新型コロナウイルス禍で猫を飼う家庭が増える中、猫の爪切りの負担を減らす“マスク”が累計販売数2万枚を超えるヒットを記録。販売する岩手県の企業を取材し、猫用品専用ブランドというジャンルで成功した秘密に迫った。
コロナ禍の今、世は空前の猫ブームだ。日本国内で飼育されている猫の数は、2021年は前年比6%増の約894万6000頭(ペットフード協会)となった。関西大学の宮本勝浩名誉教授は、猫による経済効果・通称「ネコノミクス」が、22年は1兆9690億円にのぼるとの試算も発表している。
そんな中、ユニークなグッズとして愛猫家から注目を浴びているのが「もふもふマスク」(税込み2365円)だ。面ファスナー(マジックテープ)で簡単に着脱でき、猫の目元をすっぽりと覆うこのマスクは、目隠しをするとおとなしくなる猫の習性を生かした爪切り補助具。猫用品のオリジナルブランド「nekozuki」を展開する盛岡市のクロス・クローバー・ジャパンが販売している。商品化は15年だが、コロナ禍の20年以降に急激に売り上げを伸ばし、コロナ禍前と比べると154%の伸びを記録。20年度にはグッドデザイン賞も獲得し、これまでに累計2万2000枚を販売した。
猫の飼い主にとって、爪切りの手間は意外に大きい。木や壁に登る際などに爪を立てるため、爪の伸びすぎを自然に防げる外飼いの猫と違い、室内飼いの猫は月1回程度、人が爪を切る必要がある。だが大半の猫はそれを嫌って暴れ、飼い主をひっかいたり、爪をカーテンなどにひっかけて自身を傷つけたりするという。「『もふもふマスク』を使うと猫の興奮が抑えられるため、簡単に爪を切れるケースが多い。新たに飼い始めた人のほか、これまでは獣医師に爪切りを依頼していたものの、コロナ禍で来院を控えるようになった人などが購入している」と話すのは、同社代表の太野由佳子氏。「人生最初の写真も猫とのツーショット」という、生まれついての愛猫家で、05年に地元の盛岡市で猫関連商品の販売店をオープン。ただ「当時、仕入れて並べていたのは、見た目のかわいさが重視されたごく一般的な商品。猫のストレスを低減できる商品を求めて来店した人々の期待に応えられていない」(太野氏)ことに気づき、10年にnekozukiをスタートした。
「本来の習性に沿って暮らせれば、猫のストレスは減り、猫も飼い主もハッピーになれる」との考えをもとに、飼い主の声に耳を傾け、困りごとを解決する商品を企画開発する太野氏。“猫社員(自宅の飼い猫)”をモニター役に試作を重ね、これまでに香料無添加の猫砂や、傾斜をつけることでフードが中央に集まるため、高齢の猫でも食べやすくなる介護用食器など、オリジナリティーあふれる約30アイテムを商品化してきた。特に11年に発売した、猫の手術後の傷口を保護する「フェザーカラー」は、累計販売数4万8000枚を突破するヒット商品となっている。もふもふマスクについても、「爪切りを嫌って大暴れするため、動物病院で毎回麻酔を使わざるを得ず、体への負担が心配」という飼い主の切実な訴えを受け、開発を決めたという。
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