
「消費者が潜在的に持っている欲求」と言われるインサイト。“顕在化されていないニーズ”ということは何となく頭で理解していても、その本質や具体的な調査方法までを説明できるだろうか。『「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』(宣伝会議)の共著者の一人であるデコム(東京・品川)の大松孝弘氏が、インサイトの基本と落とし穴について解説する。
「インサイト」とは何か。「消費者の無自覚な欲求」だったり、「消費者自身が気づいていない問題」、あるいは「消費者が諦めてしまっている問題」だったり、人によって定義や表現はさまざまですが、私は「人を動かす隠れた心理」と定義しています。人の心の奥底にあるさまざまな心理のうち、その人を動かしたり変化をもたらしたりするものです。消費者自身が問題として捉えていない隠れた欲求というのがインサイトの基本です。例えば、消費者からの要望やクレームは顕在化しているものなのでインサイトではありません。
インサイトがなぜ最近になって注目されているのか。背景にあるのは、ニーズ重視からインサイト重視へという時代の変化です。
かつては、わざわざ消費者調査をしなくても分かるような顕在化したニーズを解消するための高品質な生産体制や、商品を市場に届けるための高効率な流通網などがビジネスとして重要だった時代でした。しかし、1980年代後半ごろから多くの市場が成熟し、潮目が激変。どの企業のどの商品も表立った不満や課題がほぼなくなり、どれを買っても「だいたい良いんじゃないですか」という時代になったのです。
そうなると、商品の生産能力やサービスネットワークなどを基盤とした「卓越したオペレーション能力」をどれだけ持っていても、他社を凌駕(りょうが)するような競争力にはならない。開発の段階から消費者の隠れた心理であるインサイトをしっかりと捉えてアイデアを導き出し、商品化を進めていくということが重要になってくるわけです。
インサイトが注目されている背景には、マーケティングがデジタル化したことへの反動も影響していると考えています。技術の進化でデジタルマーケティングが活発化しているのはいいのですが、マーケティング戦略のフレームワークである3領域の「HOW(どのように認知させるか)」だけに注力しすぎて、「WHO(どんな顧客に)」や「WHAT(どんな価値を)」の部分がおろそかになっているケースが多く見受けられます。WHOやWHAT、すなわち「誰にどんな価値を伝えるのか」というインサイトの価値と定義がずれていると、結局は成果が頭打ちになってしまう。そうしたことにようやく気づき始めた企業がここ数年で増えている気がします。
探索と検証を繰り返してインサイトを掘り起こす
では、消費者のインサイトをどのように見つけ出すか。まず、調査の目的を「仮説検証」と「仮説探索」に分けて考えます。例えば「商品が売れないのはこうした理由があるからではないか」というような仮説が複数あり、そのうちのどれが最も正しいのかを検証するのが仮説検証。「なぜこの商品が売れないのだろう」といったように仮説を探し出したい場合が仮説探索です。
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