Z世代ヒット予測2022 第7回

簡単な質問に答えるだけで、個々人に似合う色やファッションを提示するパーソナルカラー診断や骨格診断が、“自分らしさ”を重視するZ世代の間で人気だ。そうした中、彼ら、彼女らの間で話題になっているのが、自分好みのワインが簡単に見つかる「パーソナライズワイン診断」だ。大人への憧れの代名詞でもあるワインのハードルをぐっと下げたワインショップ&バーは連日、20代の若者たちで盛り上がっている。

パーソナライズワイン診断を行うwine@EBISUの店内。左手がワインセラーになっている
パーソナライズワイン診断を行うwine@EBISUの店内。左手がワインセラーになっている

 東京・恵比寿駅から徒歩数分のビル3階にその店はある。2022年2月14日にオープンした、ブロードエッジ・ウェアリンク(東京・渋谷)が運営する「wine@EBISU(ワインアット エビス)」だ。

 木の椅子やテーブルを使い、広いスペースのワインセラーも併設されている。だが、この店はカジュアルな雰囲気の単なるワインショップ&バーではない。誰でも自分にぴったりのワインが手軽に見つけられる、独自の「パーソナライズワイン診断」を取り入れた“発見型店舗”なのだ。

 従来、ワインを提供するバーやレストランでは、ソムリエが接客を通して「どんな味が好みか」見当を付けるのが一般的だった。だが、初心者はここで面食らう。適切な言葉が浮かばず、苦し紛れに「あまり酸っぱくないもの」「甘めのもの」などと曖昧に答えたり、「お薦めは?」などと逆に聞いたりするのが関の山だ。特に飲酒経験の浅い20代の若者は、ワインへの憧れがあるものの、このソムリエとのやり取りにハードルの高さを感じる人が少なくない。

 一方、ソムリエにとっても初心者の好みのワインを選び当てるのは、実は至難の業だ。「甘め」といってもそのレベルは個々で異なり、飲む人の想定とずれることも多々あるからだ。あるいは、飲み慣れた大人に薦められたワインが、あまりにも重かったり渋かったりして、口に合わないこともある。そもそも、初心者(若者)にとってワイン通の人に未知の専門用語を並べられる時間は苦痛だろう。こうした様々な要因が、本格的なワイン体験から若者を遠ざけている。

15問の設問に答えるだけで好みのワインを判定

 そうした種々のハードルの全てを払拭するのが、パーソナライズワイン診断だ。仕組みはこうだ。

 まず、スマートフォンを用い、同店がウェブ上で提供する「wine@ KARTE」で15の設問に答える。診断は、白ワイン、赤ワインの好みや、好きな香りを選択する設問からスタート。特徴的なのは、その後に現れる「しいたけの煮物」と「卵焼き」、「酢の物」と「ごまあえ」、「肉じゃが」と「クリームシチュー」などの2択で料理の好みを聞く設問だ。これらの設問はワインに精通する複数のプロのソムリエが監修して作られている。

 「選択した料理や素材によって、塩味や酸味、苦味、香り、熟成感の好みが分かる設計。それらの回答を複合し、独自のアルゴリズムで最終的にワインの好みの傾向が判定される仕掛けになっている」と、ブロードエッジ・ウェアリンク取締役の橋本拓也氏は話す。

店内では最初にスマホからwine@KARTEにアクセスして、ワイン診断を行う。店を訪れる前に診断しておくこともできる。最初は白、赤のワインの好みを問う設問から。これは主に初心者向けの「標準モード」の設問で、具体的な好みの産地などを問う「上級者モード」もある
店内では最初にスマホからwine@KARTEにアクセスして、ワイン診断を行う。店を訪れる前に診断しておくこともできる。最初は白、赤のワインの好みを問う設問から。これは主に初心者向けの「標準モード」の設問で、具体的な好みの産地などを問う「上級者モード」もある
設問は全部で15問。好みのワインの味と香りを聞いた後は、2択で好きな料理を選ぶ設問が続く。独自のアルゴリズムで全ての回答を複合的に解析し、好みのワインの系統を割り出す
設問は全部で15問。好みのワインの味と香りを聞いた後は、2択で好きな料理を選ぶ設問が続く。独自のアルゴリズムで全ての回答を複合的に解析し、好みのワインの系統を割り出す

 実際に、筆者もトライしてみた。設問は全て直感的に答えることができ、サクサクと進められ、1~2分程度で終わった。最後に自分のニックネームを決め、メールアドレスとパスワードを入力して「登録する」のボタンを押すとマイページが生成され、そこに好みのワインが自動的に示された。

 その提示方法が実に秀逸だ。同社はワインの味わいの系統を白13種、赤13種、ロゼ4種、スパークリング8種にカテゴリー分けし、番号を付けて管理している。例えば、赤ワインであれば、「1番(R01):軽やかチャーミング系」「2番(R02):華やか&赤ベリー系」……といった具合だ。

 そして、15問の回答の傾向から、自分が好むカテゴリーのトップ3が表示される。筆者の場合、1位が「6番(R06):芳醇(ほうじゅん)なエレガント系」、2位が「7番(R07):豊満なまろやか系」、3位が「8番(R08):がっしり骨太系」となった。

