苦境に立たされるローカルスーパーも多い中、佐賀県の「ファインズたけだ」はTikTokなどあらゆるSNSを駆使し、集客に成功している。“日本一面白いスーパー”のキャッチフレーズを掲げる同店が、なぜ動画配信を始めたのか、その狙いと戦略に迫った。

佐賀県伊万里市にあるローカルスーパー「ファインズたけだ」。SNSを活用し、遠方からも客を集めている
佐賀県伊万里市にあるローカルスーパー「ファインズたけだ」。SNSを活用し、遠方からも客を集めている

 方言や替え歌を駆使し、その日のおすすめ総菜を熱く語る店内放送、勝ったら半額シール、負けても3割引きシールを店員が貼りまくる赤字必須のじゃんけん大会……。SNSに上がったコミカルな動画の中には、再生回数250万回を記録したものも。投稿者は、“日本一面白いスーパー”とのキャッチコピーを掲げる、佐賀県伊万里市のローカルスーパー「ファインズたけだ」だ。長男で社長の竹田智史氏、次男の副社長・温史氏が二人三脚で制作する動画が人気を呼び、「店を見たい」「兄弟に会いたい」と遠方からもお客が訪れる事態となっている。

 智史氏は同店の三代目。動画配信を始めたそもそものきっかけは、当時社長だった母が、町の商工会の会合で店のネット対応の遅れを指摘されたことだった。「母に頼まれ、長年放置していたFacebookをのぞくとビジネスページが乱立しており、『スーパーたけだ』や『たけだストア』など誤った店名が同住所に並立していたり、営業時間や定休日も不正確だったりというありさま。正しい情報を発信する必要性を痛感した」(智史氏)

 ホームページを整備する一方、動画配信を始めたきっかけは、以前から同店が地元ケーブルテレビの「お買い得情報コーナー」に生出演していたことにある。店内に常時テレビモニターとハンディーカメラがあり、基本的には智史氏が進行役、温史氏がボケといった立ち回りで毎回モノマネをして登場し、その日のお買い得品を紹介するなどしていたというが、時々行われるロケでは、地域のお祭りに行ってインタビュー役を務めたり、じゃんけんをして商品券を配ったりして、大いに好評を博してきた。「このノリを動画配信にできたら面白いし、セールの告知もできて一石二鳥だと感じた」(同)

 スーパーマーケットが行う動画配信というと、商材を活用できる料理レシピ紹介などが思い浮かぶ。実際に同店でも数回、制作して投稿したが、料理レシピ専門投稿サイトの動画に比べ、クオリティーが見劣りするのは否めなかった。「安易に料理レシピに手を出すより、当店の強みでもある『面白さ』に特化した動画の方が、再生回数を稼げるだろうと考えた」(同)

 「生来の出たがり」という温史氏がネタ作りとパフォーマー役を、「従業員研修用の動画を撮影した経験がある」智史氏が撮影、編集、投稿作業を担い、まずは2018年6月から、YouTubeでの配信を開始。テロップや効果音の入れ方、BGMの選び方などは「人気YouTuberの動画を見まくり、手探りで学んだ」(同)。その後、TwitterやInstagram、Facebookなど、あらゆるSNSに手を広げ、動画投稿を続けた。

 地道な努力を続ける中で、投稿が初めて「バズった」のは、2年後の20年10月。智史氏の特技を生かしたブレイクダンスの動画をInstagramに投稿すると、スーパーの社長が店内でキレのあるダンスを踊る意外性が視聴者の心を掴み、フォロワー数が400人から一気に5000人まで増加。同動画の累計再生回数は現在61.8万回を突破し、フォロワー数も2.5万人にまで増えている。

当時大ブームとなっていた「鬼滅の刃」の人気キャラクター・我妻善逸風の衣装を着用し、ブレイクダンスを披露した動画は、コンテンツ自体が流行していたという後押しもあり拡散された
当時大ブームとなっていた「鬼滅の刃」の人気キャラクター・我妻善逸風の衣装を着用し、ブレイクダンスを披露した動画は、コンテンツ自体が流行していたという後押しもあり拡散された

 さらに20年11月には、TikTokの公式アカウントも開設。エプロン姿の温史氏が替え歌を交えつつお薦め商品を店内放送する動画が面白いと注目を集め、22年1月に投稿した動画の再生回数は現在250万回を突破。フォロワー数も5.7万人を突破し、「周辺の観光がてら、副社長のマイクパフォーマンスを生で見たい」「楽しい雰囲気を味わいながら、実際に買い物してみたい」と、隣県など遠方からもお客がやってくるようになった。

アニメ「ドラゴンボール」の主題歌「摩訶不思議アドベンチャー」の替え歌を歌い、温史氏と店員が2人でセールの宣伝をする動画が、TikTok上で再生回数250万回超えを記録した
アニメ「ドラゴンボール」の主題歌「摩訶不思議アドベンチャー」の替え歌を歌い、温史氏と店員が2人でセールの宣伝をする動画が、TikTok上で再生回数250万回超えを記録した

TikTokの“バズ”効果でEC販売が好調に

 現在、配信頻度は、YouTube用の10分程度の動画が月1回、その他のSNSに投稿する数十秒~数分程度の短い動画が週3回程度。「同じ動画を投稿しても、特に視聴回数が伸びやすく、いいねやコメントも付きやすい」(同)と感じているのはTikTokだという。「視聴回数を最大限に増やすため、TikTokのフォロワーが最もアカウントを視聴している確率が高いとされる、平日の18時や、金曜日の夜などに投稿するよう心掛けている」(同)

YouTubeでは長尺の動画も投稿。現在のチャンネル登録者数は1.15万人となっている
YouTubeでは長尺の動画も投稿。現在のチャンネル登録者数は1.15万人となっている

 撮影、編集、アップロードまで含めると、YouTube動画1本当たりの制作に6時間程度費やすこともあるという。ただ、動画投稿の目的は、あくまでファインズたけだのファンを増やすこと。「スーパーは商品を売る場所であると同時に、『安心を売る場』でもある。私たち兄弟が店のキャラクターとなることで、『この店だから・この人だから買いたい』と感じるファンを増やせるのが動画活用の最大のメリット。大手のように、価格の安さ・品ぞろえの豊富さを訴求ポイントにすることが難しい中小スーパーにとって、動画活用は販促のための有効な戦術になりうる」(同)

 この先、特に力を入れたいのは、遠隔地のお客も取り込むことが可能なEC販売。以前から同店では、全国の中小スーパーが参加する「味の直行便」というカタログギフトを取り扱ってきたが、動画配信開始以来、同ギフトの販売数が増加傾向。22年夏の中元ギフトは、これまでで最高の約600件を受注し、参加600店舗余りの中で1位となった。「ウェブ経由の注文者の大半は地元以外の人。当店のSNSのフォロワーは店がある九州圏より、関東圏の方が多い。動画を通じて当店のファンになってくれた遠方の方が、お中元を購入してくれたと考えている」(同)。22年冬からはエプロンなど、同店のオリジナルグッズを販売するECサイトも開始した。今後はトートバッグなどの新商品も展開していく予定だという。

 フォロワー数やいいねの数は、EC販売に必須の“信用”を表す一指標になりうる。「最近は、海外からのフォローも目立つ。外国人フォロワーをより増やすため、コミカルな動きだけで笑いを取れる動画も一定数投稿するようにしている。ファインズたけだのファンを世界中に増やすことを目標にしていきたい」(同)

(写真提供/ファインズたけだ)

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