今、最も注目のキーワード「メタバース」。「バーチャル渋谷」などで有名な日本最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を運営する会社であるクラスターの代表取締役CEO(最高経営責任者)加藤直人氏と、その事業の“現場”を取材。メタバースの具体と可能性を現在進行形で、誰にでも分かる形で、連載で紹介していく。連載初回の加藤氏インタビュー後編では、加藤氏に実際の「ビジネス」と「経済活動」、そして「日本人だからこそのメタバースでの強みと可能性」について語ってもらった。

メタバース上の「1次産業」「2次産業」「3次産業」とは

――世界に広がるメタバース市場で日本が優位に立てると考える加藤氏。VRヘッドセットMeta Quest 2などにより、五感のうち視覚と聴覚の体感は実現され、嗅覚も実証実験が進むなか、実際の「ビジネス」「経済活動」はどのように動いていくのか。

加藤 クラスター社では現状、メインの収益源は法人向けのB to B事業で、主にバーチャルイベントを手掛けています。その具体的な内容は、この連載のなかで紹介していけたらと考えていますが、エンタープライズ(法人)に加え、次からは個人の時代になっていくと考えています。

 バーチャルにおいては、大企業はもちろん、個人、または中小企業も大きな仕掛けができる、これもメタバースの特徴の1つです。クリエーターを思う存分活用して様々なイベントや物販、海外進出までをも実現する。クラスター社としては、企業から個人レベルまで大きくお金が回るシステム作りをしていこうと考えています。

 『メタバース さよならアトムの時代』(集英社)のなかで紹介していますが、リアルの世界での第1次産業はご飯に直結する農業やエネルギーの材料となる鉱物発掘など、第2次産業はそれらを加工、第3次産業は無形のサービス…記事や書籍といった産業分類がありますよね。こういったリアルの産業形態にあたるものが、メタバース空間内にも適用できると考えています。

 メタバースには、質量は存在しません。となると第1次産業はアバターや空間上に置かれる家具や小物、空間そのものなど「3DCGで作られるもの」。第2次産業は、1次産業で作られた形あるものを加工したり届けたりする。そして第3次産業はサービス。例えばバーチャル空間で占いをしたり、トラベルや教育といった産業が発展していく――クラスターは産業が起こるためのインフラの部分を担い、お金をいかに滑らかに巡らせるか、「バーチャル空間ビジネスをしよう」という方が価値を作るためのサポートをしていこうと考えています。

 今のところバーチャル空間内で生活している人向けのビジネスでは、そこまでお金が大きく巡っていない。世界的には、例えばNFTと連携してバーチャル上の土地に何億円という価格が付くといった事例があり話題になっていますが、現段階では投機的な意味合いが強く、実用的な価値を無視して話題先行で売れてしまっている状況です。まだメタバースでお金をしっかり動かす仕組みがない。そんななかで、クラスターとしてはその仕組みを提供し、ここからの数年間で、稼げる事業者、稼げる個人を生み出していければと。

 そのきっかけを――メタバース上でどんなビジネスが実際にあるのか、エンタープライズから官公庁、そして個人に至るまで、この連載では、「メタバースの作り方」、その“具体”、様々なケーススタディーを現在進行形で見せていく初の試みとなります。

メタバースビジネスで日本はどんなポジションを築けるのか

――4月以降、本連載で紹介予定のPwC Japanのメタバース上による500人もの入社式に始まり、たくさんのイベントを手掛けるクラスター。前出以外にも、プロ野球などスポーツ、音楽ライブやアニメ関連、人気VTuberを起用したライブイベントも開催。年間に1000件を超えるイベント依頼や問い合わせが来ており、それらを4人のプランナーを核に、現場ディレクター、CGデザイナーなど社内の様々なジャンルのスタッフたちによって進行していっているという。クラスターとして注目の、また注力していくテーマやトピックとは。

加藤 初めての海外案件が控えているなど、「グローバル」が今年の大きなテーマです。あとは「経済活動」。ただただイベントに参加して楽しいだけではない、きちんとお金が巡るもの。この2つが、今年のクラスター社の2大トピックとなります。

 グローバルに関しては、今年後半、まだ詳細は発表できないのですが、ある日本発のIPの大型イベントを北米で行う予定です。

 メタバースのいいところは、国にも土地にも縛られないところ。日本にいながらメタバース上で本格的な海外展開ができる、その大きな1本になればと思います。

 ただ、難しい面もいっぱいあります。例えば言語。バーチャル上で日本語圏と外国語圏の人が入ってくるわけで、どうやってシームレスな体験にするか。デジタル空間上なので、システム的に言語の壁を下げる仕組みを作るのも考えられますし、今年の課題の1つですね。

 単にインターネットが拡張した、メタバースが普及したで終わってはもったいない。それだけでなく、日本発で、日本がメタバースのビジネスでどういったポジション取りができるかが重要です。それには企業はもちろん、国家戦略的にも考えていかなければならず、個人的にはそこに一番興味があります

