今治タオルで有名な愛媛県今治市の染色メーカーが、異業界で話題となりヒットを飛ばしている。タオルの染色時に生じる綿ぼこりを着火剤として商品化し、キャンプ好きの心をつかんだのだ。廃棄物を生かすアイデアがどう生まれたのかなど、ヒットの要因を聞いた。
日本有数のタオル産地、愛媛県今治市。その地名を冠した新商品が話題を呼んでいる。その名も「今治のホコリ【着火剤】」(以下、今治のホコリ)。タオルの染色工場で発生する綿ぼこりを活用した着火剤だ。これを使うと、ファイヤースターター(火打ち石)を使った火起こしが簡単にでき、ライターでの着火に比べてより非日常感を味わえるとキャンプ好きの間で話題に。2022年2月の発売以来、月間売り上げは当初の20倍以上に伸びている。
「ここまでのヒットは予想外」と語るのは、同商品の生みの親で、自身もキャンパーでたき火愛好家だと語る西染工の福岡友也商品事業部長。廃材を活用するサステナブルな商品は時流に合い、発売前からさぞ社内の期待値が高かったのかと思いきや、「期待値はまったくのゼロだった」(同)と打ち明ける。
西染工は、創業70年の老舗染色会社。近隣のタオルメーカーの依頼を受け、タオルの染色を担ってきた。高温の染液に生地を浸し、機械乾燥して色を定着させる染色は、大量のエネルギー資源を必要とする産業。同社は約20年前から環境負荷を減らそうと取り組み、「配管を断熱材で覆う」「熱効率のいい機械を導入する」、などの省エネ策をとってきた。商品開発の傍ら、代表の下、その推進役を担当してきたのが福岡氏だ。ただ「大規模な設備投資以外にできることはやり尽くした状態で、近年は手詰まり感が強まっていた」(同)という。
地球環境保護につながる別の切り口はないか。目に留まったのが工場の片隅に置かれてきた袋詰めの綿ぼこりだった。染色したタオルを乾燥させると、乾燥機のフィルターには綿ぼこりが付着する。同社の場合、その量は1日当たり120リットルのごみ袋2つ分(240リットル)に及び、当然、廃棄費用も発生していた。
綿ぼこりは、たまると電気系のショートなどで、工場火災を誘引する染色工場の“やっかいもの”。だが、その特徴から「ふと、その燃えやすさを生かし、着火剤を作れないかと思いついた」(同)という。
キャンプでたき火をする際、ファイヤースターターで火を起こすには、火花を燃え移す「火口」が必要。同氏は趣味のキャンプでほぐした麻ひもを火口として使ってみたが、一度では着火しないことも多かったという。ところが試しに綿ぼこりを火口にすると、拍子抜けするほど簡単に着火できることが判明。検証を重ねると、10gの綿ぼこりがあれば、5分程度は燃焼し続けることも分かった。炭に着火させる場合、着火剤は5分程度燃焼し続ける必要があるが、綿ぼこりはその条件もクリアしていた。
市販の着火剤には化石燃料が含まれ、見た目も黒や茶色など地味なものが大半。それに対し、今治タオルの染色時に出る綿ぼこりは綿100%で、色もカラフル。さらに、本来はすべて捨てるものを、そのまま生かせる。「従来品と差別化できるポイントが多く、『これはいける』と確信した」(同)。社内からは「『廃棄物を商品にするなんて』と大ブーイングを浴びた」が、綿ぼこりの優位性を考え商品化にこぎつけた。
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