インサイト創出術 第5回

缶ビールでありながら泡が立ち、広い間口でゴクゴク飲める「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」は、「こんな缶ビールを待っていた」とビール党をうならせたインサイト発掘型商品だった。この商品に確かな市場性があることの確認と、新奇性をアピールするポイントを探るため、リサーチは15回におよんだ。

「家飲みの缶ビールでも居酒屋気分が味わえたら……」というインサイトを突き大ヒット
「家飲みの缶ビールでも居酒屋気分が味わえたら……」というインサイトを突き大ヒット

 日経トレンディと日経クロストレンドが発表した「2021年ヒット商品ベスト30」で13位にランクインした「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」(アサヒビール)。フルオープンできるふたをパカッと開けると泡がムクムクと立ち上がる今までにない商品は、21年4月の発売以降、たちまち品薄になって一時休売となり、毎月数量限定で発売。22年3月29日発売分から泡立ちの改善やパッケージなどをリニューアルし、21年の5倍に当たる1290万ケースの生産体制も整えたところだ。発売2年目も期待がかかる。

22年3月にリニューアルした「生ジョッキ缶」CM
22年3月にリニューアルした「生ジョッキ缶」CM

 「泡が出る」「(ジョッキのように)ゴクゴク飲める」……、これまでの缶ビールにはないこの2つの特徴が、新型コロナウイルス禍で“外飲み”を控えざるを得なかった“家飲みビール党”に、「こんな缶ビールが欲しかった」と言わしめた。まさにインサイトを突いた格好の商品だ。

 このアイデアはどのようにして生まれ、思いつきで終わらせずにゴーサインを得て商品化、大ヒットにまで持っていけたのか。その背後には、15回におよぶ定量・定性調査の積み重ねがあった。

 ジョッキのようにゴクゴク飲むことを可能にするフルオープンエンドの缶ふたのアイデアは、11年の段階で存在していたという。生ジョッキ缶の商品開発をリードしたビールマーケティング部ブランドマネージャーの中島健氏が10年に営業から異動してきた翌年のこと。研究開発部門から、缶詰のように開けるフルオープン缶が製造可能という話が舞い込んだ。

 缶詰用のフルオープン缶は、缶を開けた後のエッジ部分がむき出しのためケガをしかねない。口をつけて飲むことを前提に、実用レベルの安全性を確保したことを受けて、その市場性についてデプス(1対1)インタビューで可能性を探った。

缶詰型フルオープン缶には無反応

 モニターを集めて試作缶を実際にフルオープンしてもらったものの、その反応は芳しいものではなかった。当時は泡を出す発想はなく、ふたを開けて目に飛び込んでくるのは金色のビールの液体。ワクワク感はなく、商品化の検討はこの段階でストップした。

 フルオープン缶のテストをしたことも忘れかかっていた6年後の17年、中島氏がモニターとデプスインタビューをした際に耳に残った言葉があった。「それでもやっぱり家で居酒屋みたいな感覚で飲めたらいいよね」――。「家飲みで感じる不満」について尋ねた際の回答だ。17年当時は、缶チューハイやハイボールなどRTD(レディー・トゥー・ドリンク)商品が普及し始めた頃で、家飲みの選択肢が増え、不満の声は上がりづらかったという。

 思えば発泡酒や新ジャンルの缶飲料はふたを開けてそのまま飲むことが多いが、缶ビールは冷やしたグラスに注いでおいしく味わいたい、そんなこだわりを持つ人は少なくない。やはり程よい泡立ち加減と、広い間口のグラス・ジョッキでゴクゴク飲めることがビールの味わいをより引き立たせるのだろう。家飲みで居酒屋環境をどこまで再現できるか――。

 そんな問題意識を持つのと相前後して、缶ビールで泡を出せる可能性が見えてきた。

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