 日本の一番の強みである「妄想力」によるIP――東京オリンピックの入場行進も『ドラゴンクエスト』でしたが、かつてクールジャパンといわれていたマンガ、ゲーム、アニメのIPという日本が誇る資産を、メタバースによって海外に輸出し、話題になってしっかり外貨が落ちるように、海外のユーザーに時間を使っていただき、日本に呼び寄せることができるようにすること。これはすごく大きなトピックだと思っています。

企業によるカンファレンスから仲間内でのお花見まで、メタバースではありとあらゆるイベントを行うことができる。(C)Cluster, Inc.
企業によるカンファレンスから仲間内でのお花見まで、メタバースではありとあらゆるイベントを行うことができる。(C)Cluster, Inc.
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 コロナ禍によって、ここ1~2年、国としてのインバウンド施策がちょっと厳しくなってった今、日本の妄想力、IPをメタバースで生かすことこそ最強のインバウンド施策になるのではないか。前述した北米イベントが、その布石になればと思っています。

 メタバース全体の普及については、今年3月に発足され(パナソニックやKDDIの役員・社員らも名を連ねる)一般社団法人メタバースジャパンのアドバイザーにも名を連ねています。

 業界各所からのメタバースに対する期待も強く感じているので、ロビー活動を適切に行い、様々な人がバーチャル空間で生活するために整備しなければならない法律や仕組みを議論して、しっかりプッシュしていければと考えています。

 また、メタバース系の企業がもっと日本に増えてほしいとも思っています。日本全体でマーケットが盛り上がらなければ、1社で戦っていても小さな動きで終わってしまう。いろんな会社が参入すればいいなと。

メタバースをひっぱるのはやっぱり若い世代

――最後に、加藤氏が今後、注力していきたいポイントとは。

加藤 その観点で言うと個人的には、「3Dにおけるクリエーティブ」「ヤング=若さ」の2つになります。

 まず、メタバースによって、クリエーティビティーの幅が各段に広がります

 メタバースのいいところは、質量がない世界であるがゆえに、現実世界では作るのが大変なものも作れるようになるということ。メタバース上の自身となる「アバター」から、みんなが集うカフェやライブ、今だったら幻想的な桜の風景といった「ワールド」、テーブルや椅子、バーベキューの骨付き肉といった家具や小物まで、現実と比較して圧倒的な手軽さで作れてしまいます。

 昨今DIYがはやっていますが、ものを作る、道具を生み出すというのは、人間が人間たるゆえん、ホモサピエンスと他の生物との違いなんですね。作ることのコストがどんどん下がっている。クリエーティビティーを発揮し、妄想を形にすることができる、そしてお金を稼げる、経済圏を構築できるというのがメタバースの良さです。最近クラスターでも専門知識なくバーチャル空間を作れる「ワールドクラフト」をリリースしましたが、こういった作るコストを下げる取り組みが重要になってくるかなと。

 もう1つの注力点は「ヤング」。デジタル空間内で違和感なく生活できるのは、やはりゲーム的カルチャー、UI/UX(ユーザー・インターフェース/ユーザー・エクスペリエンス)に親しんだ世代で、10代20代~30代がけん引者になると思っています。例えば、日本は政治離れや若者の無力感が言われて久しいですが、これは世代感というより、絶対的な人数、少なさに起因した問題なんですね。メタバース上でこそ、“若さ”をアドバンテージとして使っていって、様々なものを生み出していってほしいと考えています。一方で上の世代の方々も、もちろん同様に、また、波は感じていただいていると思うので、若い人たちに交ざって、「こういった世界の流れがあるんだ」と興味を持ってもらえたら。

 メタバースの到来は、インターネットが到来したときと同じです。好奇心のままに飛びつけた人が、未来においてより多くの恩恵を享受できるはず。その入門書として僕は書籍を書き、その広がりをクラスターの事業で切り開き、その現在進行形の事例、メタバースで何ができるのかといった“具体”を、この連載で紹介していければと考えています。

加藤直人(かとう・なおと)
1988年生まれ、大阪府出身。京都大学理学部で宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院中退後3年間引きこもり、2015年にクラスターを起業。17年、メタバースプラットフォーム「cluster」をリリース。経済誌『Forbes JAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。著書に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社/2022年)
『メタバース さよならアトムの時代』(集英社)。4月5日の発売日前日、加藤氏は『WBS(ワールドビジネスサテライト)』(テレ東系)、『報道ランナー』(関西テレビ)に出演。書籍はAmazonで当初想定していた数を大幅に超える予約があり、注目度の高さがうかがえる
『メタバース さよならアトムの時代』(集英社)。4月5日の発売日前日、加藤氏は『WBS(ワールドビジネスサテライト)』(テレ東系)、『報道ランナー』(関西テレビ)に出演。書籍はAmazonで当初想定していた数を大幅に超える予約があり、注目度の高さがうかがえる