日本最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を運営するクラスター(@cluster_jp)には、企業から年間1000件以上の問い合わせが殺到している。仮想空間での大規模イベントから音楽ライブなどのエンタテインメント関連、さらには新規事業への活用まで、その用途は幅広い。 ただ、メタバースに興味を持っていても、どのような活用ができるのか分からない企業もまだまだ多いのではないだろうか。初回はクラスター代表取締役CEOの加藤直人氏(@c_c_kato)にメタバースの可能性などについて聞いた。今回から、実際のメタバースイベントの舞台裏=ケーススタディーを紹介していく。

4月4日に行われた、クラスター制作によるPwCのメタバース入社式。クラスターが作った式典会場(ワールド)にイベント当日、MCなど実際の映像をリアルタイムではめ込んでいく。写真/藤本和史 (C)2022 PwC. All rights reserved.
4月4日に行われた、クラスター制作によるPwCのメタバース入社式。クラスターが作った式典会場(ワールド)にイベント当日、MCなど実際の映像をリアルタイムではめ込んでいく(写真/藤本和史) (C)2022 PwC. All rights reserved.
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 先頭バッターとして登場するのが、クラスターでメタバース空間の企画と制作を担当している主力プランナーの佐野優人氏。連載第2回・前編では、大企業をクライアントとして持つ彼に、「メタバースで何ができるのか」を聞いた。

佐野優人(さの・ゆうと)
クラスター株式会社ビジネスプランニング部プランナー
大学在学時よりインターンとしてクラスターで就業し、VTuber向けイベントの企画やディレクションを担当した後、新卒入社。入社式や採用イベントなどBtoB事例からスマホゲームのプロモーションイベントなど幅広く担当。常に明るく誰よりもお客様のためになるプランナーを目指して邁進中。(写真/藤本和史)

「メタバース・プランナー」はクライアントの代弁者

――今、最も注目されているキーワードの「メタバース」。簡単に言うと「人々がアバター姿で生活する仮想空間」のことだ。日本でメタバースをけん引しているクラスターは、日本最大級のプラットフォーム「cluster」を運営するとともに、オーダーメードでメタバース空間の企画・制作やイベントの開催に取り組んでいる。

 メタバース空間を企画するプランナーで、BtoB事業を主に担当しているのが佐野優人氏だ。佐野氏は自らの役割と、空間制作のプロセスを次のように説明する。

佐野 社内の複数いる「プランナー」が、それぞれの得意分野や強みを生かして、BtoB担当、エンタテインメント担当、新規担当など大まかに割り振られたそれぞれの案件を担当し、それぞれが立案から実施、振り返りまでを総合的に担います。

 プランナーの仕事はクライアントの代弁者のようなイメージですね。クライアントとともに企画を考えて、目的や要望を社内のディレクターやCGデザイナー、エンジニアらに伝えて、空間を作り上げていきます。

 平均的な制作期間は、オーダーを受けてから1.5カ月から4カ月くらいです。これは規模によって違います。工程の流れは企画、制作、クオリティ・アシュアランス(品質保証)、リハーサル、本番の順です。最も時間をかけるのは企画と制作で、全体の8割ほどを占めています。最大の強みは、ハイクオリティーなメタバース空間を作ることができる、制作チームの技術力ですね。

プラットフォーム開発に魅力を感じた

――佐野氏は2021年4月に新卒でクラスターに入社。大学生の時は複数の企業でインターンを経験し、3年生の秋から勤務したクラスターにそのまま入った。入社の動機は、「新しい領域でグローバルを見据え、“本気”でサービスを作っている」からだという。

佐野 学生時代からスタートアップやベンチャーに興味があって、これから伸びていく業種のベンチャーで働きたいと考えていました。クラスターに入る前は、VTuberの事務所運営を行う会社でインターンをしていました。メタバースとの関係で言えば、アバターのキャラクターですね。その会社で新規事業の立ち上げを経験しました。その後、新しい挑戦・経験をしたいなと思い、もともと興味のあったエンタメ領域でプラットフォームを自社で開発している点に魅力を感じました。当時はまだメタバースという言葉はメジャーではなかったですが、新しい領域でプラットフォームをゼロから作り、グロースさせたり、売り上げを作っていくってどんな感じだろう、楽しそうだなと漠然と考えていたような気がします。

 新卒で入社する際はクラスターだけでなく、IT企業やメガベンチャーといわれるような企業も何社か受けました。それからクラスターと縁が出来ました。入社した決め手はメタバースが業界としても伸びていて、そのなかでもクラスターが順調に成長していたこと。それにインターンで入社する際も注視していましたが、改めてクラスターがグローバルに打って出る方針を明確に持っていたことですね。さらに、当時の社員は30人くらいでしたので、自分の成果や成長が会社の貢献につながる手応えがありました。どうせなら精一杯働けて、大きなことができそうな会社に若い時代を賭けたいと思いました。

 もちろんベンチャーですから、うまくいくかどうかは分かりません。それでも不安がなかったのは、「加速」「チャレンジ」「リスペクト」の3つのバリューや、クラスターが大切にするカルチャーが明文化されていたからです。例えば、「一番初めに手を挙げる勇敢な人になろう」「日本に留まらず世界を目指し、全人類を巻き込もう」といった、カルチャーがあります。

「バーチャル渋谷」以降、クライアントの要望に変化

――メタバース空間を活用したい企業や官公庁からの問い合わせは年々増えていて、この1年間では1000件以上寄せられた。メタバースの世界的なブームは、VTuberの登場から新型コロナウイルス感染拡大による仮想空間利用の活発化、それに2021年10月に米Facebookが社名をメタ(Meta)に変更したことで盛り上がってきた。

