「売らない店舗」は売れるのか? 第8回

女性向けアパレル D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランド「SOÉJU(ソージュ)」を展開するモデラート(東京・渋谷)は、2018年のブランド創設時から「売らない店」を東京・渋谷に展開してきた。同店のKPI(重要業績評価指標)は来店の有無による顧客単価の増加額だ。既に店舗運営の固定費を上回る売り上げにつながっているという。また、オーダーメードスーツのFABRIC TOKYO(東京・渋谷)は事業拡大に実店舗が欠かせないと判断し、採寸を目的とした店舗の展開に踏み切った。先駆者の取材から導き出した3つのポイントで、売らない店のつくり方を学ぶ。

モデラート(東京・渋谷)は、2018年のブランド創設時から試着を目的とした「売らない店」を東京・渋谷に展開してきた
モデラート(東京・渋谷)は、2018年のブランド創設時から試着を目的とした「売らない店」を東京・渋谷に展開してきた

 「そちらの商品でしたら、こちらの商品との組み合わせもお薦めです」。来店客は店員に促されながら、次々と洋服を試着していく。およそ30分の来店時間の中で試したのは6~7着程度だろうか。購買意欲の高さがうかがえる。にもかかわらず、何も商品を手に持たずに店を後にした。だが、その表情からは、後ろめたさは全く感じられなかった――。

 東京・代官山の路地を入った一角にあるビルの2階に、SOÉJUの店舗はある。2階といっても、エレベーターなどに乗る必要はなく、道路から階段を上って直接入店が可能だ。同店は予約制のショールーム型店舗。来店客は事前にブランドのWebサイトから来店予約をして訪れる。店舗内には常時100型程度の商品が用意されており、来店時にはそれらの洋服を自由に試着できる。ショールーム型のため店内に販売用の在庫はない。気に入った商品があれば、後からネット経由で購入する。

 販売を目的としない店舗ではあるが、投資対効果はきちんと売り上げで測る。同店舗のKPIは試着人数、来店後のアンケートによる満足度、そして来店の有無によるLTV(顧客生涯価値)の上昇幅の3つだ。SOÉJUの商品は一般的なECサイトと同様に、ネットだけで商品を選んで買うこともできる。そこで、顧客データに来店経験をひも付けて、来店の有無で顧客の年間購入金額を比較し、店舗が売り上げ増加に与えた貢献度を測っている。「店舗を設ける固定費をLTVの増加額でカバーできれば、コストセンターにはならない」(モデラートの市原明日香社長)

 その差は歴然だ。「来店経験のある顧客は、年間購入金額が約2倍高い傾向がある」と市原氏は明かす。店舗への来店数は月間で数百人。割合としては、顧客全体の1割程度にとどまっているが、それでも「売り上げの増加額は、店舗の運営に必要な固定費を上回っている」(市原氏)。モデラートにとって、売らない店は事業成長に欠かせない要の1つになっているのだ。

成果を生む「売らない店」をつくる3つのポイント

 このようなきちんと売り上げにつながる「売らない店」をつくるうえで重要になるのが、「ECサイトを軸とした事業設計」「デジタルを活用した接客」「ECの売り上げにひも付くKPI設計」という3つのポイントだ。

 最初のポイントはECサイトを軸とした事業設計。FABRIC TOKYOの森雄一郎CEO(最高経営責任者)は「売らない店をつくるには、ECサイトで売り上げをつくることを前提とした事業設計が最も大切だ」と言い切る。FABRIC TOKYOはもともとECサイトから事業を開始した。店舗はあくまでEC事業の成長を加速させるための手段だ。売り上げは原則的にECサイトでつくり、売らない店はそれをアシストする存在と位置付けるように事業を設計すべきだという。

成果につながる「売らない店」をつくるには、「ECサイトを軸とした事業設計」「デジタルを活用した接客」「ECの売り上げにひも付くKPI設計」という3つのポイントを押さえることが重要だ
成果につながる「売らない店」をつくるには、「ECサイトを軸とした事業設計」「デジタルを活用した接客」「ECの売り上げにひも付くKPI設計」という3つのポイントを押さえることが重要だ

 モデラートの市原氏は「売らない店の本質は、購入を断るストレスからの解放」にあると言う。これは裏を返せば、購買の主導権は顧客が持つべきであるという思想が根底にある。ECサイトを主軸とした事業モデルは、この思想にぴったり合う。

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