2022年4月29日に運行開始した近畿日本鉄道の観光特急「あをによし」。大阪難波、近鉄奈良、京都間を結び、半個室タイプのシートなど豪華な内装が特徴だが、リーズナブルな料金に注目が集まっている。なぜ低コストを実現できたのか、その秘訣を聞いた。
コアな鉄道ファンならずとも、「ななつ星in九州」などの豪華クルーズトレインに憧れる人は多いだろう。ただ、同列車の最低料金は1泊2日65万円からと高額(2022年10月~23年3月の場合)。もっと気軽にクルーズトレイン気分を味わいたい、という人の選択肢が「観光特急」だ。
観光特急は、展望車両を連結したり、内装に凝ったりするなど特別な車両を使用し、観光客向けに特化した特急を指す。通常の特急料金に、グリーン席代に当たる「特別車両料金」などを追加するだけで乗れるケースが大半で、利用客側の恩恵が大きいのも特徴だ。一方、鉄道事業者側は、自社路線の利用促進と沿線観光地への送客増加を期待している。乗る側・乗せる側のニーズが合致し、観光特急は近年、各地で増加傾向。観光や宿泊をプラスしたパッケージ商品も続々つくられている。22年4月29日には、大阪難波、近鉄奈良、京都間を約80分で結ぶ「あをによし」が運行開始。日本で初めて座席定員制有料特急や2階建て特急車両を導入するなど、「特急の近鉄」を自任する近畿日本鉄道の新たな観光特急だ。
近鉄は、13年に三重県伊勢志摩観光向けの「しまかぜ(大阪難波・近鉄名古屋・京都~賢島)」、16年に奈良県吉野観光向けの「青の交響曲(シンフォニー)(大阪阿部野橋~吉野)」を運行開始。両者はコロナ禍以前には予約困難なほど人気を博しており、あをによしはこれに続く、3つ目の観光特急となる。大阪と奈良を結ぶ阪奈特急と、京都と奈良をつなぐ京奈特急は現在も運行しているが、大阪・奈良・京都の三都市を乗り換えなしで結ぶ特急を近鉄が運行するのは30年ぶりのため運行ルートにも注目が集まっており、交通網としての価値も高い。週6日運行で、午前中に大阪難波を出発し、近鉄奈良経由で京都まで行き、その後、京都・近鉄奈良間を2往復し、京都から近鉄奈良経由で大阪難波に戻る。
まず想定する客層は、京都から奈良を目指す首都圏からの旅行者だ。「準備に3年半をかけた結果、偶然コロナ禍の、このタイミングでのスタートとなった。アフターコロナの国内客・訪日客の新たな需要を喚起したい」と同社広報担当者は意気込む。将来的には関西国際空港から入国したインバウンド客、特にミナミ周辺のホテルに宿泊後、すぐ近くの大阪難波から奈良や京都に行く主にアジア圏のインバウンド客も狙っている。
あをによし最大の特徴は、贅沢な空間構成。座席は1列+1列で配置する向かい合わせのツインシート(2人用)と、半個室タイプのサロンシート(3~4人用)で、全84席。同社の4両編成の通常特急に比べ、座席数を3分の1まで絞り込んだ。「奈良を好むのは、ファミリーというよりもシニアの夫婦や女性同士など。『旅慣れた大人』に訴求すべく、座席数を大幅に減らしてでもゆったりとした座席にこだわった」(同社)
内装のポイントは2つ。1つは「奈良への到着前から観光気分を盛り上げる」ため、正倉院の宝物に代表される、天平文化をデザインに取り入れたこと。車両のカラーリングは天平時代に最も高貴な色とされた紫で、先頭車両のエンブレムは正倉院文様の花喰鳥、デスクスタンドは瑠璃圷(るりのつき)、販売コーナーは正倉院の建築様式・校倉造がそれぞれモチーフになっている。
もう1つは、座席の座り心地の良さだ。座面は体と接触する一番上の部分が最も柔らかく、下に向かって徐々に硬くなる複層構造を採用。「腰を下ろした瞬間、包み込まれるような柔らかさを感じ、かつ長く座っても底つき感が出ないようにした」(同社)。約1年もの時間をかけて、座席を完成させたのは家具メーカーの相合家具製作所。また内外装のデザインを担当した、近鉄のグループ会社の近創も、ホテルや住宅など建築物のデザインを専門としている。「あをによしに乗ること自体を楽しんでもらうため、『電車っぽさ』を感じる要素は極力取り除こうと、鉄道の車両や備品を造っていないメーカーにあえて発注した」(同社)と語る。
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