 その一方で、クラスターも自社でブームを起こしている。その1つが「cluster」上に制作された渋谷区公認のバーチャルイベントプラットフォーム「バーチャル渋谷」。2021年10月に「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス2021」が期間限定で開催され、「劇場版ソードアート・オンライン-プログレッシブ-星なき夜のアリアVIRTUAL MEETING in バーチャル渋谷」では大勢の人がアバター姿で会場に集まり、大きな話題を呼んだ。佐野氏は「バーチャル渋谷」によって問い合わせの量も内容も変わってきたと説明する。

メタバースの象徴となった「バーチャル渋谷」。渋谷区役所の依頼のもと、KDDIの提供で20年5月にローンチ。「cluster」のアプリからスマートフォン、パソコン、VRゴーグルなどで体感できる。(C)KDDI・au 5G / 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト
メタバースの象徴となった「バーチャル渋谷」。渋谷区役所の依頼のもと、KDDIの提供で20年5月にローンチ。「cluster」のアプリからスマートフォン、パソコン、VRゴーグルなどで体感できる。(C)KDDI・au 5G / 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

佐野 「バーチャル渋谷」以降、いろいろなところから問い合わせをいただくようになりました。多くのメディアに取り上げられたことで、メタバースがマスに広がっていった感覚があります。

 面白いのは、問い合わせの内容が変わってきたことですね。それまではリアルのイベントがコロナ禍で開けないので、メタバースで代替したいという要望が中心でした。それが「バーチャル渋谷」後は、単発のイベントだけでなく、メタバースを活用した新規事業をしたいとか、成長戦略にメタバースを取り込みたいといった中長期的な相談内容が増えてきました。

 その要望に答えられるのは、メタバースはリアルに比べて物理的な制約がなく、できることがはるかに多いからです。バーチャル空間で何をするのかは自由です。リアルでまだできていないことを、メタバース上で試したいといったクライアントもいます。私が担当しているBtoBのビジネスは、かなり可能性があると思っています。

――特にBtoB事業では、採用活動に「cluster」のプラットフォームを活用する企業が増えているという。

佐野 イベントスペースを作って合同企業説明会を開催するケースもあれば、単一の企業の空間を作って採用を行うケースもあります。メタバースを活用した採用活動には、大きく3つのメリットが考えられます。

 1つ目は、学生はオンラインのメタバース空間に集まればいいので、移動するコストがかからず、地方にいても参加できること。

 2つ目は、学生がアバターになると、リアクションが活発化することです。エモーション機能を使った拍手やコメントによる反応は分かりやすく、企業の人事担当者からは効果を感じていると聞いています。

4月4日に行われたPwCジャパンの入社式では、メタバース上の会場に集められた新入社員に聞きたいことをアンケート。即集計結果を表示し、社員がその場で答えるといった趣向も。また、事業について語る先輩の話に新入社員のアバターが拍手をし、それを見た社員が微笑むといった光景も見られるなど、双方向のやり取りは非常にスムース(写真/藤本和史)  (C)2022 PwC. All rights reserved.
4月4日に行われたPwCジャパンの入社式では、メタバース上の会場に集められた新入社員に聞きたいことをアンケート。即集計結果を表示し、社員がその場で答えるといった趣向も。また、事業について語る先輩の話に新入社員のアバターが拍手をし、それを見た社員が微笑むといった光景も見られるなど、双方向のやり取りは非常にスムース(写真/藤本和史) (C)2022 PwC. All rights reserved.

佐野 3つ目はログが取れることです。「cluster」の中での行動は全てデータとして蓄積されています。出欠の確認や、滞在時間なども分かるので、よりよいものにするために、短いサイクルでブラッシュアップができます。採用活動では、メタバースの活用がこれからもっと増えていくのではないでしょうか。

ユーザーが稼げて、生活が豊かになる空間に

――「バーチャル渋谷」では、ポップアップストアが立ち上がって、メタバース空間でのショッピングを体験できた。イベントによっては、限定のグッズやアバターを販売しているケースもある。佐野氏は「メタバースならまだまだ面白いことができる」と話す。

佐野 メタバース上でのショッピングは、今後も増えていくでしょう。テレビ局の番組を放送することや、スポーツ観戦を楽しむことも可能です。個人的にはサッカーが好きなので、いつかワールドカップがメタバース上で観戦できればと思っています。

 これまでのフェーズはイベントを受託して、制作して納品することが中心でしたが、次のフェーズとしてクライアントと一緒に事業を作っていく段階に入りつつあります。「cluster」を使って企業やユーザーが稼げる仕組みなどを作りながら、人々の生活が豊かになることに取り組んでいきたいですね。

 「cluster」のプラットフォームの可能性には、熱い視線を送っている企業も少なくない。その中で企業活動の様々な場面で活用しているのが、プロフェッショナルファームのPwC Japanグループだ。後編では、佐野氏がプランナーとして担当している、PwCの「cluster」活用の現場に潜入する。

(後編につづく)

田中圭太郎(たなか・けいたろう)
ジャーナリスト、ライター
大分県出身。1997年早稲田大学第一文学部卒。同年、大分放送入社。報道部15年、東京支社4年の勤務を経て2016年からフリーランス 。雑誌・Webで教育、ビジネス、社会問題、大相撲など幅広いジャンルで執筆。著書『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)

(文/田中圭太郎)

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