「売らない店舗」は売れるのか? 第5回

「売らない店」の活用目的の1つに「広告宣伝」がある。商品・サービスの認知を高めることが目標になるが、結果的に売り上げに結び付くこともある。ごみ処理施設の開発を手掛ける島産業(香川県観音寺市)は生ごみを乾燥して処理する家電製品「パリパリキュー」を、東京・二子玉川にあるショールーム型店舗「蔦屋家電+(プラス)」に2019年から継続出展している。これが効果的に作用。かつて家電量販店では見向きもされなかったが、出展を機に売り上げが急増し、出展前後で販売台数は5倍超に増えた。

島産業(香川県観音寺市)は家電製品の生ごみ処理機「パリパリキュー」をショールーム型店舗「蔦屋家電+」出展することで、販売台数の増加につなげた
島産業(香川県観音寺市)は家電製品の生ごみ処理機「パリパリキュー」をショールーム型店舗「蔦屋家電+」出展することで、販売台数の増加につなげた

 蔦屋家電+は2022年1月14日、過去に展示した製品の中から、もっとも注目を集めた製品10点を選出する第2回「蔦屋家電+ 大賞」を発表した。同賞はAI(人工知能)による画像解析技術を用いて、蔦屋家電+来店者の店内の行動を分析。製品や出展区画の前で立ち止まり、体験した人数の多さなどのデータを基に選んでいる。20年1月2日~2021年10月31日の期間中に展示された179点が対象だった。

 選ばれた製品の1つがパリパリキュー(税込み4万9500円)だ。家庭で出た生ごみを乾燥させ、まるで枯れ葉の様に加工する家電製品で、乾燥させることで腐敗と悪臭の発生を防ぐ。同時に量が大幅に圧縮されるため、ごみを捨てる頻度が減り、環境負荷の低減につながる機能と価値を併せ持つ。乾燥させた生ごみは有機質肥料としての再利用も可能なため、観葉植物の育成や家庭菜園などにも役立つ。

パリパリキューで生ごみを乾燥させると、腐敗と悪臭の発生を防ぐうえに、量が大幅に圧縮される
パリパリキューで生ごみを乾燥させると、腐敗と悪臭の発生を防ぐうえに、量が大幅に圧縮される

 「SDGs(持続可能な開発目標)」への意識が高まる中、環境負荷の低減につながる新たな家電製品が注目を集めて、選出につながった。そう考えるのが普通だろう。たしかに結果論としてはその通りだ。だが、蔦屋家電+に出展する前のパリパリキューは、家電量販店の棚の隅にひっそりと置かれ、消費者から見向きもされなかった。

開発背景は美しくても、注目されない

 「家庭向け生ごみ処理機の市場が隆盛したのは90年代後半のこと。2000年に入ると、徐々に市場は低迷。2010年ころにはほぼうまみのない市場になっていた」

 パリパリキューを開発する島産業の商品開発グループの藤田晃男次長はこう語る。にもかかわらず、島産業がパリパリキューを開発し続けるのは、本業で感じた社会課題の解決への熱意によるもの。同社はもともと、ごみ処理施設の開発などを請け負うBtoB(企業向け)事業者だった。だが、ごみ処理事業に携わる中で、焼却に無駄が多いことに気付く。「重量比率では4割が生ごみ。生ごみの含水率は8割で、ほとんど水を燃やしているような状態だ。そこで燃やしやすくするために、事前に乾燥させる。ここでも燃料を使っている。極めて非効率だった」と藤田氏は指摘する。

 この状況を少しでも改善して、環境負荷を下げたい。そうした思いから、初代「パリパリキューブ」を開発し、13年に後発で参入した。その最新モデルがパリパリキューだ。開発ストーリーは美しい。だが、実際に耳を傾けてくれる消費者は少なかった。「生ごみ処理機は、他のキッチン家電製品に比べれば購入の優先度が低い。家電量販店では目立つ位置には置かれず、そもそもどこにあるのかも分からない。単に棚に並べただけでは、開発者の思いも何も伝わらない」(藤田氏)。

家電量販店のポップアップストアでは売れず

 過去には家電量販店で、販促を目的としたポップアップストアを展開したこともある。だが成果は芳しくなかった。「そもそも、ごみ処理機にどんな価値があるかを知っている人が少ない。販売員も使ったことすらないため、価値を正しく説明できない。そのような状況でお買い得さだけを訴えかけても、来店者は見向きもしてくれない」(藤田氏)。商品を売り込む以前に、生ごみ処理機の啓発活動をして、需要を創出することがパリパリキューにとってのマーケティング課題だったわけだ。

 打開策として目を付けたのが、蔦屋家電+だった。蔦屋家電+は売ることを主目的としないショールーム型店舗。限られた出展商品が並ぶため、人の目に触れやすい。また、他の売らない店と同様に接客に重きを置いている。店舗のスタッフが事前に出展企業の商品・サービスについて学習し、接客を通じて、しっかりと伝えていく。売ることを目的としないため、来店者は「買わされる」という強迫観念にかられることも少ない。興味を持った商品について好奇心を満たすために、気軽に話を聞いてもらえることが期待できる。

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