2022年7月期ドラマの話題作として注目を集めている、TBS系日曜劇場の『オールドルーキー』。前編に続き、ドラマでメタバースを活用する狙いを、TBSテレビ編成局の東仲恵吾氏とTBSホールディングス・バーチャルエンタメ推進プロジェクトの西川直樹氏に聞いていく。
短期間でクオリティーの高い空間を再現
――メタバース空間で実際にセットの再現に取りかかったのは、前述したように今年4月 以降だった。わずか3カ月という短期間でどのように作り上げていったのかを、東仲氏と西川氏は次のように振り返る。
東仲恵吾氏(以下、東仲) クラスターの方々に実際のセットをくまなく見ていただいて、かなりの数の写真を撮っていただきました。綿密に打ち合わせをしながら進めたことで、再現度合いは100%に近いものになっています。
テーブルの上に置いているPC以外のものや、ラックに置いている資料などは、メタバース空間ではなくてもいいのではとご提案いただいて、省いたものもあります。逆に細かい部分では、スポーツ選手の写真パネルや、会社のイメージキャラクターの「ビクとり君」などは、ほぼ完全に再現していただきました。
西川直樹氏(以下、西川) メタバース空間の基本的な設計は、クラスターさんの標準のルールに従いました。1画面で表示する人数は、空間のサイズに合わせて気持ちよく見ることができて、アバターが動いているのが分かる表現にするために調節をしています。クラスタ―さんには専門のディレクターがいるので、どの見え方が一番良いのかなど企画に合わせて話し合いを重ねて、一緒に作り上げていきました。
せっかくの日曜劇場とのコラボレーションですので、できるだけ多くの人に来ていただいて、楽しんでいただきたいですね。
――一方で、初めての取り組みならではの苦労もあった。西川氏は、社内での役割分担に時間がかかったと話す。
西川 メタバースは社内でも新しい概念ですので、どの部門が公式に進めていくのかといった整理に時間がかかりました。クラスターさんとの打ち合わせや、技術的にどこまでできるのかのすり合わせは、私を含む社内の横断プロジェクトが中心となってある程度整理しました。
ドラマのチームのみなさんには、メタバース空間を実際に面白い体験にするためにどうすればいいかについてリードしていただきました。役割分担ができてからは、各部署が足並みをそろえてスピーディーに進めることができたと思います。
――東仲氏は時間がなかったことに苦労しながらも、今後のドラマでのメタバース活用に可能性が広がったと感じている。
東仲 実質的な作業のスタートが遅かったことと、新しい取り組みだったこともあり、本当はもっといろいろな試みをして、もっと再現ができたらよかったといった反省点は少しあります。
ただ、メタバース空間の活用は始まったばかりです。今回初めてドラマのセットを再現して、こんなにすごいことができるんだと実感しました。今後への期待は大きいですね。
セットでは不可能だった聖地巡礼を実現
――『オールドルーキー』のメタバース空間はまだオープンしたばかり。訪れた人にどのような体験をしてもらいたいかを2人に聞くと、次のような答えが返ってきた。
西川 ドラマや映画の楽しみ方として、聖地巡礼がありますよね。ロケ地が公開されていればその場所を訪れて写真を撮ることができます。しかし、セットに関してはこれまで誰も入ることはできませんでした。
セットをメタバース空間で再現することで、絶対に入れなかったセットで記念撮影やコミュニケーションが可能になるのは、メタバースの施策をする大きな意味の一つだと思っています。
それに、ただ入るだけでなく、コメントを投稿していただいて、それがドラマに反映されるのも、メタバースならではの取り組みだと思っています。自分のコメントがドラマに出てくるかもしれない仕掛けを、ぜひ楽しんでいただきたいですね。
東仲 ドラマのセットは通常なら撮影が終わるとすぐに壊すので、今までずっともったいないなと思っていました。それがデジタル空間の中で生き続けて、しかもこれだけの再現性が実現できたのは、単純に作り手として感動しています。みなさんにも楽しんでもらえると思いますので、この場所で好き放題に遊んでいってもらえればと思っています。
――セットを再現して、ユーザー同士や出演者とコミュニケーションができる今回の取り組みは、画期的であると同時に、ドラマとメタバース空間が融合した最初の一歩でもある。TBSでは今回の取り組みを皮切りに、今後のドラマでさらに進化した取り組みを増やしていく考えだ。