2022年4月4日発売の「日経トレンディ2022年5月号」 ▼Amazonで購入する では、「老いない食事&ゆるトレ」を特集。老いに効くかもしれないとして、海外の富裕層を中心に「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」を配合したサプリメントの愛用者が急増している。日本でも、2020年3月に厚生労働省の非医薬品リスト入りをきっかけに火が付き、企業の参入が相次いでいる。

※日経トレンディ2022年5月号より。詳しくは本誌参照

日本で広がりを見せる「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」を配合したサプリメント
日本で広がりを見せる「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」を配合したサプリメント
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 30粒ほどで数万円もするサプリメントが今、老いに“効く”かもしれないとして、米国や中国の富裕層を中心に愛用者が急増している。そのブームが今、日本にも波及し始めた。

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 NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)を配合したサプリがそれ。帝人グループのNOMONが2019年にNMNサプリ「NADaltus(ナダルタス)」を商品化。「発売から3年目で、売り上げは当初に比べて約10倍に伸長した。購入者の中心は、健康意識が高い40代以上のビジネスパーソンやアスリートで、多くが10回以上継続購入」。社長の山名慶氏はこう話す。

 日本でNMNブームに火が付いたきっかけは、厚生労働省が食薬区分の見直しを20年3月に実施したことにある。NMNが、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」、つまり非医薬品リスト入りした。

 これによりサプリや化粧品など、NMNを配合した様々なエイジングケア商品を、メーカーが展開しやすくなったわけだ。当初はミライラボバイオサイエンスなど2社程度だったNMNサプリを手掛けるメーカーは、直近では80社に増加。日清ファルマの他、ブレインスリープのようなスタートアップ企業の参入も続く。

 健康食品受託メーカーの受注素材人気調査(健康産業新聞が実施)でも、21年下期には数年首位だった乳酸菌を抜いてNMNがトップに躍り出た。市場規模はさらに拡大する見通しであり、今後ますます注目度を増しそうだ。

抗老化効果が確認され一躍注目

 世界で注目され始めたのは、米ワシントン大学の今井眞一郎教授らが16年に発表した研究結果がきっかけ。生後5カ月のマウスに1年間NMNを飲ませたところ、エネルギーの代謝が高まり、臓器の機能低下を抑えるなどの抗老化効果が確認されたのだ。

 人への臨床試験も進み、より具体的な抗老化の効果も解明されつつある。例えば前出のワシントン大学の研究グループは、血糖値を調整するインスリンの働きがNMNにより改善されたことを21年4月に科学誌『サイエンス(オンライン版)』に発表。大阪大学と帝人が行った共同研究でも、フレイル(心身の衰え)を伴う糖尿病患者がNMNを摂取すると、歩行速度がアップすることが分かった。東京大学と三菱商事ライフサイエンスも21年6月、高齢者の運動機能の一部がNMNで改善されたことを学会で発表している。

 NMNのメカニズムが明らかになったのは近年のことだ。NMNはビタミンB3から作られる成分の一種であり、もともと生物の細胞に存在し、自然に生成される物質だ。母乳にも含まれている。NMNは体内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という、人が生きていく上で欠かせない補酵素に変換される。NADはすべての細胞のエネルギーを作る際のスイッチ役を果たしているのだ。加えて、老化や寿命を制御するサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)が活性化し、老化の制御に働くと考えられている。

 重要なのは、加齢とともに体内でNMNを生成する力が衰えてNADが減少し、結果として老化が進む可能性があること。「NADは50代で20代の半分ほどになるといわれている」(山名氏)。つまり、NADを体内に補えば、老化を抑え込める可能性がある。

 ただしNADは、そのまま摂取しても人体には吸収されない。補うには、変換前のNMNの形で取る必要がある。NMNは、枝豆やブロッコリーなどの食材にも含まれるが微量だ。サプリ1カプセル分に当たる125ミリグラムを摂取するためには、エビなら5000尾を食べる必要がある。現実的にはサプリで取るしかない。

低廉化に向けて光明も差す

 課題は低価格化だろう。NMNは大量生産が難しく、1粒当たり数千円するものもあり、目安となる1日2粒(250ミリグラム)を取るとなると、高い場合で月額のサプリ代が20万円を超えてしまう。ただ、市場拡大が見込めるとあって、ここにきて中国企業の原料サプライヤーが急増している。また、NMNの生産をしやすくする新たな乳酸菌も発見。静岡大学の吉田信行准教授の研究グループは、大阪ソーダなどとの共同研究でNMNを生産する乳酸菌の存在を突き止めた。菌体内外にNMNが分泌され、果糖によって生育も良くなる特性があるという。 乳酸菌であることを生かして、一般食品に展開する可能性も出てくる。このように、量産化に向けて光明が差し込んでいる。

 一方で、薬のような厳格な基準がないことから、製造工程や安全性試験の実施の有無などについて疑問視する声も一部で上がる。品質の担保も課題だ。

 「将来、ビタミンC商品のように、日常的に誰にでも買える価格帯を目指す」と山名氏。サプリで手軽に老化を抑えて暮らすことが当たり前の日が来るかもしれない。

注)老いない食事やゆるトレの具体的な例は、「日経トレンディ」2022年5月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版でご覧いただけます。
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