※日経エンタテインメント! 2023年4月号の記事を再構成

注目のバーチャルタレントに、ニッポン放送の吉田尚記アナと一心同体の“バーチャル部下”である一翔剣アナが聞く連載。今回のゲストは、2021年に開催されたサンリオ初のバーチャル音楽フェス/メタバースイベント「SANRIO Virtual Fesin Sanrio Puroland」で注目されたバーチャルクリエーターのキヌさん。メタバース上などで、仮想現実(VR)空間を制作し、そこで映像、音楽、ポエトリーリーディングなどを組み合わせ、視聴者はVRゴーグルで楽しむ、というライブパフォーマンスで注目を集めています。

キヌ
2018年7月12日、個人勢のVTuberとして活動を開始。19年VR音楽イベント「第2回アルテマ音楽祭」にて、1stライブ「Eternal line」を実施。21年サンリオ初の公式バーチャルイベント「SANRIO Virtual FES」で披露した『バーチャルYouTuberのいのち』のライブパフォーマンスが話題に

――本格的にVR世界へ足を踏み入れたのはいつ頃ですか?

キヌ 19年の初めの頃、VRChat(注1)に入るようになりました。VR世界に入る前、VRイベント「アルテマ音楽祭」の前身にあたるイベントで見た、VR空間で楽器を弾く「らくとあいす」さんのパフォーマンスに感銘を受けたのが1つのきっかけです。ほかにも、「なみた」さんや「YORIMIYA」さんが提唱していた「パーティクルライブ」や、VRChat上のクラブのような空間である「GHOSTCLUB」などの存在を知り、大きな期待のもとVR世界に入ったんです。

――実際にVR世界へ入ってみて、何を感じましたか?

キヌ 期待のハードルをやすやすと越えるくらい、見るものすべてがすごくて、とにかく夢中になって遊びましたね。自分自身がクリエーティブする上でも、この世界で見てきたもの、受け取ったもの、好きなもの、そのすべてを詰め合わせて表現していきたいという思いがあって。この世界をもっと知ってほしい。「こっちにおいでよ」というつもりで作ったのが、「SANRIO Virtual Fes」のパフォーマンスです。結果的にみなさんにも楽しんでもらえました。

――そもそもフェスに出たのにはどんなキッカケが?

キヌ VRChat上で出会い、仲良くしていただいていた総合演出の篠田(利隆)さんに、「キヌさんがライブをやったら面白いと思うんです」と相談を受けまして。どんな形でパフォーマンスができるか想像もしていなかったけど、相談しながら面白いことを考えてみようと参加を決めました。

ぜひVRを体験してほしい

――そこで自然とアイデアが湧いてVR空間を作れるのはすごい。

キヌ 普段の生活でも、音楽を聴いていると、自分がミュージックビデオの主人公の気持ちになることってありませんか? 通りかかった車が演出のように感じるとか。音楽自体に拡張現実(AR)的な側面があると思っていて、音楽を聴いているだけで見えてくる世界がある。音楽と世界が連動していることって、とても自然なことだと思うんです。なので、スムーズに作ることができました。もちろんそれまでに培ってきた曲作りなどの経験もあるとは思いますが。

――空間作りの才能を生かせる場というのは限定的でしたけど、VRがその間口を広げましたよね。

キヌ その通りで、VRが現れるまでは、音楽が空間、空間が音楽に合わせて様相を変化させられる場所ってテーマパークやインスタレーションくらいしかなくて。だから、それをやれるだけのポジションにいる人しか空間を作れませんでした。それを広げてくれたのがVRで、Unity(注2)さえ使うことができれば、誰でも空間を作れるようになりました。その結果、本来見つかるべきクリエーターたちがちゃんと見つかるようになった。ちょうど今、「ぽんぽこ」さんと「ピーナッツくん」がVR上でテーマパークを作っているのも分かりやすい例ですね。才能を持つ人が解き放たれて暴れ回っている状態なので、今のVR世界はめちゃくちゃ面白いですよ。

――今後VR世界に期待していることはありますか?

キヌ これからの時代、例えばリアルライブを体験したことはないけどバーチャルライブには通っているような“バーチャルネーティブ世代”が出てくると思います。リアルライブエンタメを当たり前と思ってきた世代には全く想像がつかないライブを作ってくれると思うので、楽しみですね。

――そういう意味でも、みんな早くVR世界に来てほしいですよね。

キヌ 来てほしいですね。とはいえ、何事も新しい世界に入るのはすごく大変じゃないですか。VRゴーグルを購入してメタバースを体験することは、ゲームを始めるような気軽な感覚と違って、全く知らない世界に踏み入れるようなものだと思います。多くの場合は1歩踏み出すのにすごく勇気がいる。だからこそ、楽しい世界だとすでに気づいている人たちが伝えていく必要があると思います。

――「ここは楽しい世界だよ」と伝え続けていくことが大切だと。

キヌ はい。私は18年にVR世界の盛り上がりを見て、19年にVR世界に入って想像以上の楽しさを感じて。その楽しさが更新され続けています。ずっと楽しい世界というのは本当にすごいことだと思うんですよ。だから、人にVR世界を伝える上では、「なんで来ないの?」「遅れているんじゃないの?」ではなく、「楽しいからおいで!」と伝えていきたい。そして、来てもらうからには、来た人に楽しんでもらえる世界にしておきたいと考えています。

――最後に、VR世界へ入った方へオススメのクリエーター、空間を教えてください。

キヌ たくさんいますが、今年は「三日坊主」さん、「ねむり木」さんに注目しています。VR空間は『Nakayoku Connect』のバーチャルピューロランド、ファッションブランド「chloma」のバーチャルストアにぜひ来てみてください。


(注1)VRChat…米VRChatが運営するメタバース上でアバターを通じてコミュニケーションがとれるプラットフォーム
(注2)Unity…米ユニティが提供するゲーム開発エンジン。VR向けに3Dのコンテンツも開発できる
一翔剣(いっしょう・けん)
ニッポン放送アナウンサー吉田尚記と声と経験を全て共有する「部下」。毎週日曜23時30分から放送中のメタバースラジオ『ミューコミVR』パーソナリティー。「上司の吉田アナウンサーはバーチャルと真逆、マレーシアの狩猟採集民に熱帯雨林で出会って帰ってきまして、この体験を何らかの形にするべく画策中」
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