 さらに、それぞれに関して「詳細を見る」のボタンを押すと、解説と共に、そのカテゴリーの系統に属する味わいのワインの一覧が表示される。赤ワインの6番の一覧を見ると、137銘柄がずらりと示された。つまり、それらの中からどれを選んでも、自分好みのワインを引き当てられる可能性が高いというわけだ。

 一覧は「価格が安い順」などに並べ替えることができ、各銘柄には好みの確率を示す「マッチ度」も92%などと提示され、検討する際のヒントになる。「カートに追加」のボタンを押せば同社のECサイトで購入でき、店内のワインセラーに在庫があれば買って帰ることもできる。

筆者の診断の結果画面(左画像)。赤ワインの13種のカテゴリーのうち、トップ3に「金・銀・銅」のマークと順位が右上に付く。その他のカテゴリーも下段にある星マークの数値で好みの程度が分かる。さらに「詳細を見る」を押すと該当する具体的な銘柄の一覧を確認でき、ECや店頭で購入も可能(右画像)。銘柄の左上にはマッチ度が表示される
筆者の診断の結果画面(左画像)。赤ワインの13種のカテゴリーのうち、トップ3に「金・銀・銅」のマークと順位が右上に付く。その他のカテゴリーも下段にある星マークの数値で好みの程度が分かる。さらに「詳細を見る」を押すと該当する具体的な銘柄の一覧を確認でき、ECや店頭で購入も可能(右画像)。銘柄の左上にはマッチ度が表示される

知識不要、ワインを“番号”で呼べる気軽さに若者が共感

 ただ、アルゴリズムの診断は理論値にすぎない。「本当に好みとマッチしているのか」と心配に思う人も多いだろう。そうした不安や疑問に答えるため、この店ではもう一つ特徴的なサービスを行っている。店内に24機のワインサーバーを設置し、カテゴリーごとに代表的な銘柄を有料で試飲できるシステムを提供しているのだ。

 試飲するには1枚275円(税込み)のコインを購入する。7枚セットは1650円(同)で1杯分が無料となる。サーバーの投入口にコインを入れてボタンを押すと、試飲用グラスに20ミリリットルが注がれる。それを飲んで、自分が好きな味かどうか、“答え合わせ”ができる仕組みだ。

試飲の際は、1枚275円(税込み)のコインを購入し、投入口に入れる
試飲の際は、1枚275円(税込み)のコインを購入し、投入口に入れる
24機あるワインサーバーのそれぞれに各カテゴリーの代表的な銘柄が配置されており、ボタンを押すと20ミリリットルが注がれる設計。2週間ごとに別の銘柄に入れ替わるため、常連になってリピートする楽しみもある
24機あるワインサーバーのそれぞれに各カテゴリーの代表的な銘柄が配置されており、ボタンを押すと20ミリリットルが注がれる設計。2週間ごとに別の銘柄に入れ替わるため、常連になってリピートする楽しみもある

 実際に来店した20代の若者たちは、診断結果のベスト3をひとまず飲んだり、逆にあまり好みではないと診断された系統の銘柄を試したりするなど自由に楽しんでいるという。「自分の好みと合っていると答える顧客は8割に上る。7杯飲んでも140ミリリットルなので、若い人でも気軽に飲める量。中には14コインを買って試す人もいる」(橋本氏)

 こうして診断結果の提供で終わらせるのではなく、実際に味わいを試すリアルな体験設計を組み合わせていることが、若者の心を捉える要因だ。ワインの世界に不慣れであっても、高確率で自分好みのワインを発見できる。これは、買い物で失敗したくない若者の心理を捉えた仕掛けでもある。

 また、ワインの味を番号で呼べる点も、支持される要因だ。wine@EBISU店内では、カップルや女性同士で来店し、「私は赤だと5番と6番」「僕は白では3番と7番」などと好みを言い合ったり、相手の好みのワインを試しに飲んでみて「自分とは好みが違う」と確認できたりする。

 そこではワインのうんちくも銘柄名、産地もほとんど語られない。聞こえてくるのは、“番号”と“好きか嫌いかの2択”の会話だけだ。「今まで小難しそうで手を伸ばしにくかった憧れのワインのハードルが一気に下がり、知識がなくてもトークが弾み、若者でも楽しめるものに転換することができた」(橋本氏)

 さらに、このワイン診断には注目すべき機能がある。銘柄ごとに、実際に飲んで感じた好みの度合いを5段階の星マークで評価できるのだ。この評価は裏側でAI(人工知能)が解析し、トップ3を含めて好みのカテゴリーが入れ替わったり、それに伴って一覧で提示するワインやそのマッチ度が変わったりする。

 すなわち、最初の診断で判定されたワインの好みを、その後、試飲して評価することで精度を高めている。理論値だけでなく、体験値も加味することで、より自分の好みのワインを探り当てることができるわけだ。

飲んだワインに点数を付けられる。診断結果で上位や下位となったカテゴリーや銘柄も、この体験値が加味されることでチューニングされ、順位や好みが入れ替わり、精度がより高まる
飲んだワインに点数を付けられる。診断結果で上位や下位となったカテゴリーや銘柄も、この体験値が加味されることでチューニングされ、順位や好みが入れ替わり、精度がより高まる

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