
販売部数42万部を誇る人気の定期購読誌「ハルメク」。ターゲットであるシニア女性からくみ取ったインサイトを特集企画や通信販売の商品開発に生かし、ヒットを連発している。インサイトの源泉になるのがハルメク読者を中心とした「ハルトモ」だ。約3700人ものモニター会員組織からシニア世代の心理をどう読み取るのか。同社のシンクタンク「生きかた上手研究所」の所長である梅津順江氏に話を聞いた。
右肩下がりを続ける雑誌市場の中で、躍進を続ける雑誌が「ハルメク」だ。一般の書店には並ばない定期購読の月刊誌ながら販売部数は42万部(2022年2月時点)で「女性誌No.1」。50代以上のシニア女性をターゲットにしたスマホ特集や終活特集、片付け特集などが人気だ。
ハルメクを発行する株式会社ハルメクは、ファッションやコスメ、ヘルスケア、食品、生活雑貨など、多岐にわたる商品を「ハルメク通販サイト」で展開している。通販事業は同社の売り上げの大きな柱の1つだ。雑誌を中心にウェブメディアやイベントなどと通販サイトや実店舗「ハルメク おみせ」を連係。多くのシニア女性の支持を得て成長を続けている。
ハルメクの快進撃を支えているのが、同社のシンクタンク「生きかた上手研究所」だ。ターゲットであるシニア女性のインサイトやトレンドをきめ細かく調査し雑誌やウェブサイトのコンテンツ作りだけでなく、通販での商品開発に生かしている。
インサイト調査のコアとなるのが「ハルトモ」だ。ハルメク読者を中心とした約3700人のモニター会員組織で、アンケートやインタビュー、座談会、商品体験などの調査を頻繁に行っている。「特に謝礼が出ないような調査でも、『企業の商品開発に関わることができる』『同年代の人と会えたり、自分の率直な意見を言えたりする』と喜びながら積極的に参加してもらえるのがハルトモの強み」と生きかた上手研究所所長の梅津順江氏は話す。インサイトを掘り起こすデプスインタビューで「自分でも気づかなかった一面を知り、自身や生活を新たに見つめ直す機会ができて本当に楽しかった」という声も多いという。
生きかた上手研究所のインサイト創出力には他社も注目している。例えば、眼鏡市場を展開するメガネトップは、ハルメクと共同開発したシニア女性向けの眼鏡「Igrace(アイグレース)」を2021年11月に発売。ハルトモのモニターが参加する座談会などを通して、フレームやテンプル(つる)に相手の視線を集めることで、たるみやシミ、シワが気にならないとするデザインを工夫した眼鏡を1年間の期間をかけて開発した。その他、人気ブランドである「ジュンコシマダ」とコラボした丸襟トレンチなど、シニア女性のインサイトをつかんだ新しい共同企画が次々と生まれている。
顧客調査の理解や予算もなかった
生きかた上手研究所が設立されたのは2014年4月。きっかけは、09年にいきいき(当時)の社長に就任した宮澤孝夫氏の「リアルなシニア女性像を理解したい」という狙いだった。「雑誌記事や商品の企画では、取材やインタビューを重ねてターゲットに向き合うことが理想の1つとされるが、ともすれば制作側の理論や方針を優先したプロダクトアウトになることもある。顧客であるハルメク読者の目線に合わせた雑誌や商品を作っていきたいという強い意志から、生きかた上手研究所が生まれた」(梅津氏)
ただ、化粧品業界やリサーチ会社でマーケティングや調査・分析に携わってきた梅津氏がハルメクに転職した2016年3月の時点では、現在のように調査体制が整っていたわけではなかった。「当時の社内は雑誌編集や商品開発など、目先の仕事に忙殺されてしまっている人がほとんど。社長が旗を振る消費者調査が大事ということは頭では理解しているけれども、研究所の存在にはやや冷ややかな態度だった」と梅津氏は振り返る。日々迫りくる締め切りに追われる人に「顧客調査をして、売れる商品が生まれるんですか?」と問われることもあったという。
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