人口僅か約3500人の過疎の町・北海道厚沢部町が、にわかに注目を集めている。内閣府の一時預かり事業を生かし、2021年11月に開始した「保育園留学」のサービスに、「我が子を参加させたい」と都心部から応募者が殺到しているのだ。そこでサービスの運営会社、自治体、保育士に取材し、人気の理由に迫った。
北海道民ですらその名を知る人は少ない、人口約3500人の北海道厚沢部町。この町が今、都会の子育て世代の熱い注目を浴びている。2021年11月、町で唯一の認定こども園「はぜる」(19年開園)が「保育園留学」を開始するや否や、全国から月100件以上の申し込みが殺到。現在は80組がキャンセル待ちの状態だという。
保育園留学とは、未就学児のいる家族が1~3週間程度、厚沢部町に滞在する独自の取り組み。厚沢部町が19年から開始した内閣府の一時預かり事業を活用して、子供をはぜるに通わせ、大自然に触れながら過ごせる「暮らし体験型保育サービス」だ。プランには、町内の短期滞在者用住宅「ちょっと暮らし住宅」での宿泊と、野菜の収穫など食育体験プログラムも組み込まれている。
厚沢部町とタッグを組み、保育園留学のサービスを考案したのは、地域の特産品を消費者に届け、オンラインで生産者や事業者と交流できる事業「ふるさと食体験」を全国で展開するスタートアップ企業のキッチハイク(東京・台東)。同社代表の山本雅也氏が、21年7月に共働きの妻と子を伴い、ワーケーションとして3週間、同町に滞在したことがきっかけとなった。その経験から「自然にあふれたはぜるの保育環境は、教育意識の高い都会の親に確実に求められる」と考えた同氏は、滞在期間中に保育園留学の事業化プランをまとめ、町役場の政策推進課係長・木口孝志氏に提案した。
木口氏は築50年と老朽化していた町内の3つの保育園を統合し、はぜるの創設を担った現場担当者だ。保育園留学の企画書を見た瞬間、「これを実現しない理由はない」と直感したという。「はぜる、ちょっと暮らし住宅、食育体験プログラムはそれぞれ、『移住・定住者を町に呼び込む糸口になれば』との狙いからつくられた既存の制度。保育園留学はそれらを組み合わせるだけでスタートでき、建物や制度を新たにつくる必要が一切なかった」(同)
保育園留学が事業化するにあたって、町外の子供を次々受け入れることになるはぜるの保育士たちも、ちゅうちょはなかった。厚沢部町では近年子供が激減。「どん底を経て生まれた新しい園だけに、はぜるの保育士は前例にとらわれず変化にも強い。町民の入れ替わりが極端に少なく、入園から卒園までほぼ同じ顔触れで過ごす子供たちにとっても、新しい友達と過ごせる保育園留学はいい刺激になると、二つ返事で受け入れを決めた」(はぜる主任保育教諭・橋端純恵氏)
こうして、21年10月にはクラウドファンディングを実施。「保育園留学という全く新しい概念」(山本氏)の情報拡散とともに狙ったのが、地元の熱量を高めること。「保育園留学事業には、役場や保育園だけでなく、ちょっと暮らし住宅の管理会社、食育体験の受け入れ先の農家も関わる。クラファンで目標金額の500%に相当する150万円が集まったことで、『保育園留学は、よそ者の単なる思い付きではなく、多くの親が応援したくなる公益性のある事業だ』と理解され、関係者が一枚岩になれた」(同)
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