 ただ成田氏は、アバターのコラボレーションだけを広げていきたいわけではないという。

成田 今後に関しては、引き続きコラボを広げていくよりは、公共性や公益性が高いサービスに取り組んでいきたいと思っています。「cluster」自体はクリエイターエコノミーを実現するサービスである前提で、熱量の高いコアなファン層の皆様には引き続き楽しんでいただきたいのですが、限定的な特定のコアなファンの方だけが入ってくるのではなく、幅広い層の人が、短い時間でもいいので毎日入って、人としゃべって楽しんでいくようなサービスを目指しています。その方向にマーケティングも振っていきます。

 そのために手段としてのコラボレーションをすることはあります。アバターだけでなく、ワールドクラフトで使えるパーツ、または単純なコラボイベントかもしれません。映画のイベントを「cluster」内で実施することも考えられます。いろいろと手を替え品を替えながら、幅広いユーザーに届くようなキャンペーンやイベントを実施して、日本中、世界中の人が使ってくれるサービスに成長したいですね。

経済圏を備えた生活の場として進化へ

 クラスターにとって、TGS2022への出展が大きなターニングポイントになったことは間違いない。それでも今後について話を聞くと、クラスターの軸がぶれることはなかった。

 「cluster」のサービスは、もともと加藤氏が3年間引きこもり生活を送った経験から、家から出なくても生活できる場として着想された。経済圏を備えた生活の場として、今後も進化を目指していく。

加藤 今後さらに進めたいことは、長期的に考えれば、いくらでもあります。ただ、今回のTGS2022を皮切りにする点では、やはりクリエイターのエコシステムをつくっていくことが最も大事です。

 メタバースの世界は、システムとしては1週間や2週間でつくれるものではありません。いろいろなテクノロジーやファンクションが重ね合わさって出来上がっていくもので、最終的に生活に欠かせなくなるような大きな構造物です。

 デジタルアイテムを売買できるワールドクラフトストアの開設によって、経済圏のインフラとしての第一歩ができました。「cluster」の中でクリエイターが物を生み出し、流通が発生する。アイテムが売れることで、感謝の気持ちやささやかな幸せが生まれます。小さな喜びが巡っている状況をしっかりつくって、その火をたきつけて、広げていきたいと思っています。

成田 今、業界にはビジネス・メタバース・エバンジェリストがたくさんいると思っています。もうかるからとか、ビジネスとして成功するからといって、後天的にメタバースを世に広げたいと考えて動いている人が多いのではないでしょうか。

 おそらく、メタバースのマーケットのなかで、ナチュラルボーン・エバンジェリストといえるのは、加藤しかいないと思います。引きこもりの原体験からビジネスを生み、しかも、そもそもビジネスではないことを掲げているのが加藤の魅力です。

 だからこそ僕みたいなビジネスライクな人間が、普通なら10年かかることを3年、または5年でたどり着くように力を発揮したり、仲間を集めたりする必要があります。加藤が実現しようとしていることをくんで、最短で最大のインパクトを出していきたいですね。

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