絶滅危惧植物に指定されるラン科の多年草「アツモリソウ」。その一種であり、かつては長野県富士見町に数多く自生していた「ホテイアツモリ」を、地域住民が力を合わせて保護再生を進め、ついに2021年6月、苗の販売にこぎ着けた。一風変わった町おこしの全貌を聞く。

アツモリソウが咲いている様子
アツモリソウが咲いている様子

 山梨との県境に位置する長野県諏訪郡富士見町。2021年夏、人口約1万4000人のこの町に県全域から園芸愛好家が集い、2時間待ちの列を作った。お目当ては希少植物「アツモリソウ」の園芸品種の苗。16年前、町民が力を合わせた捜索で、自生株を発見。その保護再生を進めつつ、園芸種の繁殖法を確立して販売にこぎつけた「町の宝」だ。

 アツモリソウはかつて北海道から東海・北陸に至る日本各地で見られたが、生息域が激減し、絶滅危惧植物に指定されるラン科の多年草。その一種である「ホテイアツモリ」は富士見町内の釜無山系入笠山(以下、入笠山)に自生する固有種だ。「町内の野山の至る所に咲いていた」とされるが、1970年代以降、急速に数を減らし、近年は存在を知る町民も少なくなっていた。

 その花に光を当てたのが、国際園芸展示会「世界らん展」の実行委員の一人で町内在住の園芸店店主・中山洋氏だった。アツモリソウは、「タネの流通量が少ない」「発芽率が極端に低い」「開花まで平均7年」という栽培が難しい花。だからこそ愛好家の人気も高い。「アツモリソウの群生地だった入笠山は、現在一部がスキー場になっている。そこで閑散期の夏にアツモリソウの展示会を行い、にぎわい演出と自然保護の啓発を同時に行おうと考えつきました」。旧知の同業者や園芸家のつてをたどり、数少ない花のついたアツモリソウを全国から集め、2003年5月に展示会を開催。すると業界紙が「画期的取り組み」と報じ、1週間に約3500人が来場。その光景に目を見張ったのが、町職員の伊藤一成氏(現副町長)だった。

 当時、全国で市町村合併が推進される中、富士見町は住民投票で合併を否決した。町が埋没せず生き残るには、独自の魅力を際立たせる何かしらの活性化が必要。そう考えた町は、活性化のテーマを掘り起こす「新しいまちづくり係」を創設。同係に配属された伊藤氏はテーマ探しに奔走していた。「オフシーズンのスキー場に、これだけの人を呼べるアツモリソウの力に驚き、もし自生種が町内で発見されれば話題を呼び、活性化の格好のテーマになると直感。『増やして販売すれば、町がもうかる』とも考えました」(伊藤氏)

 だが「目先の利益を狙った安易な考え」(伊藤氏)に冷や水を浴びせる出来事が起きた。ある自然保護活動家が、中山氏の展示したアツモリソウを自生地で採取した野生種と勘違いし、「自然保護の名を借り、金もうけをした」と批判したのだ。後に誤解は解け、謝罪も受けたが、「絶滅危惧種を扱う難しさを痛感。一歩間違えれば、活性化どころか町の名を汚しかねないと襟を正しました」(伊藤氏)。

 アツモリソウを軸にした活性化のあるべき形を考えよう、との伊藤氏の呼びかけで、中山氏を会長に、町民、学校、民間企業(当時、町内で洋ランの人工培養事業を行っていたニチレイ)、自然保護団体、町からなる「富士見町アツモリソウ再生会議(以下、再生会議)」が発足。議論を重ね、3段階からなる行動計画を策定した。

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