「売らない店舗」は売れるのか? 第1回

販売を目的としないショールーム型店舗、通称「売らない店」が国内でも増えている。直近では大丸松坂屋百貨店や高島屋といった百貨店が相次ぎ参入し、小売りの新たな業態として注目を集めている。出展企業としては売らない店とはいえ、利用料に見合った投資対効果を求めたくなるのが本音だろう。売らない店は果たして“売れる”のか。本特集では主要な6店舗を徹底比較。3つの活用法から、その実力を問う。

国内でも増えている「売らない店」。マーケティングチャネルとしての実力を徹底比較した
国内でも増えている「売らない店」。マーケティングチャネルとしての実力を徹底比較した

 大丸松坂屋百貨店が2021年10月、大手百貨店で初の売らない店「明日見世(あすみせ)」を開始。米ニューヨーク発エンターテインメント型の売らない店で知られる「SHOWFIELDS」が22年秋頃、東京・原宿表参道エリアに日本1号店をオープン予定。高島屋が22年4月にトランスコスモスと共同で「売らない店」に参入。ベータ・ジャパン(東京・千代田)が米b8ta(ベータ)から日本事業における商標権とソフトウエアを独占的に取得し独立――。

 この1年間で売らない店に関する発表が相次いでいる。直近では百貨店の参入が目立つ。売らない店とは、すなわち売ることを主目的としないショールーム型の店舗を指す。商品・サービス、ブランドの特徴やストーリーを伝えたり、実際に商品を触って品質などを確かめてもらったりすることが目的だ。

 来店者は陳列されている商品の説明を受けても購入の選択を迫られることがないため、気軽に立ち寄って興味のある商品を見て、触れられる。店員も売ることに切迫感を抱かずに接客ができる。結果的に来店者は本当に欲しい商品を吟味して、後からネットなどで購入できるため、優れた購買体験につながるという発想の下で生まれた。

売らない店の本質は「購入を断るストレスからの解放」

 売らない店の本質的な価値とは何か。この問いに、アパレルブランド「SOÉJU」を展開するモデラート(東京・渋谷)の市原明日香社長は「購入を断るストレスからの解放だ」と答える。同社は2018年のブランド創設時から自社で東京・代官山に売らない店を構えて、顧客を増やしてきた。売らない店を展開する理由を市原氏は「店員におだてられて購入したものの、帰宅後に冷静になって買ったことを後悔するような購買経験をなくしたい」と説明する。

アパレルブランド「SOEJU」を展開するモデラート(東京・渋谷)は、ブランド創設時から東京・代官山に売らない店を常設している
アパレルブランド「SOEJU」を展開するモデラート(東京・渋谷)は、ブランド創設時から東京・代官山に売らない店を常設している

 洋服店で試着を促されても、購入しなかった場合のことを考え、引け目を感じて断った経験は誰にだってあるはずだ。商品・サービスを薦める立場である販売員の視点に立てば、顧客の体験価値よりも売り上げ目標が先立ち、本心とは異なる商品を薦めることもあるだろう。顧客と販売員、双方にとって好ましい購買・接客体験ではない。

 SOÉJUの店舗は予約制。予約した時間内で気になる商品を好きなだけ試着してサイズや品質を確かめてから、欲しい商品があれば自分でネットから購入できる。「これまで思い込みで似合わないと思っていたような商品でも、断るストレスがなければ気軽に試せる。そうして、ファッションに対する価値観の幅を広げたい」と市原氏は言う。

新興ブランドをネットに奪われる小売店

 一方、商業施設の視点で見れば売らない店は、ブランド開拓の一手として期待が大きい。「実店舗における来店者数が減少する中、在庫を抱えて、販促施策を入店するブランドやメーカーに準備してもらう従来型の商売は成り立たなくなることは、もう数年前から見えていた」。高島屋子会社のタカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマース(TTIC、本社シンガポール)の川口貴明CEO(最高経営責任者)はこう危機感を募らせる。取引先のブランドの店舗を常設し、在庫を置いて販売する従来型の事業モデルでは取引先の開拓が難しくなっている。

 EC市場の勃興はブランド開拓という面でも、既存の小売業者にとって頭痛の種だ。大手ECモールの販売力は高まり、出店企業は増加の一途をたどる。さらに「BASE」や「Shopify」といった低コストで誰でもECサイトを開設できるサービスが登場。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)と呼ばれるネット発の新たなビジネスモデルが勃興しているのは、低コストの無店舗型で展開できるネットのインフラが整ったことも大きな理由の1つだ。

 規模は小さくとも消費者から支持される魅力的なブランドを誘致できなければ、店舗の常設が可能な資本力のある同じようなブランドばかりが入居するようになり、商業施設間の競争力も失われかねない。そもそも百貨店は「出店していただける魅力的なブランドが集まらないことには続かないビジネスだ」(大手百貨店幹部)。とはいえ、知られざる魅力があったとしても、まだ資金力のないD2Cブランドを多数集めることは難しいというビジネス構造上のハードルがあった。

 だからこそ、強みを持つ店舗の事業モデルの改革に着手し始めた。実際に商品を見て、触れる体験価値はリアル店舗ならではだ。「出店者にとって一番の足かせになるのは在庫を店頭に持つこと。さらに販売員として、人材を4~5人出していくというところは耐えられないような状況にだんだんなっている。出店における2つの大きな課題を切り離すには、ショールーム型店舗しかなかった」(川口氏)。安価で活用可能な売らない店の展開で出展ハードルを下げ、多様なブランドの誘致を狙う。

 売らない店は消費者、出展者、商業施設にとって三方良しのビジネスモデルとして期待されている。出展企業が有効活用する場合、まずは出展目的を決め、効果を測定するKPI(重要業績評価指標)を定めることが重要だ。複数の出展企業への取材から、売らない店の活用目的は「売り上げ増」「広告宣伝」「テストマーケティング」に3分類できることが分かった。

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